焼き鳥

 そのうち消えると思っていたメキシコの怪鳥だけど、興味本位のテレビ局が『世界なんとか発見』みたいな番組で断続的に取り上げるし、そこで、


『出たっ』


 ホンマにそうかないなと思うような不鮮明な、


『衝撃の映像』


 これを放映するものだから、なんとなく日本でも盛り上がってる感じ。もちろんコトリ先輩は熱中されています。ユッキー社長に、


「ホントにいるのですか」

「さあね。でもコトリは昔から好きだからね」

「キワモノ好きですね」

「自分がキワモノだからシンパシーを感じるんじゃない」


 言われてみれば女神もキワモノだものね。


「でもね。五メートルは大げさだと思うわ。鳥だって飛び上るのは大変なんだよ。現存ではアホウドリが最大クラスだけど、助走しながら飛び立つし、コンドルだって飛び立つのは大変なんだよ」


 大型旅客機みたいなものかな。


「これが五メートルになれば、飛び立てない気がする」


 飛行機みたいにエンジンのパワーアップってわけにはいかないだろうし。


「だからせいぜい実在したとしても四メートルぐらいかな。それぐらいなら個体の例外として存在するかもね」


 ユッキー社長は冷静で、コトリ先輩が大好きな謎の巨大生物は頭から否定的です。


「種の存続のためにはある程度の数の個体数が必要なのよ。たった一羽とかが生き延びるはあり得ないってこと」


 でしょうね。そんな巨大なものが百羽もいたら、今まで見つからない方が不思議過ぎるもの。


「だから小型の未知の生物の発見はあり得ても、大型はあり得ないってこと。そこそこ大型で可能性があるのは海洋、それも深海ぐらいだよ。地上で発見されるなんて痴人の妄想よ」


 これはシノブも同意。


「でも調査を命じられたのは?」

「この騒ぎは長くなってるじゃない。仕掛け人がいて、何かを企んでいると見ただけよ。その意図が悪ふざけならイイけど、もっと根の深いものならエレギオンも対応が必要になるかもしれないじゃない」


 そっちか、


「もう一つ理由があるけど、そっちはさすがにね」

「なんですか」

「無いと思うよ、千年も、二千年も前の話との関連だもの。そんなに長いこと発見されない訳ないし」


 そこにコトリ先輩が、


「今夜も鳥の特番あるんや」

「だったら今夜は焼き鳥にする」

「あれはアカンて。前に庭でやってスプリンクラーの雨降らせてミサキちゃんにどれだけ怒られたことか」

「じゃあ、グリルで焼く」

「アカンて、焼き鳥は炭火に限る」


 それでも焼き鳥が食べたいとなって三宮に。ここは最近のお気に入りの店で、


「とりあえず十本頼むで」


 これだけで名物のツクネが出て来るってお店、


「ここのツクネは他とは違うね」

「さすがのコトリも真似できへんわ」

「メキシコの怪鳥も美味しいのかなぁ」

「肉食系の動物は鳥に限らず旨ないのが多いからな」


 トラとかライオンとか、あんまり食べる話は聞かないものね。


「その辺が魚とちゃうとこやろな」

「この皮も美味しいね」

「この焼き方はコトリ好みや」

「わたしもこっちの方が好き。皮も脂を抜き過ぎると良くなって人もいるけど、やっぱりパリッとしてないと」

「そうや、ベチャっとしている皮は好かん」


 ここの皮はシノブもお気に入り、


「ユッキーも塩派やな」

「タレも嫌いじゃないけど、鶏肉の旨みを味合うなら塩でしょ」

「そうやそうや、ハート十本追加タレで」


 あれハートは塩じゃないのか。


「ここのタレも美味しいのよ」

「ハートはタレやで」

「ビールも頼むは」


 焼き鳥談義で平和な夜を過ごしました。三人で百五十本ぐらい食べたかな。

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