四座の女神の恋

 交際は順調。釘付けもしたいけど、やっぱりここはステップも大事よね。


「シノブちゃん、そやで。真の恋愛の楽しみは積み上げていくステップにあるんよ。そりゃ、やるのは楽しいけど、それだけが目的やないからな」

「そうよ、やるのは結婚したら好きなだけ出来るんだし、積み上げた末についに結ばれるプロセスがロマンチックなのよ」


 よく言うよ。デートから帰る度に、


「まだか、まだか」


 そりゃ、もう聞きまくって煽るんだよ。それにだよ、二人とも本当に女神の男にしたい相手には、どれだけ時間をかけることか。ユッキー社長なんて未だに初夜にロスト・バージンが夢みたいなところが確実にあるもの。もっとも割り切って男遊びもするのは置いとく。五千年も女やってるから、さすがにそこまで単純じゃない。



 さてなんだけど四女神の関係はユッキー社長とコトリ先輩が血の絆で結ばれた盟友であり、戦友であり、親友なのはわかりやすい。口ではあれこれ言うけど、二人が無条件に信用しているのはお互いだけなのはよくわかるもの。


 それに較べてシノブやミサキちゃんはちょっと違う。前にミサキちゃんも言ってたけど、元は次座の女神から別れたのだから、コトリ先輩とは親子関係に近いものがどこかにある。もちろんコトリ先輩が母親面なんて間違ってもやらないけど、どこか娘を見る目があるのよね。


 じゃあ、ユッキー社長はどうかというと、優しい伯母さんの感じがあるのよね。そう、親子でもないし姉妹でもない。と言って他人でもない。ミサキちゃんに言わせると、


「お二人はアラッタの主女神が作り出された姉妹と見て良い気がします」


 記憶の始まりが大神官の娘と、そこに買われてた女奴隷だから、お二人の仲に姉妹意識なんてどこにもないだろうけど、シノブから見ればミサキちゃんの見方は合ってる気がする。この辺はシノブとミサキちゃんが次座の女神から作り出されてるけど姉妹意識がないから似たようなものかも。


「でも伊集院さんとの時はコトリもユッキーもビックリしたんや」

「四座の女神の失恋なんて無かったんじゃない」


 もちろんシノブにだって失恋の経験はあるけど、ほとんどは女神になる前の人時代の結崎忍の時。人時代の結崎忍はどこにでもいる、とくに目立つこともない普通の女の子。人並みに恋をして、人並みに付き合って、人並みに失恋経験もある。


 微妙なのはツトムの時。ツトムとは人時代に付きあいが始まって、プロポーズを期待するところまで進んでいたのは認めるよ。ツトムとの仲が壊れちゃったのはシノブが女神になってから。


 ユッキー社長がシノブに女神を移す時のミスで、山本先生に異様なぐらいに魅かれちゃったのよね。そのお蔭でツトムへの思いが冷え切っちゃたんだ。あれも失恋だけど、振ったのはシノブだものね。


 シノブが女神になって最初の恋はやっぱりミツルだよ。コトリ先輩からの紹介だったけど、山本先生への思いがまだあったのに、それさえすっかり洗い流してくれるぐらい夢中になってゴールインだものね。ミツルの最後は可哀想だったけど、それでも愛し抜いていたと胸を張って言えるもの。


「まあな、四座の女神の恋はとにかくストレート。好きとなったら脇目も振らず一直線や。相手の男に脇目を使わせる余裕もない感じかな」

「そうだった、そうだった。後だしジャンケンみたいだけど、伊集院さんの時の恋の様子はちょっと違和感があったのよ。四座の女神の恋にしたら、なんか回りくどいって」

「まあ、四座の女神の恋って言っても、記憶の継承が一旦リセットされてるから、少し変わったぐらいにしか、あん時は思わんかったけど、今から思たら、どこか調子が変やったよ」


 愛梨にはデュエロで勝ったけど、結局譲っちゃったものね。あれだけ奪い返してやるって燃えてたのに、愛梨の気持ちを知ったら醒めちゃった気がする。


「こんなん慰めにならんと思うけど、伊集院さんはシノブちゃんの男に相応しい器量はあったかもしれへん。そやけど、赤い糸はつながってなかったんやろ。それをどこかで薄々感じてたんかもしれへんで」

「わたしもそんな気がする。だから今度の平山博士の話を聞いてると、今度は間違いないと思ってるよ」


 伊集院さんに失恋した時には、シノブは終ったと思ったし、女神を取り上げられてもイイと思ったけど、今となったらそこまでじゃないものね。そうなると今度こそ運命の男だよ。


「まだ会ったことあらへんけど、コトリもそんな気がするで。そやからだいじょうやと思うで」

「私もそう思うよ。そりゃ、驚くだろうけど、シノブちゃんが本気で欲しいなら、最後は気にもならないよ」


 そうシノブにとって最後の難関。シノブが女神であることを知ってもらうこと。これは現代の女神にとって初めてのものでイイと思う。だってさ、ユッキー社長もコトリ先輩もずっと売れ残りだし。


「そこまでいうか」

「わたしはジュシュルに売却済って言ったでしょ。コトリと一緒にしないで。カズ坊とだって籍こそ入れなかったけど心の夫婦だったのよ」


 ミツルの時は女神になってたけど、付き合い始めた時はまだ女神の自覚がなかったし、二人でコトリ先輩の天使を追っかけてたものね。だからシノブが四座の女神とわかった時にも予備知識がしっかりあったから、


『やっぱりそうか』


 これぐらいで、それほどの驚きとか関門の感じはなかったもんね。せいぜい天使と思っていたシノブが実は女神だったぐらいかな。


 ミサキちゃんの場合も似てるのよね。マルコはエレギオンの金銀細工師だから、ユッキー社長とコトリ先輩を除けば古代エレギオンの知識は世界でも指折りぐらいあったんだよ。ミサキちゃんは山本先生のマンションに行く前に打ち明けたそうだけど、これもすんなり受け入れてもらったと聞いたことがあるんだ。


 ディスカルに至っては、最初から地球の神と紹介されてから交際が始まってるから、そもそも何の障害もないものね。


 シオリさんと山本先生は、最後まで伝えなかったんだよね。その辺はシオリさんが女神であることを知らされても、記憶を受け継がないタイプだったので、女神であることにあんまり関心がなかったのもあったで良さそう。


 星野君の時は、まず星野君が八十歳の加納志織に恋して、加納志織が亡くなった後に現れた麻吹つばさがシオリさんであることを突き止めて、再び恋をしたぐらいだものね。これまた問題になる余地は無し。



 今回のシノブは今までの例とは違うのよね。マモルはシノブをエレギオンHDの専務であるのは受け入れているけど、シノブが女神であることは一切知らないし、マモルがエレギオンの女神にさして興味がある訳じゃないんだよね。


 シオリさんと山本先生の時のように知らせずに結ばれるのもあるけど、その時とは状況が違いすぎると思うんだ。やっぱり女神の実在を知って、受け入れてもらわないといけないんだよ。シノブが言ってもイイんだけど相談すると、


「いつでも連れといで。コトリとユッキーがあんじょうやったる」


 二人は悪戯も大好きだけど、やらなければならない時はキッチリやってくれるものね。少なくとも座興で他人の恋を潰したりしないはず。


「あのなぁ、シノブちゃん。女神にとって恋は楽しみであり、生きがいであり、何者にも代えがたい大事な、大事な至上のものなんや。座興で潰したりするかい」

「そうよ、平山博士が来られた時には女神の仕事としてやるわよ」


 ここは首座と次座の女神に頼ろう。なんてったって、人生経験も、恋愛経験も、そういう厄介な修羅場の経験も桁違い。この二人が女神の仕事として取り組んで失敗するとは思えないもの、


「シノブちゃんの言う通り、これからの女神の恋のためには必ず通らなければならない関門になるわ」

「そうや。この関門を不幸の関門なんかにするものか。知恵の女神の本領を期待しといて」


 マモル、頑張って受け入れてね。シノブは確かに女神で普通の人とはちょっとだけ違ったところはあるけど、体は間違いなく人だし、心だってそう。子どもだってちゃんと出来るのはミツルが証明してくれてる。その日はきっと近いはず。その時には、その時には・・・

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