総理の器量

 怪鳥チームの検討会議。今日は総理も出席しています。


「エラン船のデータベースの解読はどうなっているのですか」

「難航しておるようだ」

「それにしても時間がかかり過ぎています」


 かみついているのは岩本防衛相。


「科技研がデータベースを開くことが出来たのは認めますが、データベースの解読はやはり自衛隊で行うべきです」

「そうですよ。あそこには軍事技術も含まれているはずで、民間に委託するのは好ましくありません」

「シータ計画の取り決めでも、軍事技術は国家管理、民生技術は民間となっております」


 岩本防衛相だけでなく、井出特命相、陸海空の幕僚長もそうです。怪鳥対策と言っても、これを自衛隊の戦力で対応するのは無理であり、避難についても怪鳥の行動範囲の広さからお手上げ状態です。そのために議題が、ついに開いたエラン船のデータベースの管理問題に傾いてしまっています。


「だいたいですな、平山博士は鳥類の専門家であって、エラン語とか、軍事技術については素人です」

「そうですよ、平山博士にあれだけの権限を与えていることが判断の誤りではないかと考えます」

「やはり自衛隊管理に戻すべきです」


 村松総理はとりなすように、


「平山博士はよくやってくれておる」

「そうは仰られますが、ほとんど成果が上がっていないではありませんか」

「怪鳥の動きは予断を許しません。一刻も早く迎撃態勢を整えなければならないと言うのに、これではいつになったら状態です」

「怪鳥対策のためにもデーターベースの管理を自衛隊に戻すのは焦眉の急だと考えます」


 ここのところ、この問題で追及されっぱなしの村松総理は嘆息するように、


「もう少し待つべきだと思うが」

「もう少し、もう少しと仰いますが、どれだけ待てば良いのでしょうか」

「これだけの時間を与えたにも関わらず、この成果では話になりません」

「事態の打開のためにも総理の御判断をお願いします」


 総理の下には神戸の平山博士からの報告が随時届いています。いかに大変な作業になっているかは総理も熟知しています。


「そんな簡単なものではないのだよ。たしかにデータベースは開いたが、アクセス出来る範囲が限定的なのだ。そこから零れ落ちてる情報を集めてだな・・・」

「それも自衛隊がやれば変わる可能性があります」

「平山博士の能力の限界と見るべきです」

「そもそも開いた時点で自衛隊管理に戻すべきだったのだ」


 村松総理も苦しい立場にあります。国会でも野党の追及があり、これに対しても有効な答弁が出来ていません。というか、野党が当然のように要求する。


『効果的な怪鳥対策』

『全国民の安全確保』


 この二つなど誰がやっても出来ないからです。しかし政治はそれを許してくれません。政治では、


『出来ないなら無能』

『無能なら総理を辞めろ』


 ここに持ちこもうと野党も躍起です。実際にも村松総理の支持率はジリジリと下がっています。支持率が下がって来れば動き出すのが与党の反主流派。岩本防衛相も反主流派の大臣なのです。


「では聞こう。自衛隊であの装置の操作が出来るのかね」

「も、もちろんです」

「エラン語が読めるのかね」

「そ、それは長年研究していますし」


 村松総理は、苦々しい顔になり、


「自衛隊どころか、世界中でもエラン語を自在に読み書きできる者は限られておる」

「それでも平山博士よりは出来ます」


 村松総理はなにかを決意したように、


「平山博士には協力者がいる」

「誰ですか」

「世界で数少ないエラン語が自在に話せる人間だ」


 動揺が広がる会議室。


「そんな人物は」

「まさか」

「あり得るはずが」


 列席者を睨みつけるように村松総理は、


「平山博士だから協力をされておる。これだけでも平山博士に任せる理由は十分と考える」


 思わぬ人物の名前が、出席者の頭に浮かんでいます。


「それとこれは最高機密に属するものだから、諸君もそう思って聞いてくれたまえ。データベースの操作をしているのはエラン人だ」

「エラン人は既に全員死亡したはず」

「だから最高機密だ。エラン人が操作し、あの方が協力する体制以上の物を自衛隊が提供出来ると言うのか」


 静まり返る会議室。


「エランのデータベース解析は、この地球上で考えられる最高の体制で取り組んでいる。これ以上の体制は望んでも望めないものだ。それでも結果が得られないのであるならば、誰も結果など得られるはずがない」

「それでも結果が得られなかったら?」

「最悪人類の滅亡さえありうる。少なくとも現代文明は崩壊する。そうさせたくないために、全面協力を頂いておる。自衛隊への管理移管など、この村松の頭の中には一ミリグラムも存在しておらん」


 会議室を沈黙が支配します。


「日本、いや地球の命運は平山博士のチームに委ねられておる。我々の役割はこれを邪魔せず、支援することだ。もう他に出来ることはない」

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