第22話:群がる商人
…………遅い。
「遅いわね……」
「うん……」
査定の結果を待っているが未だに終わらないみたいだ。
時間は掛かるだろうとは言っていたが……さすがに遅すぎじゃないか?
もう1時間は経過している気がする。ここまで遅いもんなのか?
「まだ終わらないのかな……」
「暇だわ……」
「ずっと座りっぱなしだもんね……」
そろそろ宿を取らないとまた部屋が埋まってしまう。それまでに帰りたいんだけどな。
いっそのこと、結果出すのは明日にしてもらえないだろうか。
さすがにこれ以上待ちきれない。
こっちから呼びに行こうかと思って立ち上がろうとした時だった。
「ちょっといいか?」
「ん?」
知らない男が話しかけてきたのだ。
「俺に何か?」
「もしかして君がグレートボアを倒したのかね?」
「まぁ一応」
「! そうか!」
何なんだこのおっさんは。
「ち、ちなみにどこに卸すのか決めているのかね?」
「へ? 卸す?」
「まさかまだ決めていないのか!?」
「い、いや。決めるも何もなんの話か分からないんだけど……」
「な、なら是非ウチに引き取らせてもらえないか!?」
「はい?」
話が見えてこない。
こいつは何を言っているんだ?
「わたしはクルーガ商会というものだ。君が倒したグレートボアをウチで買い取らせてもらえないか!?」
「は、はぁ? 買い取るって……なんで俺に聞くんだよ?」
「どうなんだ!? 答えてくれ!」
「おいおっさん! 抜け駆けすんなよ!」
おっさんの背後からまた別の男が現れた。
「な、なんだね君は!?」
「オレも同業者だよ。直接交渉するのはマナー違反だろうが!」
「う、うるさい! わたしが最初に駆け付けたんだぞ! 先に話しかけて何が悪い!」
「オレのほうが先に到着してたんだぞ! なら俺に譲れよ!」
「ちょっと! 私だってさっきから居たわよ!」
「ボクだってずっとここに居ましたよ!」
次々と人が集まってくる。
何なんだこいつらは?
「ねぇゼスト! この人達何なのよ!?」
「知らねーよ! 俺が聞きたいわ!」
「ど、どんどん集まって来ますよ!?」
「と、とりあえずお前ら避難しとけ! 俺がなんとかするから!」
「う、うん……」
姉妹は人混みから抜け出して安全な場所に移動したみたいだ。
「それで!? わたしが買い取るということでいいのかね!?」
「ざけんな! オレだってまだ交渉してねーぞ!」
「私だって交渉がまだよ?」
「お、押さないでください!」
「邪魔だお前ら! おれにも交渉させろ!」
ハイエナの如く集まってくる。こいつらは何者なんだ?
そういや最初のおっさんはナントカ商会とか言ってたっけ。次に現れた男も同業者と言っていた。
ということは……こいつら全員商人なのか?
恐らくそうだろう。間違いないはず。
そんでグレートボアを買い取るとか言ってたっけ。ということはここに居る全員がグレートボア目当てでやってきたわけか。
そんで冒険者ギルドに引き渡すのではなく、直接買い取りたいと思ったわけか。
どっから情報が漏れたんだろう。
「な、なら銀貨3枚でどうだ?」
「アホか! そんなはした金で買えるわけねーだろ! ならオレは銀貨5枚だ!」
「あなただって安値じゃないのよ! 私なら銀貨8枚出すわ!」
「ぼ、ボクは金貨1枚出しますよ!」
「じゃあオレは金貨2枚だ!!」
もはやオークション会場と化してきやがった。
駄目だ。何も言ってもこの場は収まりそうにない。
どうしよう……
「ゼスト! ギルドの人連れてきたわ!」
「!! でかした!」
ラピスがレイミを引っ張って連れてきたみたいだ。
「こ、これは何の騒ぎなのニャ?」
「俺が聞きたいですよ! 何でもグレートボアを買い取りたいらしくて……」
「な、なるほど……」
「何とかしてくれませんかね!?」
「で、でも……一応、グレートボアの所有権はゼストさんにあるのニャ。だからギルドとしてはゼストさんの判断に任せるしかないのニャ……」
「そ、そんな……」
くそっ! ギルドの職員じゃ役に立たん!
ああもう、まじでどうしよう……
「金貨5枚でどうだ!」
「なら金貨5枚と小銅貨1枚!」
「それなら金貨7枚出すわよ!」
「じゃあ金貨7枚と小銅貨1枚……」
「さっきから小刻みにしてくる奴うぜぇな!!」
一向に収まりそうに無い。つーかまだやってるのかよ。
いい加減にしてほしい。そろそろ頭が痛くなってきた……
何でこんなくだらないことで悩まないといけないんだ……
俺はキレてもいいよな?
もう我慢しなくてもいいよな?
こんな茶番に付き合う必要ないよな?
「――いい加減にしろ!!」
大声をあげるとその場に居た人々が黙り始めた。
「どこが買い取るなんてどーでもいいんだよ! んなくだらないことで争うんじゃねーよ!」
「き、君がどこに卸すのか決めないからだろうが!」
結局それか……
ああもうめんどくせぇ!!
「じゃあお前だ!!」
「え? ぼ、ボクですか?」
「そうだ! お前に売ってやるよ! それで文句ないだろ!」
「や、やったぁ!」
指さした先には小柄な青年が喜んでるのが見えた。
ぶっちゃけ誰でもよかった。さっさとこの騒動を終わらせたかった。
「えー。なんでよー」
「わたしが最初に交渉したのに……」
「俺が指名したんだ! 文句あるってのか!?」
「い、いや……そういうわけでは……」
「ならいいだろ。これでもう終わりだ! はい解散!」
俺が言い切るとその場に居た人が次々と離れていった。
ブツクサ言いながら出ていく商人達。
残ったのは指名したさっきの青年だ。
「あの、本当にボクでいいんですか?」
「ああいいよ……とっとと買い取ってくれ……」
「それで買取価格なんですが、こちらの希望としては金貨10枚なんですけど、もしそちらの希望する値段があれば――」
「それでいいよ……好きにしてくれ……」
「あ、ありがとうございます!」
それからはレイミに全て任せることにした。
はぁ……疲れた……マジ疲れた……
モンスターを相手にするより疲れた……
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