第102話:牛の化け物
他の盗賊はほとんどが倒され、残ってるのは俺の前方にいる男だけだった。
「残ってるのはお前ぐらいか? いい加減に諦めたらどうだ?」
「フンッ! その余裕がいつまで持つかな?」
「まだやる気なのか? お前1人で何が出来るんだ?」
「てめぇら如き最初からおれだけで十分だったんだよ。その舐めた態度……後悔させてやるぜ!」
そういって下がり始めた。
そしてスキルが発動し、地面が光った。
「まさかこいつを呼ぶことになるとはな……《召喚》!! ミノタウロス!!」
地面が光り現れたのは……大きな巨体だった。
「ブモォォォォォォォォォォ!!」
そいつは人型をしており、顔の部分が牛の頭になっているモンスターだ。
手には大きな棍棒を持っていて、それを軽々と担いでいた。
「ハハハハハッ! こいつはBランク程度なら葬れるぐらい強力なモンスターなんだぜ! てめぇらなんかこいつが居れば瞬殺出来たんだよ!」
「へぇ……まさかミノタウロスを召喚するとはな……」
「どうした? ビビったか? まぁ仕方ねぇよな! このぐらい強力なモンスターを召喚できるのは、エンペラーの中でもおれぐらいだからな!」
「ふぅ~ん……」
「命乞いをするなら今の内だぜ! ま、そんなことしても無駄だけどな! ハハハハハッ!」
確かにミノタウロスを召喚出来たのは予想外ではある。そこそこ強い部類だし、扱いやすいからな。
初心者が扱うならうってつけと言えるだろう。
「な、何あれ!? 牛の化け物!?」
「見たことないモンスター……! あれも召喚スキルで呼び出したの……!?」
「! なんだあいつ!? デカいぞ!」
どうやら皆もミノタウロスの姿に気づいたようだ。
「さぁどうする? 命乞いをすれば女共だけは助けてやらんこともないぞ? けどてめぇだけは許さねぇけどな!」
「な、なんですって!?」
「ここまでコケにされたら生かしておくわけにはいかねぇ! せめて女共だけでも手土産にして帰るぜ! その後はたっぷりと楽しませてもらうがな!」
「…………」
やっぱりというか……所詮、賊は賊だな。結局こうなるんだな。
最初から期待してなかったけどな。
「そこまで言われて黙っていられないわ! 盗賊なんかに捕まるなんてお断りよ!」
「だったら力ずくでも連れて帰るだけだ! 大人しくしていればケガせずに済むぜ?」
「嫌よ! そんなことさせないわ!!」
そういって弓を構える。
狙いはミノタウロスか。
「ほぉ。まさか倒すつもりなのか? 面白れぇ! やってみな!」
「言われなくても…………食らいなさい! 《ソニックアロー》!!」
スキルが発動して矢が放たれるが……狙いはミノタウロスではなかった。
その後ろに居る男に向かって矢が向かっていったのだ。
「甘い!」
しかし瞬時にミノタウロスが反応して動く。
そして矢が命中する寸前――
「……え」
ミノタウロスが棍棒を振って矢を弾いたのだ。
弾かれた矢は別の方向に飛んでいった。
「そ、そんな……あたしの矢が効かないなんて……」
「ハハハハハ! その程度か! そんなカスみたいな攻撃は通じねぇよ!」
「う~……」
悔しそうにするラピス。
そんな時にフィーネがラピスに近づいた。
「お姉ちゃん。私も手伝うよ! だからそんな落ち込まないで」
「フィーネ……」
「私と一緒なら勝てるよ。だからお姉ちゃんもがんばって!」
「……! そっか。まだ試してないあのスキルなら……!」
「うん!」
2人は顔を上げて相手の方を見つめる。その表情はやる気に満ちているように感じられた。
「あたしがあいつの動きを止めるわ! 後はフィーネがやっつけちゃって!」
「うん! やってみる!」
そしてフィーネは杖を掲げて詠唱を始めた。少し長めの詠唱のあのスキルはまさか……
少し経った後にラピスが弓を構える。
「そろそろ行くわよ! 《グラビポイント》!!」
そしてラピスから矢が放たれた。
矢はミノタウロスの足元に落ちてスキルが発動。
「ブモ……!?」
ミノタウロスは地面に刺さっている矢の位置に引き寄せられていった。
なるほど。あれで位置を固定しようとしたのか。その隙にフィーネのスキルを当てようとする作戦か。
しかし――
「だからそんな小細工は通じねぇんだよ!」
ミノタウロスは少し踏ん張った後、その場から難なく離れてしまったのだ。
「え……ええええ!? そんな簡単に脱出できちゃうの!?」
「あーすまんラピス。伝え忘れていた」
「……?」
「グラビポイントはある程度重量がある相手には効果が薄いんだよ。ついでに言えば大型モンスターにも基本的に通じないと思った方がいい」
「そ、そうなのね……」
これがグラビポイントの弱点だ。どんな相手にも通用するほど万能なスキルではないのだ。
大きいサイズの相手にも通じないことはないんだが、そういう奴は基本的に重い。
だから結局、大型モンスターには通じないことになる。
「お、お姉ちゃん……どうしよう」
フィーネの頭上には炎で出来た槍が形成されつつあり、あと少しで完成するところだった。
「あ……! えっと……もうそのまま当てちゃえ!」
「う、うん……行くよ! 《フレイムジャベリン》!!」
完成された炎の槍を投げ、ミノタウロスに向かって発射された。
だが――
「フンッ! そんなの食らうかよ!」
ミノタウロスはその場からあっさり退避。
そして炎の槍はミノタウロスの居た位置に命中して小爆発した。
しかしその場には誰も居るはずがなく、無駄打ちに終わるのであった。
「やっぱりダメかぁ……」
「うう……ごめんね……」
「いやいや。フィーネのせいじゃないわよ」
フレイムジャベリンは詠唱が長い上に、弾速がやや遅いのが欠点だからな。集中していれば割と簡単に避けられる。
「遊びは終わりだ! こっちからいくぜ! あの生意気なガキ共に痛い目に遭わせてやれ!」
「ブモォォォォォ!」
ミノタウロスが2人の方向に向いて動き出す。
そんな時だった。向かっていく進路上にリリィが飛び出してきたのだ。
「そうはさせない! アタシが相手だ!」
「リリィ!」
そしてミノタウロスはリリィに向かって棍棒を振り上げた。
リリィもそれを見て大剣を構える。
「まさか食い止める気なのか? だとしたら甘いぜ! ミノタウロスのパワーを舐めんなよ!」
棍棒はリリィに向かって振り下ろされ、リリィはそれを防いだ。
「ぐっ……お、重い……!」
「ほぉ! 止めたか! やるな! だが辛そうだなおい!」
「ま、まだ……このくらいで……諦めるもんか……!」
「無駄だぁ! その程度で勝てると思ったら大間違いだ! やれ!」
「……ッ!?」
ミノタウロスが力を入れた途端――
「あっ……!」
リリィの大剣が弾かれ、地面に落下した。
「う、嘘……リリィのパワーでもダメなの……!?」
「ご、ごめん……手が痺れた……」
「ハハハハハハ! だから言っただろ! 甘くみすぎなんだよお前ら!」
「う~……あいつ強いわ……」
経験詰ませようと思って任せていたんだが、さすがに荷が重かったか。まぁこれも一つの経験だな。
これだけ動ければ十分か。
「これで分かっただろ? おれだけで十分勝てるってことがな! 最初からてめぇらに勝ち目なんて無かったんだよ!」
「……そうか。ならそろそろ俺の出番だな」
「あん? まだ居たのか? とっくに逃げ出してたと思ってたぜ! ヒャハハ!」
俺はリリィの前まで近寄り、ミノタウロスを庇うように立った。
「お前らよくやった。後は俺に任せて下がっていろ」
「で、でも……まだ戦えるぞ!」
「いいから。元からあいつは俺が倒すつもりだったからな。気にしなくていい」
「…………分かった。じゃあ任せた!」
リリィは大剣を拾ってその場から離れていった。
「おいおい。本気か? 本気でミノタウロスに勝てるつもりでいるのか? だとしたら超がつくほどの大馬鹿野郎だな!」
相手が召喚スキルを使うのなら……こっちも同じ手でいくか。
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