エランでの作戦の全貌
数日してディスカルを交えてアラの作戦の全貌を検討。
「どうだった」
「おそらくそうです。時期的にほぼ一致するとして良さそうです」
「これは狙ったのかな」
「おそらくそうでは無いと考えられます」
コトリ先輩が思いついたのは地球とエランの食糧事情の差。
「つい忘れそうになるけど、エランは統一食やんか」
「そうですが」
「それが完全にそうなったのが、その頃のはずやねん」
エランは千年戦争の影響で食糧不足になり、食糧は食糧プラントの生産にすべて置き換わっていたんだよね。それでも、エラン式の元素分解調理法で、ある程度のバラエティがあったんだ。
ただそれでは増える人口に対応しきれず、最高の効率で食糧が生産される統一食に置き換わったで良さそう。ただし、これは移行期がかなりあったらしい。アラが行ったのは割と単純な方法だったみたいで、統一食はタダ同然だった一方で、その他の調理食は段階的に値上げして行ったぐらいかな。
「そりゃ、調理食への執着は強くて、かなり値上げされてもある割合から減らへんかったでエエと思う」
でしょうね。毎日同じ食事になるのは耐えがたいものね。
「アラは調理食を不味く作らせるようにしたとか」
「そんなことアラでも出来るかいな。調理器は国家配給じゃあらへんからな。でも不味くしたんは合ってるよ」
そしたらディスカルが、
「アラは食糧不足に対応するために、二つの施策を取っています。統一食の推進と、食糧増産です」
まあ、それぐらいしかないだろうけど、
「まだわからへんか。エランの食糧プラントは一種類の野菜しか作らへんのよ」
あっ、そうだった。
「それもやで、工場でしか作ってへんのよ。鳥だって食糧が欲しけりゃ、工場や倉庫襲うしかないやんか」
だから待ち伏せ作戦は容易だったんだ。でも、それとアラの鳥退治と何の関係が、
「食糧増産のためにどうしたらエエと思う」
「そりゃ、プラントを増やす」
「増やせるものなら増やしてるよ。もう増やせん状態になってるから食糧不足が起ったんやで」
そっか、そっか、そう考えないといけないんだ。
「だったら品種改良」
「エランの場合は改良と言うより改造みたいなもんやけど、より効率的に栽培できる新品種に切り替えたんちゃうか」
なんかつながりそうで、つながりにくいけど。そしたらディスカルが、
「私も初めて知ったのですが、その頃に統一野菜の突然変異が起ったとなっており、そのまま現在も続いています。あれが突然変異でなく品種改造だった可能性はあります」
「どう変わったの」
「生産効率は上がったのですが、統一食以外の調理食の味が極端に悪くなったと記録されています」
だから食糧デモが起ったのか。楽しみにしていた調理食が不味くなったら抗議の一つぐらい出るわよね。
「それでどうなったの」
「品種改良に努めたそうですが、どうしても以前のものには戻らなかったのは事実です」
「それって変じゃない。エランの技術でもそんなに難しかったの」
「そう言われれば」
やはり品種改造。
「そのはずやで。突然変異の可能性もあるけど、アラにとって都合が良すぎる変化やんか。生産量が増えて、統一食にしか適合せえへんって、不自然過ぎるやんか。そのうえ、結局そのままやったんやし」
アラは食糧不足の解消のために、食糧増産と、利用効率の悪い調理食の排除を狙ったってことか。
「まさかこんなことが起るなんて、アラも予想していなかったんじゃない」
「だろうな。棚からぼた餅みたいなもんやから」
ここは推測も入るけど、改造品種への転換の時期が怪鳥出現の時期に一致したんじゃないかって。
「まさか、まさか、そんなことが」
「それしか考えられへんし、そう考えたらすべての説明がつくやろ。改造品種は鳥さんのお口に合わなかったんだよ」
ディスカルも、
「怪鳥は雑食性とされていますが、成長するにつれ、人間の食べれるものしか食べなくなるようです」
「では、エランの怪鳥は」
「大きくなるまでは以前の統一野菜で育ちましたが、新しい統一野菜がどうしても食べることが出来ず、飢え死にしたと見て良さそうです。以後に出現した怪鳥も、その大きさになると統一野菜ぐらいしか、その体を満足させる量のものはなく、飢え死にせざるを得なくなったかと」
ディスカルは軍事用の生物兵器として開発されたためではないかとしてる。目的が敵国の食糧の消耗だったから、大きくなった時に余計な食糧を取らないようにしてたのではないかとしてた。アラはその事に気づき、無駄に動くのをやめたのだろうって。
「でもそこまで機密にしたのは」
「そりゃ、調理食を不味くしたのが自分の仕業だとバレたら、民衆に殺されますよ。あくまでも長年の継続栽培による突然変異ぐらいで逃げたのです。それにしても怪鳥さえ食べられないものが、我々の食べ物だったとは笑うしかありませんね」
ディスカルも推測としてたけど、統一野菜の味の変化について、統一政府も改善に鋭意努力するぐらいのポーズをしてたはずだって。そうやって時間稼ぎをしているうちに、統一食に慣れさせてしまうのが目的かな。
「それにしても、そんな不味いのがどうして定着しちゃったの」
「怪鳥騒ぎのしばらく後に食糧不足が表面化したのは史実です。おそらくさらに改造した品種では生産量が不足するぐらいの説明で乗り切ったのではないかと」
コトリ先輩は楽しそうに、
「怪鳥騒ぎは品種改造とまったく別の動きやったんやが、タマタマ時期として一致したでエエやろ。アラの計画は近い将来の食糧不足に対するもので良かったはずや」
みたいね。食い物が不足するのと、調理食をあきらめるのと二択にする予定だったと見て良さそう。そしたらディスカルが、
「怪鳥の始末ができ、さらに以後の怪鳥の脅威を取り除いたという点で、改造品種の効果は偉大ですが、その引き替えにエラン人は調理食の楽しみを奪われた事になります」
そうなるよね。えっ、そうなると、
「怪鳥の駆除方法を後世に残さなかったのは、それを伝える必要がなくなったから」
「そういうこっちゃ、品種改造された統一野菜が変わらん限り、鳥さんが出現しても、大きくなれば飢え死にするだけの存在やから、駆除方法も伝える必要がないやろ。だからアラのやることは、この品種のさらなる改造をさせへんことやってんやろ」
やっとシノブにも真相が見えて来た。アラは食糧不足対策のために改造品種の導入を決めたんだよ。ただし、調理食がなくなるから食い物の恨みが来るのは予想してたんだ。そのために食糧不足が表面化するタイミングを狙って投入したぐらいかな。
そこにたまたま怪鳥騒ぎが起り、タナボタで怪鳥が食べられないものとわかって駆除に成功したんだ。ここでだけど、怪鳥駆除の功績をアピールするには、改造品種の導入をアピールしないといけないけど、
「そうやろな。怪鳥駆除の功績は一時的やけど、食い物の恨みは後に尾を曳くと判断したんやろ。面倒だから怪鳥情報もセットで機密にしてもたんでエエと思う」
なんという真相。でもこれでは地球の怪鳥は、
「あれか。あれも巨大化しすぎてるで。大きくなった分だけ、そりゃ強力になってるけど、あの体を維持するだけの食糧を取るのは大変や。いずれ食い尽くして飢え死にしよるやろ」
「でも、そこまで行くまでに」
「そういうこっちゃ。人類が飢え死にするわ」
でもアラが使ったエランでの駆除法は地球では使いようがないのよね。
「厄介なこっちゃで」
ホントに。
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