デート

 とにかく出口の見えない大不況状態。ブラジルに鳥が移動してくれて、アメリカ向けの輸出が回復してくれたのがわずかな光明ぐらい。もっとも、アメリカだってブラジルの鳥が舞い戻ってくる可能性は残るわけで、依然臨戦態勢のまま。


「こっちだよマモル」

「ごめん待った」


 マモルも長い間、政府に拘束されてたけど、やっと神戸に帰って来てくれた。話題は嫌でも鳥になるのは仕方ないよね。


「ブラジル軍も頑張ってるけど、相手が悪いよ」


 マモルは政府関連の仕事に就いてたから、かなりの情報を知ってるんだ。


「アメリカ侵入の時は海面を滑走して来たそうだよ」


 水鳥機能まであるんだものね。


「これは未確定情報だけど、潜水していたって情報まである」


 それも知ってる。


「それで政府は」


 ここで寂しそうに笑って、


「政府の役人は好きじゃないけど、逃げられない当事者じゃないか」

「そうねぇ」

「最後は神だのみって感じだよ」


 エレギオンの女神に頼っても無駄だよ。


「それとね。政府から解放された訳じゃないんだ」

「どういうこと」

「これは悩んでるところなんだ」


 これは命令じゃなく要請だそうだけど、ブラジルに調査に行ってくれないかの話が出てるって言うのよ。


「死にに行くようなものじゃない」

「そうでもないさ。たしかに鳥は人も襲うけど、積極的には必ずしも襲わない。正確には人も襲うことがある程度かな」


 あれだけ居食いされたメキシコでも、鳥に実際に食べられたのは千人もいないと推測されてるそうなんだ。餓死者の方や、混乱の被害に巻き込まれて亡くなった人数は十万人じゃきかないそうだけど。


「それと見てみたいじゃないか。それだけの鳥を」


 鳥類学者だものね。画像や映像で見れると言っても、その眼で見たいよね。でも、でも、でもだよ。


「お願い行かないで。二人の未来はこれからなのよ」


 マモルは悩んでた。シノブは一生懸命止めたんだよ。ここでマモルを失いたくないもの。


「それとボクも日本人だ。少しでもあの怪鳥の情報を持ち帰って、出来るものなら対策を立てたい。鳥類学者として、日本人として命を懸ける価値があると考えてる」


 ああ、どうしたら。もう、これしかないかも。


「シノブはあの鳥の情報を知ってるよ」

「えっ、そっか、エレギオンHDのCIOだったよね。でも、ボクの知ってる情報と較べてどうかな」

「この情報を知っているのは、エレギオンのごく一部のみなの。世間でも知ってる人はいないんだよ。この情報はブラジルに行くより遥かに役に立つよ。それでも足りないと思ったら、ブラジルに行って。これはシノブのお願い」


 マモルは悩んでたけど、エレギオンHDが持つ鳥の情報には興味が湧いた様子。


「でも良いのかい。それは社内機密だろ」

「そんなレベルじゃないよ。超が幾つ付くかわからないほどの極秘情報よ。知るからにはマモルにも覚悟してもらわないといけない」


 マモルの顔に怪訝な顔が、


「なんか怖いな。漏らせば始末されるとか」

「マモルは漏らさないし、漏らしたって始末なんてされない。どんなに漏らしても、誰も信じてくれないし、狂人扱いされるだけ」


 でもマモルを受け入れるためには、鳥問題がなくても知ってもらわなければならないんだ。


「前に鳥問題が片付いたら、シノブを迎えに来てくれるって言ったじゃない」

「そうだ、気持ちは変わってない」

「それをちょっと前倒しするだけ」

「どういうこと」

「来ればわかるよ」


 そこから三十階に連絡、


「今からか、エエで。ユッキーと準備して待ってる」


 そこからマモルに、


「今から見るもの、聞くもの、マモルにとって、信じられないものばかりになると思う。でもシノブを迎えに来るためには知らなければならないこと。これを聞いてシノブを迎え来て」

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