第76話:死神の正体

 洞窟に入り、薄暗い中をひらすら進んでいく。

 俺とリリィが先頭で進んでいるが、後ろにはラピスが付いてきている。そのすぐ後ろにフィーネが付いていく感じになっている。

  

「さ、さぁどこからでも来なさい! あたしがやっつけてやるわよ!」

「お姉ちゃん……無理しなくてもいいから……」

「な、何言ってるのよ! 無理なんかしてないわ! あたしが守ってあげるからフィーネは後ろに隠れていいからね!」

「う、うん……」

  

 フィーネも少し怖がっていた気がするのだが、どうやら今は落ち着いている様子。

 これはあれだな。ラピスが怖がってる姿を見たせいで逆に冷静になったパターンだろうな。別の意味で不安になっていそうだ。

  

 そんなこんなんで、どんどん進んでいった。

  

 しばらく進んでいくと、奥のほうから気配を感じた。

  

「……止まれ」

「えっ!?」

「どうしたんですか?」

  

 俺が立ち止まると同時に皆も止まる。

  

「奥に何か居るぞ」

「!? 死神が出たの!?」

「……!」

「ついに出たのか!?」

  

 その場で警戒しつつ前方を凝視する。

  

 すると奥から黒いローブを身に纏ったスケルトンが姿を現したのだ。

  

『カカカ……また新たな贄がやってきたか……!」

  

 …………やはりこいつだったか。

  

「ひいっ! な、なにあれ!? ほ、本当に死神なの!? やっぱり人じゃなくて化け物だったんだわ……!」

「……ッ!」

  

 ラピスは脚が震え、フィーネもラピスにくっ付いたまま驚いていた。

  

『……ふむ。数が増えたから楽しめそうだと思ったが……足手まといの子供が2人もいるではないか。力の差も知らぬほど愚かなのか、それとも無謀なだけな阿呆なのか……』

「こ、子供ですって!?」

  

 恐らくラピスとフィーネのことを言っているんだろうな。

  

「失礼ね! これでも冒険者なんだから!」

『……どうやら両方のようだな。やれやれ……』

「う〜〜〜! あいつムカつくわ!」

「お姉ちゃん落ち着いて……」

  

 ついさっきまで怯えていたのにもう元気なってやがる。まぁ怖がっているよりマシか。

 そんなやりとりとしているとリリィが先頭に出てきた。

  

「あいつが悪い奴なんだな! じゃあアタシがぶっ飛ばしてやる!」

  

 大剣を手に取って突撃しようとするリリィ。

  

「いくぞ!」

「待て。リリィは下がっていろ」

「何でだ!? あいつをぶっ飛ばせばいいんだろ!?」

「いや。奴は俺がやる」

「……え!?」

  

 俺の予想が的中してしまったからな。さすがに今の3人には荷が重い。

  

「まさか1人で戦う気なの!? あたしも戦うわよ!」

「あいつは少しまずい。奴が持っている武器が見えるか?」

「え!? う、うん……」

  

 相手の手には大鎌が握られている。まさに死神というには相応しい武器だろう。

  

「あの武器は〝ソウルイーター〟と言ってな。それなり威力がある武器なんだ。問題なのはアビリティにある」

「アビリティ?」

「ソウルイーターにはな……即死判定が付いているんだ」

「そ、即死!? それってつまり……」

「そうだ。どれだけ防御力や耐久力があっても無意味だ。運が悪ければ一発であの世逝きなのさ」

「……ッ!?」

  

 ソウルイーターの厄介なところは即死判定にある。

 確率発動なので運が絡むが、厄介なことには変わりない。

  

「即死って……そんな危険な奴なの!? だったら戦わないほうがいいわよ!」

「逃げましょうよ! もしゼストさんが命を落としたら私……」

「大丈夫だって。奴の対策は知ってるから」

「でも……」

  

 不安そうに見上げてくる2人。

  

「俺だってお前を危険な目に遭わせたくないんだよ。さすがに今あいつと戦うのは早い。もう少し強くなってからだな」

「だったら……」

「俺を信じろ。あいつに負けるように思えるか?」

「「…………」」

  

 2人は互いに顔を見合わせる。

 そんな2人を無視してリリィが近寄ってきた。

  

「アタシが一緒でもダメなのか?」

「ああ。あのモンスターちと面倒なんだよ。俺一人のほうがやりやすい」

「そっか。なら任せた!」

「悪いな。皆は離れててくれないか」

「分かった!」

  

 言い終わると同時にリリィは離れていく。

 下がっていくリリィを見て、2人は遅れてその後に付いていった。

  

「ね、ねぇ。リリィは不安じゃないの? 即死しちゃう武器を持ってる相手なのよ? もしゼストが少しでもミスをしたら……」

「大丈夫だよ。だって強いもん。どんな相手でも絶対勝つさ!」

  

 笑顔でそう言い切った。自信たっぷりな態度だった。

 そんなリリィを見たお陰か、2人から不安な表情が消えた。

  

「……ええそうね。負けるはずがないわよね。死神相手でも倒せるに決まってるわ!」

「ごめんなさい。見たこと無いモンスターだったので不安になっていました。でも今までだってどんな相手でも勝ててましたもんね」

「そうよ。死神なんてぶっとばしちゃえ!」

「えっと……ぶ、ぶっとばしてください?」

  

 ラピスがリリィ風に言った後に顔を赤くして続けるフィーネ。

 律儀に真似しなくてもいいのに。

  

 ま、これであいつらの事は心配無いな。

 皆が離れたのを確認した後、俺は前へと進んだ。

 そして鎌を担ぐ死神に近づいた。

  

『別れの挨拶は済ませたのか?』

「んなもん要らねーよ。どうせ後で戻るんだ。死ぬのはお前だからな」

『カカカ! 威勢だけは良いな! 初めて遭遇する相手にも臆さず立ち向かってくるとは。その勇気だけは褒めてやろう』

「いや? そうでもないぞ? お前のことは知ってるぞ?」

『ほう?』

  

 死神風のモンスターはいくつか存在する。

 しかしソウルイーターを持ってる奴は1体しか居ない。

 奴の正体は――

  

「お前の名は〝ダークリッチ〟だな?」

『カカカカカカ! なんと! 余のことまで見抜いておったか!』

  

 やはりな。悪い予感が的中してしまった。

 死神と聞いて真っ先に思いついたのはダークリッチだった。だからもしかして思ったが……まさか本当に居たとはな。

  

『いかにも! 余は不死の王ダークリッチである! それを知りながらも戦いを挑むつもりなのか?』

「ああ。つーか何でこんな場所に居るんだよ。邪魔だろうが」

『ここで待っているだけで勝手に屍が積みあがっていくからな。こんなに愉快はことはあるまい』

「ふーん……」


 飛んで火に入る夏の虫……とでも言いたいんだろうな。確かに入れ食い状態だからそう思うのは無理ないか。


『それよりいいのか? 貴様だけで余に勝つつもりなのか? 全員でかかって来てもいいのだぞ?』

「いんや。俺だけでいい。その方がやり易いんでね」

『ふむ。何を企んでるのか知らんが、思い通りにいくとでも思っているのか? こちらからあの3人を襲ってもいいんだぞ?』

「それは出来ないさ」

『なぬ……?』

よ。そうだろ?」

『…………』


 答えない……か。

 図星だったんだろう。


『……フンッ。だが貴様を先に始末すれば同じこと。その後でたっぷり嬲ってやるわ』


 この反応を見るに、ほぼ間違いなさそうだ。

 ふーむ。このまま格闘で戦うのもいいが……剣のほうがやりやすいな。

 そう思いインベントリから剣を取り出した。

  

「ならさっさと始めようか。こっちも時間が惜しいんでね」

  

 さてと。死神退治の開始だ。

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