驚異の世界

 ボクは平山守。神戸花鳥センターの主任研究員。メキシコの怪鳥騒ぎをキッカケにエレギオンHDの霜鳥常務と恋人関係になり、将来を誓うとこまで来てます。一方でボクは山科教授の後継者でもあります。


 山科教授はメキシコに怪鳥調査に行かれて、未だに生死の確認さえ取れていません。亡くなっている可能性は高そうとされてますが、とにかく不在ですから、政府の鳥問題特別対策チームのメンバーにも加えられています。


 今のボクの使命は、鳥対策を見つけること。様々な情報は集まってますが、やはり実物は見る必要があると言うのが、鳥問題特別対策チームが出した結論です。見たって対策が見つからないかもしれませんが、このままではどうしようもないのも現実です。


 行くからには命懸けになります。ですからどうしてもシノブに話をしておきたかったのです。黙って行くのも考えましたが、シノブはただの恋人ではありません、心の中ではフィアンセです。


 シノブはやはりブラジルに行きを止めました。そりゃ、そうですよね。ボクが逆の立場なら絶対に止めます。鳥に食べられなくとも、被害が拡大すれば帰って来れなくなる可能性も十分にあるからです。


 そしたら最後に意外な話を持ちだしてきた。極秘情報を教えると。最初は政府が握っている以上の情報なんてある訳ないと思いましたが、とにかくシノブはあのエレギオンHDのCIO。エレギオンHDの情報収集能力が半端なものじゃないのは噂で聞いたことはあります。


 いきなりその場から連れて行かれたのは、クレイエール・ビル。言わずとしれたエレギオンHDの本社ビル。夜でも二十四時間体制になってる部分があって、神戸の不夜城とも呼ばれることもあります。


「あれは基本的に調査部だけよ。情報は二十四時間動くからね」


 夜間通用口に警備員がいましたが丁重に、


「夢前専務、お疲れ様です」


 信じてなかった訳じゃありませんが、さすがは専務です。エレベーターに乗り込むと、なにやら操作をして、


「三十階に行くからね」

「えっ、三十階って・・・」


 これも聞いたことがあります。現在のミステリーゾーンとまで呼ばれるクレーエール・ビル三十階です。エレギオンHDの心臓部とも呼ばれますが、とにかく内部は秘密のベールに覆われていて、誰も見たことが無いとまで言われているところです。


「三十階って」

「たいしたものじゃないよ。社長と副社長の仮眠室」

「仮眠室?」

「今はシノブも住んでるけど」


 そうこうするうちに三十階に到着。ドアが開くと、


『コ~ン』


 なんだ、ここは。ビルの中に家が建ってるじゃないか。シノブは慣れた様子で朱色に塗られた木橋を渡り、梅見門を潜って玄関に。


「挨拶は中でイイから」


 立派な玄関を上がり、廊下の突き当りのドアを開かれると、広大なリビング。


「ようこそ、社長の小山です」

「副社長の月夜野です。いつも夢前がお世話になっています」


 えっ、えっ、小山社長に月夜野副社長と言えばエレギオンHDのトップ・ツー。それも氷の女帝、稀代の策士としてボクでも名前を知っている有名人。それにしても若い、それにシノブに負けないぐらい美しい。


「鳥の話はちょっと待ってね。もうちょっとしたら、専門家が来るから」


 専門家? 誰だ。この日本でボク以上にあの鳥の事を知っている専門家なんていないはず。


「だから、その前にシノブちゃんと結婚したいのなら、知ってもらいたいことを話しておくわ」

「ちょっと信じるのは大変かもしれへんけど、シノブちゃんが欲しいなら聞いといて」


 どういうことだ。


「どこから話そうかな。まずわたしが小山恵って信じてくれる」


 ここから難関の気が。小山社長については、エランの宇宙船騒動の時にテレビ中継で見てますから、そっくりなのはわかりますが、


「にしても若い、若すぎる」

「わたしで七十九、月夜野でも今年で四十三よ。シノブちゃんだって若そうに見えるけど三十一だよ」


 そうだった。シノブが専務って名刺の肩書を見て信じられなかった。でも、小山社長になるとそんなレベルじゃない。


「シノブちゃんも、死ぬまでそんなに変らないよ。いつまでも若い奥さんしてくれるよ」

「ホントかシノブ」

「うん」


 ま、まさか人でないとか、


「間違いなく人だよ。寿命が来れば死ぬし、シノブちゃんと結婚すれば子どもも出来る」

「でもその若さは」

「平山博士はエレギオン学の柴川名誉教授を御存じ」


 知っています。エレギオン学の三代目教授として、大叙事詩の解明をされたのも有名ですし、エレギオン発掘調査で目覚ましい成果を挙げられたのも良く知られています。


「柴川名誉教授の出した本を読んだことはおあり」

「いや、恥ずかしながら。でもマンガは読んだことが」

「だからユウタは儲からなかったんだよね」


 ユウタって柴川名誉教授の名前とか、


「それなら話は早いわ。あそこに出てくるエレギオンの女神は歳も取らないし、その魂は記憶を保ったまま移って行くってなってたでしょ」

「ええ、マンガではそうなってましたが」

「今でも生きてるのよ。その女神が」


 なんだって。そんなバカなことが。たしかにマンガでは永遠の女神になってましたが、あれは何千年も前のお話。それもどう考えたって作り話。


「すぐには信じられないのはわかるわ。ちょっとこれを見て欲しいのだけど」


 見せられたのは制服を着た若い女性社員。ちょっとデザインが古臭いかな。


「シノブちゃんに似ていない」

「ええ、よく似ています。新入社員時代ですか」

「シノブちゃんにも新入社員時代はあったけど、最初から専務だよ。それにエレギオンHDには制服は無いよ」


 これも話には聞いたことがあります。シノブはエラン宇宙船騒動の時に大学一年なのに専務に抜擢され、東京で社長代行をしていたのです。


「こっちの写真も合わせてみた方がわかりやすいよ」


 集合写真ですが、


「この制服は六十年ぐらい前のクレイエールのものだよ。それとこっちの女性を良く見てごらん」


 こ、これは月夜野副社長では、


「合ってるけど違う。これは小島知江。じゃあ、こっちも見て」

「これも月夜野副社長じゃ」

「違うよ、立花小鳥」


 どういうこと。


「制服姿のシノブちゃんは結崎忍。だからハルカじゃなくて、シノブって呼ばせたんだよ。感覚的には本名かな」


 頭が混乱し切っています。


「月夜野は小島知江から立花小鳥になり、今は月夜野うさぎなんだ。シノブちゃんは結崎忍の次が夢前遥さ」

「あなたは?」

「わたしはちょっとややこしいの。また時が来れば説明してあげるけど、とりあえず先代は木村由紀恵かな」


 ここで月夜野副社長が、


「トリックや思てるかもしれんけど、社長も私もシノブちゃんもエラン語が話せるのは知ってるよね」


 そうだった。地球全権代表だけではなく、ECOの代表でもあり、地球でエラン語が話せるたった三人だった。あれも、どうして、


「三人じゃないよ、霜鳥も話せるから四人だよ。ホンマは後三人ぐらいおるけど、ややこしいからそれは置いとく。エラン語はエラム語に近い部分があるって聞いたことがある?」


 それはどこかで。なにしろ古い言葉で、シュメール語の母体になったともされ、とっくの昔に滅び去った言葉。


「エラム語も歴史があってね、古エラム語から、さらに原エラム語みたいなものあってんよ。それが現代エラン語の母体になってるんよ。だから話せるようになったんだ」


 そう言えばマンガの始まりはエラムのアラッタからだった。だからエラム語を話せ、さらに現代エラン語も。理屈はあうけど、そんな事を信じろと言われても。すると小山社長が、


「見えないものを信じるのは難しいよね。だったら、何を見たい」


 なにをって言われても。そうだ、


「では女神の力を」

「イイよ。なんでも言ってみて」


 マンガの女神の得意技は・・・金縛りとか、災厄の呪いの糸とかもあったけど、もうちょっと平和で、絶対にあり得なそうなのを。


「ホウキとチリ取り」

「あははは、あんなものを見たいんだ。イイよ、シノブちゃん、部屋に案内してあげて。掃除させとく」


 部屋に入って電気を付けると、


「あ、あれは・・・」


 ホウキとチリ取りが勝手に掃除してるではありませんか。


「マモル、驚いたでしょ。シノブもこの部屋に住んで初めて見せられたんだけど、かなり驚いたもの。今でも出来るんだって」

「そうなると・・・」

「そうよ、小山社長が首座の女神、月夜野副社長が次座の女神。そしてシノブが四座の女神」


 シノブが四座の女神だって。


「もう一つ見せてあげるよ」


 シノブの顔が真剣になると・・・


「こ、これは輝く女神」

「そうだよ」


 見間違いようもなくシノブは輝いています。


「三座の女神は」

「もうすぐ来るよ。こっちも驚くよ」

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