アンズー鳥
「もしいるとしたらアンズー鳥ぐらいじゃない」
「ユッキーもジュシュルから聞いたんか」
アンズー鳥はシュメール神話に出てくる鳥。エン・リルに仕えていたんだけど、主神権奪おうとして、主神権の象徴である天命の書板を盗み出すって話が残されてる。
「その話の元はエランやねん」
「エラン?」
エランにアンズー鳥は実在したって言うのよね。
「もともとは愛玩用のペットとして広まったそうや」
エラン人も鳥を飼う趣味があったんだ。聞く限りで言えば、地球で言えばインコとかオウムみたいな感じかな。
「アンズー鳥の改良が行われたんや」
「品種改良ですか」
「いや遺伝子操作や」
エランでも遺伝子科学は極度に発達したそうなのよ。まあ、そうなってるだろうけど。
「アラでさえ聞いたことがあるレベルやから・・・」
なんらかの理由でアンズー鳥は遺伝子操作しやすかったみたい。もっとも愛玩用だから入手しやすかっただけかもしれないとはしてたけど、
「軍事用の生物兵器になったそうやねん」
「生物兵器!」
「うん。一万五千年以上前やって言うとったけど、敵国の食糧消耗が目的やったそうや」
巨大化させて、相手の国の食糧を食いつくそうって作戦だったそうなのよ。よう、そんなん考えるわ。
「結果としては失敗やったそうやねん」
聞くと笑いそうになったけど、とにかく鳥だから自分の国にも飛んで来て往生したんだって。軍事研究はしばしば暴走して珍兵器を生み出すけど、アンズー鳥もその一つで良いみたい。
「その後が問題で、遺伝子操作されたアンズー鳥は野生化して定着したそうやねん」
「害獣として駆除しなかったんですか」
「したそうやけど、駆除しきれんかっただけやなくて、途中から趣味の対象に変わったそうやねん」
そんな鳥を愛玩用に飼うのがいるかと思ったら、そうじゃなくてハンティングの対象にしたみたいなの。
「かなり手強い相手で、ハンティングするにも高度なテクニックが必要な上に、時に逆襲されて命を落とすこともあったそうや」
よくまあ、そんなアホなことと思うけど、ハンティングが好きな人って、そんなもんだと言うし。でも大型の鳥だし、狩猟の対象になれば、
「そうやねん。絶滅寸前までは行ってたらしい・・・」
エランでは核兵器登場後も戦争が何度も行われたんで、汚染地域が広がってたのよね。そんなとこに人は住めないし、動物もそうのはずだけど、
「ところがやな、アンズー鳥は汚染地域に適応してもたらしい」
アラの話では、汚染地域に適応した動物や植物が発生し、そこにアンズー鳥も生き残っていたとしていたみたい。そこにわざわざ放射能防護服着こんでハンティングに行ってたのもいたらしい。趣味もそこまで行くと病気やわ。
そこに起ったのが千年戦争。ハンティングどころじゃなくなり、やっとアラが平和を取り戻した時にアンズー鳥の襲来があったそうなのよ。数も増えてたからエラン史では鳥戦争とまで呼ばれてるらしいわ。とにかく食糧を食い尽くす害鳥だから、駆除に努めたそうだけど、
「でも絶滅はせんかったみたいや」
信じられないけど、アンズー鳥を密かに飼うというか、繁殖させる者が後を絶たなかったそうなの。
「どうして、そんな厄介者を」
「本来の目的に使うためやろ」
独裁者アラの統治期間はとにかく九千年もあり、独裁者であるが故に反政府活動も断続的に消えなかったぐらいで良さそう。そんな反政府運動の一つにアンズー鳥を使ったゲリラ活動があったぐらいかな。
「反政府組織は、さらなるアンズー鳥の改良をやったらしい」
「さらにですか」
「さらなる大型化と、パワーアップや」
破壊力は大きくなったけど、ターゲットもデカくなったから、これまたアラ政府は押さえ込むことが出来たけど、
「その後は?」
「たまに怪鳥騒ぎが起るぐらいになったそうや」
どういうこと。そしたらユッキー社長が、
「それはね、アンズー鳥の繁殖が特殊だったそうよ。卵は勝手に孵るそうだし、孵る時期も五十年単位だそうなのよ」
「五十年ですか!」
「それも単位だから、百年とか二百年もありそうだってジュシュルは言ってたわ」
それでも最後のエランの怪鳥騒ぎは千年以上前だって。
「そんな怪物が地球に来てるとか」
「訳ないよね」
「そやそや、千年前やで。アラこそ実物見たことあるけど、ジュシュルやアダブだって昔話もエエとこや。それこそ伝説の怪鳥ぐらいやで」
それもそうだ。
「でもね、アンズー鳥とメキシコの怪鳥はやる事が似てると思うのよ」
「でもどうやったら地球に持ちこめるのですか」
「そこなのよね」
エラン船が来たのは、最近だったらアラの時、次はシリコン採取の時、三回目はコトリ先輩があっという間に制圧したガルムムの時。最後はディスカルが来た時。
「まさかジュシュルが」
「ジュシュルはメキシコには行ってないよ。シノブちゃんが知っている五回でメキシコに行ったエラン船はいないよ」
言われてみれば。鳥は飛べるけど、卵が勝手にメキシコに飛んでくのはおかしいし。
「あるとしたら」
「一万年前ですか」
「あん時は意識だけの宇宙船やで」
「じゃあ一万五千年前」
「いくらなんでもやろ」
じゃあアンズー鳥の線はなさそうよね。
「二千年前がある」
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