03-05. フォロワーとは
『三回戦第13レースはエントリーナンバー1、
制御落下中の彩音は、勝利のパフォーマンスで身をひねる。
くるくると回転するAFウェイブソーサー。
「あっやねちゃん、さいこー!!」
ダンスに応え、腕を8の字に交差させる美波彩音のフォロワー軍団。
今日は調子がすこぶる良い。
決勝まで順調に駒を進めることができた。
「うふ、ぜっこーちょー」
フォロワーの反応も上々だ。
彼らとの一体感は、過去最高ではないだろうか。
一点気がかりなのが、数週間前に突如として現れグランプリレースを荒らした新人エアリエルが参加していることだ。
彩音もこの業界に身を置いて短くないが、彼女からは嫌な予感が明かりを灯したアロマキャンドルの如く醸し出されている。
「微妙な悪寒がするのよねー」
次の三回戦14レースで勝ち上がってくると、決勝戦で自分と戦うことになる。
変な波乱が起きやしないかと、少しやきもきする。
そんな対戦相手の気持ちも知らず、ラフィーはフォロワーと自分の関係について、今更ながらに教わっていた。
「フォロワーってとても重要なのね」
「
ラフィーはアルス・ノヴァを装着したまま、コトーネルの青空整備を受けている。
すぐに次のレースが始まるから、脱いでいる時間がないのである。
口調とは別にテキパキと各所のチェックをこなしてゆくコトーネル。
必然、会話の相手はディジュハは宮保となる。
「一番利用されているブレインパルスは、AF装着者のものです。エンジンに直接触れているわけですから、供給先として優先度が高いのは理解できますね」
素直に頷くラフィー。
「EEGPで気を失うほど出したんだから、知っているわよ」
「それもそうでしたね。試作の新型エンジンがあったとはいえ、よくぞお一人で……。
通常ならば考えられない業績です」
「やっぱりGパルスドライブはすごい新発明だったんだ」
「そりゃフランケン大学肝入りの試験機、普通に国家プロジェクトレベルの話、惑星エスメカランとしては外せない新規動力源の実験だろうからな」
「え、そんな
「大事だったんだよ、前回のEEGPは、ナーサ・ガリルの撃墜とか、『
ふーん、と今一実感の無いラフィーへ向かって宮保が言い直す。
「フォロワーの走りはシャトルパイロットへの応援です。
パイロットへの応援がそのまま推力へ変えられると見込まれた。
そこからシャトル、つまり
「AFの稼働にフォロワーのパルスリンクは必須なんだよ、ここから立場が逆転したのさ、誰のためにエアリエルがいるのかといえばフォロワーのためだよ、だって彼らがいないとパルスリンクが受けられないんだからAFが飛べなくなっちまう、それならエアリエルは歌手、アイドル、レーサー、いったいどれ?」
「
苛立ちを堪えてラフィーが言った。
ちっちっちっ、と人差し指を横に振ってディジエが苦笑いする。
「全部一緒のものさ、エアリエルは商品だ、お客さんの方を向いていなくちゃ、アスリートというならなおさら後援者との関係を大切にしないと」
また2人が険悪な雰囲気になりそうなところで、コトーネルが大声を出す。
「えっと、あの!
マシンチェック、終わりました。
そろそろ、時間です」
「今回の講義はここまでだね、オーナーは一度フォロワーたちと話してみると良いかもしれないぜ」
ふんっと顔をそむけたラフィーが発射台へと歩いてゆく。
『それでは三回戦第14レース、はじまります』
準決勝第二試合のアナウンスが鳴る。
発射台から生えたグリップを握り、シグナルツリーに神経集中させるラフィー。
相手は青いボディのAF。色合いはトリシャと違うし、カウルも丸みが多い。彼女とは比べるものじゃないとラフィーは思った。
1つ目のランプが点灯する。
呼吸を止める。
2つ目のランプが点灯する。
瞬きもせずにシグナルツリーを見つめる。
3つ目のランプが点灯する。
意識をAFに戻し、ブレインパルスリンケージアークイオンドライブを爆発させる。
人間の脳波が物理的に出力され推力へと再変換される。
今アルス・ノヴァを陸から空へと推し進めている力こそ、人類が手に入れた無限の推力比、願えば叶う夢のエンジンだ。
スタートでは胸先だけラフィーが出遅れた。
さすがにここまで勝ち上がってくるだけあって、相手も相応のテクニックを持っている。
2人は加速を止めずに突き進む。
先に減速を始めたのはラフィーの方だった。
青いエアリエルは限界まで進むが、降下へのライン取りはアルス・ノヴァに軍配が上がった。
ラフィーは二回のレースで、第1チェックポイントは気持ち早めの方が抜けやすいと感じていた。
実際にうまくいくと気持ちが良い。
再び加速するラフィー。後を追う相手選手。
動力降下でグングンと海面が迫る。
ここでの注意点は、第2チェックポイントよりそこそこ手前に降りることだ。
チェックポイントを通過する時はできるだけ水平に近い飛び方が良い。
減速に無理がないし、次に迫る急上昇への助走にもなる。
そして最後は、力の限り空へと落ちる!
パルスリンクを全開してスラスターを盛大に吹かす。
上昇圧力がラフィーの小さな身体を押し潰そうとする。
新垣翔子に言われたとおり、イナーシャルコントロールは最低限の呼吸と身体を保護するだけで、残りの力を全て前進へと振り切りる。
加重は歯を食いしばって耐える。
ここで驚くべきことがあった。
相手の青いAFがラフィーの横に並んだのだ。
自分の操縦に間違いはない。綺麗に飛べている。
マシンドレスの能力は
それなのにラフィーに続いてきている。
追い抜こうとさえしている。
ラフィーは上方に腕を伸ばしたが、進まない。加速がこれ以上乗らない。
だからといって負けてやるものかと、意識を爆発させてゴールを切った。
『三回戦第14レースはエントリーナンバー16、ラフィー・ハイルトン・マッハマン選手の勝利です』
正直、僅差の辛勝だった。
着陸地点で宮保たちと合流したラフィーが口を開く。
「あれがフォロワーの差なのかしら?」
「先程のレースのことを言うのであれば、そのとおりです」
「相手にはどれだけのフォロワーがいたの?」
「正確な数はあちらの中継屋しかわかりませんが、ラフィー様より多少は数多い程度と思われます」
「そのぐらいで逆転が出来るぐらいなんだ」
「このリバースダイバーは規模が大きくありませんから、フォロワーの質が大きく関わります。
数は許容される範囲かと」
「さらに言っちゃえばさオーナー、ブレインパルスが送信波である以上、距離での減衰ってのは出てきちまう、だからこそ直接送信する、現場応援団なんてのが組織されるわけだよ」
技術的な面でディジュハが解説する。
「最後の相手である彩音は強敵だっていうのね」
「えっと、インターバルも、限りがあるから」
コトーネルが立ち尽くすアルス・ノヴァの状態のチェックを始める。
「ありがとう、コトーネル。
今日のアルス・ノヴァはとても良い調子だわ」
ラフィーが笑うが、すこし硬い表情だった。
そう。アルス・ノヴァに問題はない。
リバースダイバーのアクセルワークだって覚えた。
だというのに、美波彩音は揺るがない強敵として存在する。
彼女を追い抜くには一体どうしたらいいのか。
薄霧に包まれたような迷いにラフィーは囚われた。
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