魔王物語 ~スキルがわかる異世界冒険記~

babel

オープニング・ビジター

第1話

 ~1~


 ある少女がこの世を去った。


 その少女は長い間放浪していた。


 ある時は一人で夜道を歩いた。

 ある時は一人で河を渡った。

 ある時は地平線いっぱいの草原を歩いた。

 ある時は鬱蒼な森を抜けた。

 ある時は砂漠を超えた。

 ある時は大都会を誰にも気づかれずに彷徨った。


 そして、彼女がその歩みに自身で気づいたのは、彼女自身が雪山に差し掛かった時だった。


 我に返った彼女が、声を上げる・・・


「どうしてこうなった・・・!?」


 気温-24度。紛れもないツンドラ気候に、肌着1枚とパジャマ上下1セットを来た少女が一人。


「だ、誰か助けて! 助けガボガギガガグゴゴゴ・・・」


 弱くてニューゲーム。主人公の名前を決定してください。それは主人公が15歳の誕生日を迎えた朝の事だった。エリア移動からの画面暗転解除の約3秒後。我らが主人公は冷凍保存された。


 一方その頃、彼女のいる場所からわずか10メートルにある酒場では、どんちゃん騒ぎが行われていた。


「ヒャッハーーー!!! 仲間の不幸で飯がウメええええ!」

「俺のオメガふぐりブラスターも絶好調だぜ――――!!」

「マスター! 酒と酒と酒を持って来い!!!」


 ドガガガガガガガガ!


 ハイテンションながらに銃乱射そながらお酒タイムを満喫中。客はこの3名の他、27名の男性客が狂乱しながら店内で銃を乱射している真っ最中だ。既に何名か血まみれで倒れている。


マスター「・・・・・」


 そしてこの酒場のマスターには銃弾が当たらない。酒場のマスターとは(この店では)静かにグラスを磨く者である。この酒場にとって銃の乱射は日常茶飯事であるのかもしれない。しかし今このマスターに銃弾が命中したら話が終わってしまう。酒場のマスターならではの特殊聖域が張られているのだ。


「お~い! だれかいるか!?」


 そこに、外から3名の猟師らしき人が入ってきた。


「アんだよ!うっせーな!」

「あーしらける誰だコイツ。」

「あー、メッチャう●こしてぇ。」

「いやいやいや、なんかそこに雪の女王が立ってんだけど!?」

「はぁ? 雪の女王!?」


 後ろの猟師2人が、入り口付近まで持ってきていた像を突き出した。


「・・・」

「おい、雪の女王じゃなくて、こりゃ氷の女王じゃねえか!」

「マジかよ! なんじゃこりゃ?」


 それは、メガネをかけた少女が氷漬けされたものだった。白い。指先や眼鏡やら髪の毛やらあちこちに氷柱が立っており、女王というより冷凍ゾンビに近い。


 「よく女だってわかったな!」

 「なぁ、こいつさっきまでいなかったよな? まだ生きてるんじゃね?」


 酒場にいた男どもは一瞬沈黙し、そして叫んだ。


 「氷を砕いて溶かすぞぉー!!」

 「YEAHHHHHHHHHHHH!!」

 

 酒場に歓声が沸き上がった。

 

 「ドリルだ! ドリル持ってこい!」

 「ヘイ! ドリルですぜぇ―!」


 男どもがドリルを取り出す。


 「やれぇ!!」

 「へいやああああ!」


 キュイイイイイイン!


 「・・・おい。」


 突然、沈黙を貫き通していた酒場のマスターが声を発した。


「お前ら、今何をしてるんだ・・・?」

「え? あー氷を溶かしてる。」


 雪もとい氷の女王は絶賛ドリルで解凍中である。頭部部分を狙って。


「待て、氷を溶かすのに頭にドリル突き立てているのか!?」

「え? まあ、良かれと思って・・・」


 その瞬間―――


 プシャアアア


 氷の女王の額から赤い液体が噴出した。


「血だああああああああああ!!!」

「何してんだああああテメェら!! ん?」


 マスターが怒号を上げる。が、その直後にマスターが気付く。


「こいつまだ生きてるじゃねーか!」

「あぁあぁ! 氷の女王の顔が血まみれにいぃぃ!」


 氷どころか間違いなく頭蓋は貫通している。グロテスク表現はアレなので詳細は伏す。


 その時、マスターはとっさに機転を利かせ、カウンターの下にあった巨大酒瓶を取り出し・・・


「フン!」


 氷の女王の頭を思いっきり叩き潰した。酒瓶が割れ、氷像がアルコールまみれになる。今ので間違いなく頭蓋が割れた。


「マスター! あんたも大概だよ!」

「フン!」


 マスターは見向きもせず、手を体の前に出して呪文を唱えた。


「ファイア!」


 ■■□□ ....... ...... . ... ..


 すると、アルコールまみれになった氷の女王が突如として燃え始めた。周囲の人から見れば突然ホールの真ん中で火事が発生したのであるが、そんなことはどうでもよい。


 纏わりついた氷は魔術的成分が含まれておらず、氷も意外と薄かったので意外と簡単に溶かすことが出来た。そして炎と氷の中から現れたのは・・・


 ドサッ――――


 頭から血を流した少女だった。


「くそっ! 思った以上にやべぇ!」

「半分はあんたのせいだろ!」

「もう半分はテメェらのせいだろうが! 畜生、誰か医者を呼んで来い!」


 酒場のマスターと利用客たちは真っ青な顔をしながら行動を開始した。



 ~2~


 少女は気が付くと、ベッドの上に寝かせられていた。


 「・・・?」


 訂正。ベッドではなく、酒場のカウンターの上に無作法に寝かせられていた。


 頭には、包帯をとりあえず巻いておきましたと言わんばかりに何重にもぐるぐるに巻かれていた。


「げっ! もう目を覚ましやがった!」

「どっどうする? 麻酔を用意しなきゃっ!」 

「猟銃の麻酔とかどうよ。」

「それだっ!」


 スッ


「やめろぉ!」


 この瞬間、マスターの怒鳴り声で少女が目を覚ました。


「・・・??」


 少女はぼーっとしながら天井を眺め、すぐ脇に立っているエプロン姿の屈強なムキムキスキンヘッドのおっさんを目にとめた。


「なによ、ここ・・・」

「目が覚めたかい。お嬢ちゃん。」


 少女は起き上がろうとした。


「おっと、そのままにしてくれ。悪いが今ちょっとしたトラブルでお嬢ちゃんは怪我しちまってるんだ。今医者を呼びに行ってるんだが、よく考えたらこの町に医者がいねぇことに気づいたんだ。だからちょっとな、ベッドが見つかるまでゆっくりしててくれ。」


 少女は頭に何かあるのに気づき。地味に眉間にしわを寄せる。頭の包帯が巻かれ過ぎて非常に痛いのである。あまりにも頭が痛いので包帯に手をかける。


「ひぃぃぃ 待った待った待った!」

「お嬢ちゃん頼む!それだけはやめてくれ!」


 包帯を取ろうとしたら周囲にドン引かれた。


「おーい!」


 すると突然、酒場に誰かが入ってきた。


「アンタ、ちょっと悪い。今立て込んでんだ。あとで来い。」

「いや、聞いたよ? 医者を探してるんだってな。俺は医者じゃねぇが、回復魔法なら使えるぜ!」

「おお! でかした!」


 男は颯爽と酒場のカウンターに近づいた。


「・・・?」

「お嬢ちゃん、目を閉じてなよ! ソイヤ!」


 男は目の前で手を交差した。すると、交差した手から突然、太陽並みの光量が降り注いだ。

 少女はとっさに目を思いっきり閉じた・・・が、次の瞬間。


 ■■■ ....... ...... . ... ..


 目を閉じているのにもかかわらず、少女の瞼の内側には、何やらバーコードのような刻印が浮かび上がった。


 やがて光が消えた。この間、わずか10秒くらいの事である。

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