第11話:仲良しこよし
2人にこれからのことを伝えた。
「とりあえず今日はもう帰れ。明日から本格的に始めるからな」
「分かったわ」
「そうだ。ちょい待ってな」
「?」
インベントリから銅貨が入った袋を取り出す。
「!? な、何もないところから物が出てきた……」
「こういうスキルなんだよ。んーっと。これくらいでいいか。ほれ」
ラピスに中銅貨5枚手渡した。
「こ、これは……?」
「お前らにやるよ。それで何か買ってこい」
「え、ええええ!? い、いいの?」
「良いも何も、孤児院から出たばかりで金が無いんだろ? だったらそれでメシ食ってこい。〝腹が減っては戦ができぬ〟だ」
「で、でも……なんでここまでしてくれるの?」
「言っただろ。お前らを鍛えるって。こんなことで倒れたら堪らんからな。ま、未来への先行投資だと思ってくれればいい」
ラピスは手にある銅貨を見つめた後握りしめた。
「……うん。ならありがたく頂くわ。本当にありがとね」
「ありがとうございます! これで食べ物が買えるね!」
「そうね。丸1日何も食べてなかったもんね」
本当に追い詰められてたんだな……
そんな状態で戦おうとしてたのか。そりゃスライムに負けるわ。
「それじゃあ行くわね」
「おう。明日は冒険者ギルドで待ち合わせな」
「はい!」
そして2人は街へと戻っていった。
さてと。俺も戻るか。
明日から忙しくなりそうだ。あいつらのことを考えないとな。
…………
…………あれ?
そういやあの姉妹はどこに住んでいるんだ?
つーかどこに帰るつもりだったんだ?
たしか孤児院から出たばかりなはず。
……気になる。
というわけでバレないように注意して2人を尾行することにした。
2人が向かった先はパン屋だった。
そこで安いパンを何個か買ったみたいだ。
店から出た後はパンが入っている袋を抱えたまま歩いていく。俺もその後を追う。
ずっと歩き続け、辿り着いた先は……
「ここは……スラム街か……?」
向かった先はまさかのスラム街だった。
ここは治安が悪く薄汚れた場所だ。あまり来たくないエリアでもある。
王都セレスティアは巨大都市といわれるだけあってかなり広い。
けど中にはこういった場所も存在するのだ。
いや。広いからこそ存在するのかもしれない……
2人はそんな場所にも関わらずどんどん奥へと入っていった。
そして人気のない場所に辿り着き、壁際で一緒に座り込んだ。
「あの人優しかったね」
「ええ。ここまでしてくれるなんて感謝しても足りないわ」
「明日会ったらまたお礼言った方がいいかな?」
「そうね。その時にまた伝えた方がいいかもね。それより早く食べましょ。お腹すいちゃった」
袋を開けてパンを取り出すと2人とも齧りついた。
「! このパン美味しいわね」
「うん。孤児院に居た頃に食べたやつはもっと固かったもんね。こんなに食べやすいパンは初めてかも」
「まだあるからどんどん食べていいわよ」
美味しそうに食べる姉妹。
余程腹が減っていたのか、次々とパンを口に入れていった。
「あ……これで最後……」
残り1個になったパンを見つめるラピス。
どうやらうっかり奇数個買ってしまったようだ。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「……これ。フィーネにあげるわ」
「え? い、いいの?」
「うん。あたしはもうお腹いっぱいだから。食べていいわよ」
「で、でも……」
「あたしのことはいいから。あなたが食べなさい」
そういってパンを渡す。
フィーネは受け取るとジッっと見つめ始めた。
「? どうしたの? 食べないの?」
「……それじゃあ、えいっ」
パンを真ん中でちぎって半分に分けてしまった。
「はい。こっちがお姉ちゃんの分」
「え……全部食べてもいいのよ? あたしのことはいいから」
「お姉ちゃんだってまだ食べ足りないんでしょ? 明日からまた大変だろうからちゃんと食べないとダメだよ?」
「で、でも……」
「1人前の冒険者になれるぐらい強くなるんでしょ? だったら力をつけなきゃ。お姉ちゃんばかりに負担かけられないよ。一緒にがんばるって言ったでしょ? だから半分こ」
「…………」
ラピスはしばらく見つめていたが、観念したのか半分になったパンを受け取った。
「……そうね。じゃあ貰うわ」
「ふふっ。じゃあ食べよ?」
「うん」
…………いい子達じゃないか。
今までもずっとああやって支えあって過ごしてきたんだろうな。微笑ましい光景だ。
本当に仲がいい姉妹だ。貧しいながらも助け合って暮らしている。
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