第17話:ランクアップ

 姉妹には何時間かスライム相手に実践経験を積ませていた。

 1匹倒すのに時間が掛かっているが、確実に倒せている。


 俺はというと、少し離れた所にいるホーンラビットを倒していた。

 レベル上げはもちろんのこと、討伐報酬を増やしたかったからだ。

 今回はいつもより多くの数を狩ることにしている。


「おらっ!」


 俺の拳がホーンラビットに直撃すると吹き飛び、地面に倒れると動かなくなった。


「おっし。これで30匹目と」


 本来なら10匹程度に抑えるつもりだったが、今日は30匹倒すことにした。

 また怪しまれると思われるかもしれないが、今回は秘策があった。

 死体をインベントリにしまうと、遠くから声が聞こえてきた。


「あ、いた。ゼストー! こっちは終わったわよー!」

「おう。ご苦労さん。そっち行くよ」


 2人に近づくと、ラピスは満足そうな笑顔をしていた。


「どお? 言われた通りにスライム10匹倒せたわよ!」

「私も10匹倒せました。時間は掛かりましたけど……」

「上出来上出来。今はとにかく慣れることだ。どんだけ時間をかけてもいいから倒すことが最優先だ」


 慣れない作業を続けてたせいか、2人には疲れが見える。


「じゃあそろそろ帰るか。冒険者ギルドに報告しにいくぞ」

「そうね。疲れちゃったわ」

「はい」


 俺達は街へと向かって歩き出すことにした。

 道中でフィーネが何かに気づいたのか、俺に話しかけてくる。


「あの。ゼストさんの武器は何ですか?」

「ん? どうしたいきなり」

「い、いえ。私達がスライムと戦っている時に居ませんでしたよね?」

「まぁな。俺はホーンラビットを狩っていたからな」

「その時には武器らしき物を持ってなかった気がして……」

「何を言うか。武器ならここにあるじゃないか」


 フィーネに左拳を見せる。

 それをジロジロと見つめるが……


「……えっと? ど、どこにあるんです?」

「手になんか付いてる? なによそれ?」

「これは〝ナックル〟だよ。これは格闘系の武器なんだよ」

「え、ええええ!? そんな小さい物で倒してたんですか?」

「そりゃもちろん。そんなに驚くことか?」

「そ、そんなの物でよく戦えるわね……」


 俺の装備しているナックルは格闘系に属する武器で、拳にはめるタイプだ。

 剣で戦うのもいいが、今日はこっちで戦うことにしたのだ。


「何を言う。これも立派な武器だぞ。格闘系の武器はどれもこんな感じだからな」

「な、なんでそんなので倒そうとしたの?」

「だって楽しいし」

「え、ええ……」


 格闘系はリーチが非常に短く、敵にほぼ密着する必要があるのでやや難易度が高い。

 しかしどの武器よりも身軽に動けるため、使っていて楽しいんだよな。

 だからしばらくは格闘でいこうと思っている。


「お前らもやってみるか? 楽しいぞ」

「あ、あたしは止めとくわ……」

「遠慮しときます……」

「そうか」


 残念だ。楽しいのにな。


 そんな会話をしつつ、冒険者ギルドへと到着した。

 中に入ると受け付けに向かい報告をすることに。


「すいませーん。討伐終わったんで査定してほしいんですけどー」

「いらっしゃいニャ~。ありゃ、ゼストさんなのニャ。今日もお疲れ様なのニャ~!」

「は、はい」


 このレイミって人にはすっかり名前を覚えられてしまったな。


「じゃあ査定場所に討伐モンスターを置いてほしいニャ」

「了解です」


 その場から離れ、モンスターを査定する場所へとやってきた。

 あとはインベントリから死体を取り出してっと……


「これで全部です」

「きょ、今日は随分多いのニャ……」


 ホーンラビット30匹分だからな。それなりの山になって積もられている。


「あたし達がスライム相手してる間にこんなに倒してたのね……」

「すごいですね……」


 2人とも驚きを隠せない様子。


「し、しかしよく倒せたのニャ……。Fランクでこんなに成果を上げるのは滅多に――」

「何を騒いでいる」

「!!」


 奥の方からごついおっさんが姿を現してきた。

 あの人はこの冒険者ギルドの支部長だったな。


「あ、あのあの。この方たちが討伐したモンスターを査定している最中なんですニャ……」

「ふむ」


 おっさんは積まれた死体を眺めた後、俺を睨み始めた。


「また君か。これは君がやったのか?」


 やはり怪しまれるか。

 だが俺にはラピスとフィーネがいる。


「いやいや。とんでもない。この子達と一緒に頑張ったんですよ! なぁ2人とも!」

「え!? な、何言ってるのよ!? あたしは何もして――モゴッモゴッ!」

「なぁフィーネ! 3人で協力して倒したんだよな!?」

「はい!? え、あの、その………………そ、その通りです。3人で……がんばりました……?」


 察しが良くて助かる。ラピスは口を塞がせてもらったけど。


 そう。これが俺の秘策。

 1人だけなら怪しまれるが、3人で協力したということにすれば説得力が増すと思ったのだ。


「ふむ……」


 おっさんはしばらく俺らを眺めていた。

 さてどうだ?


「なにか?」

「……いや。何でもない。邪魔して悪かった。査定の続きを頼んだぞレイミ」

「は、はいニャ」


 おっさんはそれ以上何も言わずに奥へと引っ込んでいった。


 ふぅ。セーフ。

 なんとかやり過ごせた。

 3人でパーティを組んで正解だったな。これからはもう少し討伐数を増やしてもいけそうだ。


「モゴモゴ……」

「あ、すまん。今離す」

「ぷはっ。もう……何なのよぅ……」

「悪い悪い。説明してなかったな。後で詳しいこと話すから口裏を合わせてくれないか」

「よく分かんないから黙っとくわ……」

「あはは……」


 ちょっとしたアクシデントがあったが、無事に査定を済ませることが出来た。

 受付で報酬を受け取ると、レイミが気になることを言ってきた。


「うん。もう十分だと思うニャ」

「? 何がです?」

「ゼストさん。貴方は十分成果を残してくれたニャ。なのでEランクにランクアップすることに決定しましたニャ!」

「マ、マジで?」


 なんかあっさり上がったな。

 もう少しかかると思っていたんだが……


「こんなに簡単にランクが上がるもんなんです?」

「Fランクは少し特別なのニャ。Fランクというのは冒険者としてやっていけるかテストする期間でもあるのニャ」

「それってつまり……Eからが本番ということ?」

「そう考えてもらってもいいニャ。Eランクからはある程度依頼をこなさないと上がらないようになってるニャ」


 なるほどなぁ。

 そういやFランクだと依頼は受けられない仕様だったっけ。

 ということはつまりFランクってのは……冒険者未満みたいな扱いだったわけか。

 恐らくだが、Fランクが一番死亡率が高い気がする。

 本当に最底辺だったんだな……


「よかったじゃない! おめでとうゼスト!」

「おめでとうございます。ゼストさんならもっと高ランクになれますよ!」

「おう。ありがとな」


 ま、これからもやることは変わらない。

 ひらすら強くなるだけだ。

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