検討会議
『コ~ン』
ここに来るのは好きじゃないけど、プライベート・ジェットを使わせてもらったお礼もあるし、ここなら鳥の情報ももっと聞けそうだから、それほど嫌がらずに来た。今日は五女神の他に・・・あれはミサキさんの旦那のディスカルさんだ。どうして、エラン人がいるのかな。
「アカネさん、大変だったわね」
「心配しとってんから」
さすがに神経使って十日も入院してたものね。
「見せてもらうわね」
「さすがはアカネさんや、これ以上の画像は世界中探してもあらへんで」
「うむ、動物も鍛えといたからな」
たしかにペンギンとか、ライオンとか、トラとか、カルガモとか、
「ディスカル、どう」
じっと見つめていたディスカルさんだけど、
「全体が鮮やかな緑で、腹部が赤。ケチュルに似てるが・・・」
ケチって誰のことかおもったけど、そうじゃなくてケチュル。エランにいた愛玩用の鳥に似てるって。エランでも小鳥を飼う趣味の人がいたんだ。
「ケチュルもエランでは私が生まれるかなり前に絶滅しており、実物は見たことがありません」
「こんな大きなものをペットにしてたの?」
ディスカルさんはじっと考え込んで、
「可能性があるとしたら、大いなる災いの鳥です」
「やはりアンズー鳥」
「さすがジュシュル総統が恋い焦がれた人です」
ジュシュルってあの時の船長。だれが恋人だって、答えたのはユッキーさんだから、まさかユッキーさん。あんな怖い顔をするユッキーさんに欲情したジュシュルは変態とか。いやマゾか。
「私も戦史の講義で聞いた程度だが・・・」
かつてエランでも怪鳥騒ぎとか、鳥戦争みたいなみたいなものがあったんだって。ただそれも千年以上前の話だそうで、
「エランでも既に絶滅したと考えています」
「千年だものね」
そうだよ千年だよ。ディスカルさんが覚えてるだけでも驚異的だもの。アカネなんて一週間前どころか、一時間前のことでも忘れることがあるし。
「こんなに大きくなるものなの?」
ディスカルさんは遠い記憶を呼び起こすように、
「エランで出現した最大級のもので、翼開長で十メートルぐらいが最大だったはずです」
「でもこの鳥は三十メートル以上はあるよ」
ここでもディスカルさんは考え込んで、
「鳥についてはわからない部分が多いのです。遺伝子操作により作られてはいますが、放射能地域に適応した時にさらなる変異が加わったと考えられています」
「それにさらに反政府組織の改造もあったのよね」
「ええ、ですからエサが豊富だと巨大化する可能性はあると聞いた事があります」
「なるほど、千年戦争後のエランの食糧は慢性的に不足気味だったものね」
うん、象まで食ってたらデカくなるかも。
「大きくなったメリット、デメリットは」
「メリットは未知数の部分もありますが、大きさに比例して能力は上がると聞いたことがあります。単純には大きいほどより強大になります。デメリットはとにかく必要なエサの量が増えます」
あんまり嬉しくないデメリットかも、
「どれぐらい飛べるの」
これはポイントだよね。今はメキシコだけど、日本に飛んで来られたら困るもの。
「かなりの長距離飛行能力もあったはずです。それだけじゃなく、水鳥機能も有しているはずです」
「それって水に浮くってこと?」
「潜水も出来て、魚も捕まえられます」
あの鳥だったらクジラでも食べそう。でもそれなら、世界中どこにでも行けるってことじゃない。
「アカネさん、そうですよ。元は軍事用と言いましたが、目的は敵国の食糧を食べ尽くす事です。食べ尽くしたら移動する性質を持っています」
う~む。メキシコに居たらそのうち飢え死にしたかも。
「食べるのは肉だけ」
「なんでも食べる雑食性のはずです」
やばいなぁ、タケシに言って買いだめさせとかないと。
「寿命は」
「長いはずです」
「どれぐらい」
「人ぐらいはラクラクと」
待ってても簡単には死んでくれないのか。
「エランではハンティングの対象になっていた時期もあったって聞くけど、どうやって仕留めてたの」
「よくご存じですね。そういう時代もあったらしいですが、どうやって仕留めていたかは不明です」
「最後の怪鳥騒ぎの時は?」
ここもディスカルさんは考え込んで、
「政府軍が出動して三ヶ月ぐらいかかったはずです」
「三ヶ月も!」
具体的な作戦内容はさすがに覚えていないと言ってた。そりゃ、そうだろうな。ディスカルさんはエランのエリート軍人だったけど、別に鳥対策の専門家じゃないし、他に覚えることはテンコモリあるだろうし、千年も前に絶滅してるもんね。
「ヘリぐらいで撃ち落とせんかったんかな」
「あの程度では振り切られてしまいます」
ディスカルさんは科技研勤務。地球の技術にも詳しいし、軍事技術も元軍人だから、あれこれ調べてるで良さそう。でもって、ヘリは三〇〇キロぐらいが最高速度だそうだけど、あの鳥はヘリより早く飛べるんだって。
「速度もサイズに比例するとか」
「そうらしいです」
げっ、あの鳥ならもっと速い可能性もあるんだ。
「ほんじゃジェット機やったら」
「その手の高速機は低速のものに弱いところがありまして」
高速で飛ぶには空気抵抗を減らさないといけないそうだけど、減らし過ぎると低速では失速して落ちちゃうんだって。あの鳥は自分より高速の追尾者がいると極端にゆっくり飛ぶそうなんだ。ゆっくり飛ばれると、追尾しようとしても追い抜いちゃうらしいけど、
「追いついて一撃で落とせば」
「それが非常に小回りが利きまして」
照準を合わせようとした瞬間にヒラリと方向転換されたら、高速機では追い切れないんだって。そう、そのまま追い抜いちゃう状態になるで良さそう。
「高速機は対高速機を想定して作られてまして・・・」
ある相手を想定して特化されてるから、それ以外の相手を苦手にする部分は多いで良さそう。もちろん基本は早く飛ぶ方が有利だけど、
「地球で言えば、複葉機並みの小回りが利く上に、レシプロ高速戦闘機並の速度が出せるってところでしょうか」
ユッキーさんも、コトリさんも唸ってる。
「そうなれば対空ミサイルぐらいか」
「その辺は・・・」
あの鳥が開発された頃は誘導兵器への対策が進んでいたみたいで、
「ほぼ完璧なステルス性を備えています」
「だからか」
「道理で」
これはシノブさんが集めた情報にあったみたいで、あれだけ肉眼でハッキリ見えるのに、レーダーではほとんど捕えられなかったって。
「熱線追尾は」
「これも対策されています」
どうも覆われた羽毛がポイントみたいで、外に殆ど熱を漏らさないとか。
「そうかもな、別にジェットエンジンついてるわけやないからな」
「そうよね、対空ミサイルは鳥対策で作った兵器じゃないし」
えっ、えっ、それじゃ、どうやって。
「おそらく対空砲で撃ち落としたのではないかと」
「そんなん、どこに飛んでくるかわからんやんか」
「だから三ヶ月もかかったんじゃないでしょうか」
どういうことか聞いたら、対空砲は防御兵器だって。つまりって程じゃないけど、相手の攻撃機が来ると予想しているところに配備して待ち受ける武器で、こっちから攻撃機を追い求める兵器じゃないってことらしい。
使い方として、鳥が飛んでくる、または襲ってきそうなポイントを予想して待ち受ける戦術になるけど、とにかく相手は鳥だから神出鬼没。よくまあ、三ヶ月で撃ち落とすことが出来たもんだ。
「知能は」
「優れていますし、学習能力も非常に高いものがあるとなっています」
アカネも段々不安になってきた。
「あれだけ巨大になれば無敵に近いとか」
「可能性はあります」
でもさぁ、エランだって千年前が最後だよ。あれは違う可能性が、
「これはね、アラに聞いたんやけど、アンズー鳥の卵には謎が多いんやって。とにかく温めなくとも勝手に孵化するし、孵化する時期も五十年単位らしいんや」
五十年ってなんなのよ。それも産みっぱなしで勝手に孵るって、
「それじゃ、何百年も経ってから突然孵化することもあるかもって」
「そういうこっちゃ」
でもさぁ、あれだけデカいんだから卵も巨大なはず。そしたらディスカルさんが、
「卵は小さいのです。そうですね、地球ならウズラの卵ぐらいです。そして非常に頑丈だそうで、卵形の石にしか見えないとも言われています」
そんなに小さいのから、あれだけ巨大化するんだ。
「さらにこれは、聞いただけの話ですが、卵自体は非常に美しく、まるで宝石の様だとされています。ですから、エランでも誤って宝石扱いされたこともあるそうです」
「見分け方は?」
「エランでも非常に難しかったそうです。だから、偉大なるアラが何度も鳥退治をしたにも関わらず、これをなかなか完全駆除できなかったとされています」
でも、でも、地球には、いやこの神戸には女神がいるんだ。
「コトリ、無理そうね」
「あんだけのサイズやし、象だって持ちあげるパワーやろ」
女神の得意技の金縛りも、人のコントロール術も、
「まず通用せえへん可能性がある。もし通用しても、そんなに長時間押さえ込めへんと思うわ」
「そうよね。最後はパワー勝負になるけど、桁違いだものね」
だったら、
「神戸に来たらヨーロッパに逃げようかな」
「そやな」
こらっ、逃げるな。逃げるんだったら一緒に連れて行ってくれ。でもどこに逃げても、そんな化物鳥なら追いかけてきそう。メキシコでケリがついてくれないかな。
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