夢の中の男は、僕のいるこの世界をギャルゲーだと言っていた。

第27話

「ネックラ様〜」

　マリア様が困った顔で僕を呼ぶ。

　——まあ、こうなるよね。

「えっと、はい。それじゃあリーディア様、失礼しますね」

　僕はリーディア様に断りを入れてからリフレッシュ魔法をかけた。

　眠気覚ましのリフレッシュ魔法はクリーン魔法と同じく、メイドや使用人が使う従事魔法だと貴族界隈では認識されている。だからよほどの理由がない限り貴族は使わない。

　でもね、この魔法は練習もなくぶっつけ本番で使えるほど簡単な魔法ではない。

　魔力操作にかなり気を使う繊細な魔法なのだ。

「ん、おお」

　マリア様に寄りかかり船を漕いでいたリーディア様の瞳がバチっと開く。

「クライ、くん？」

　目を擦るリーディア様。眠気が飛んでスッキリとした感覚がよほど嬉しかったのか饒舌になり、リーディア様は聞いてもいないのに、本が好きでいつも夜更かしするとか、使用人は父の召喚獣人だから気が気かない、リフレッシュ魔法だって使ってくれないと笑う。

　おかしいな、リーディア様はたんに寝るのが好きだったと知識にあるんだけど違うみたい。

　思い込みはいけないな。記憶にある僕だって全然違うし気をつけないと。ここは現実なのだから。

「おい！　もたもたするなっ、早くしろ！」

　クガーナが少し進んだ先から振り返り、僕の事を怒鳴っている。

「はい。皆さん行きましょうか」

　ルイセ様、セシリア様、マリア様、リーディア様の順に視線を向けてから同意を求めるように頷く。

「そうだね」

「そうだな」

「行きましょう〜」

「うん。行こうか」

「ちっ」

　そんな俺たちの様子をクガーナが苦虫を噛み潰したような顔をしてから前に向き直る。

　レクレーションの一つだけどこれは訓練。

　組み分けされたパーティーに分かれて一定の間隔を保ちながら森までの道のりを進むのだが、

「王子」

「うむ。私たちも行こうか」

　王子のパーティーのみが馬車に乗り早々と出発した。

　王子の言い分では先に行って危険がないか確認しておくそうだ。

　しかもその馬車に乗り込むメンバーはアルジェ様、シリル様、リビラ様、ヒルデ様と平民のアーラになっていた。

　余談だがその平民の娘もDと表示されているだけあって一目見て分かるほどお胸が大きい。

　やはり王子はお胸が大きい女性が好みのようだ。

　そんな王子には騎乗した護衛騎士が一個分隊（１０人）着いて行く。

　王子のやりたい放題だな。

　王子たちを見送り僕たちは歩くことになるが、時間にして一時間くらいかな。

　魔物はダンションにしかいないので出るなら盗賊の類いだろう。

　念のため影察知を展開しつつ影狼を放っておく。

　ちなみに影狼とは、影魔法の中でも扱いが難しく極秘魔法に分類されている魔法の一つ『影取り』で、強制的に相手の本体を影の中に取り込み配下にした影の狼。他にも僕の影配下は鼠、鳥、馬、熊といる。

　ちなみに影のみしか取り込めなかった場合の能力値は低下してしまうが、逆に本体ごと取り込んだ場合は、術者の能力に応じて強化補正されている。

　僕の場合はたぶん１０倍くらいは強化されていると思う。

　それだけ強力で難しい魔法だから影の名を持つものでも使い手は数人しかいない。

　影召喚との違いは、相性に関係なく配下にすることができ、消費する魔力も十分の一程度ですむ。それでいて強化補正もされるからこの魔法の使い手にはかなりの額の手当てがつくんだ。配下を抱える身としては大変ありがたいよね。

　——着いた。

　拍子抜けするほどあっさりと森にたどり着いた。

「みんなよく頑張った」

　馬車に乗り先に到着していた王子が皆に声をかけてくる。労いの言葉らしい。

「王子、お疲れではありませんか」

　クガーナがさっそく手揉みしながら王子に近づきぺこぺこしている。

　あわよくばあちらのパーティーに戻ろうと考えての行動だろう。

　他にも追い出されていたメンバーが王子の周囲に集まっていく。

　結局は王子のパーティーには戻れず、その集まっていたメンバーで５人のパーティーを新たに作っていた。

　——アイツら課題はどうするのだろう。

　王子と同じキュアリーフでも集めるのだろうと思うが、それだと僕たちと被っているから面倒でしかない。

　僕たちのクラスは６人で組み、五つのパーティーができていたが、王子たちが勝手にメンバーを入れ替えしたせいで６人が一つ、５人が四つと、４人が一つの合計六つのパーティーになってしまった。

　先生も何も言わないからこれでいいのだろう。

「みんな、この森は安全だが獣は潜んでいる。

　ケガがないよう周囲には十分注意して課題にあたるようにな」

　そんな王子の言葉を合図に皆がそれぞれの課題に取り掛かる。

　僕たちも５人のパーティーになったがルイセ様がその事に気にする事なく、自前の地図を広げてやる気をみせているので、僕たちもさっそく課題に取り掛かろう。

『クライ様……』

　突然アンナから影話が飛んできた。自由にするよう言っていたのにアンナとレイナはわざわざ先回りして待っていたらしい。

『実は……』

『超最低』

　アンナとレイナも僕に言い掛かりをつけたり嫌がらせをする王子が大嫌いだった。

　そんな王子だからこそ警戒してその行動を監視していたらしいが、アンナとレイナの話では、どうやら先に森に到着した王子たちは護衛騎士、一個分隊を使ってキュアリーフを集めていたそうだ。

　それで課題条件の数は既に揃っているらしく、後は適当に時間を潰してゴール地点（休憩地点）に向かうのだと二人からの報告で分かった。

『ヤツならやりそうな事だ。分かった、ありがとう。でも、こちらに被害が及ばないようなら相手をしなくていい』

『分かりました』

『うん』

　僕の王子に対する評価はすでに地に落ちている。その程度じゃ驚かないんだよね。

　それからルイセ様の地図を頼りにキュアリーフの群生地まで歩くのだが、目的地までは獣道のような細い道を進むことになる。

　影察知で周囲を探れば脅威となりそうな獣はいない、

　しかし、僕は影の魔力を纏っているから大丈夫だけど、女子生徒はスカートだ。虫に刺されたりしたら大変だろう。そう思い、

「リペレント」

　獣道を歩く前にルイセ様、セシリア様、マリア様、リーディア様に虫除けの魔法をかけておく。

　もちろんこれも従事魔法という認識だ。

「ありがとうございますクライ様」

「クライ殿は気が効くな」

「ありがとうねぇ〜クライさ〜ん」

「クライくんって……やっぱり魔法操作が上手いね」

　でも、皆から感謝の言葉をもらったので僕も悪い気はしない。

「あ！　あそこにありましたわ」

　しばらく地図を頼りに歩いていると、王子に荒らされていないキュアリーフの群生地を発見した。

　一つ前に発見した群生地は王子たちに荒らされた後だったので皆の喜び様はひとしおだ。

　すぐに魔紙に書かれた手順でキュアリーフを摘んでいく。

「まあ、クライ様のところにもいっぱいありますね」

　しばらく手頃なキュアリーフを摘んでいると、ルイセ様が僕の目の前に屈んでキュアリーフを摘み出した。

「はい。有り難いことに、ここの群生地で課題数は達成しそうです……」

　——！？

　相手の顔を見ることなく話しては失礼だろうと思い手元に生えていたキュアリーフからルイセ様の方に顔を向けてみれば、ルイセ様のスカートの間からおパンツが丸見えになっている。

　——白！　っじゃなくて、これはまずい。

　そう思いすぐに顔を背けて少し離れた位置にあるキュアリーフに手を伸ばしてルイセ様から離れようとした、でも、

「お、こっちの方にも手頃なキュアリーフがたくさんあるな」

　セシリア様がそこに屈んでキュアリーフを積み出した。

　——！？

　なんて無防備な。身体をこちらに向けて屈んだからセシリア様のおパンツもスカートの間から丸見えだ。

　——水色、って違う。

　まずいと思った時には僕の一部が一瞬にして大きく膨れ上がっていた。

　元々出発前にもルイセ様とセシリア様に触れられて大きくなっていたのだ。

　一度は落ち着いていたが今の刺激でギンギンに目覚めてしまった。こうなると出すまで治まりそうにない。

『アンナ、レイナ。どちらでも構わない。お願いできない？』

　すぐに影分身を使って身代わりを置き、近くの木の上に飛び上がり群生地から少し離れてアンナとレイナを呼ぶ。

『ふふ、お任せください』

『レイナも』

『あー待ってボクも』

　どこかで見ていたのだろう。僕が木の上から呼んだタイミングでアンナとレイナがぴたっと抱きついてきた。

　数秒遅れて木の上を素早く飛び跳ねトワが来る。

　影話は常に三人と繋いでいて一人だけ除け者にならないようにしているからね。

　結局三人でやった。時間にして１５分くらいかな。

　短い時間だけど今はこれが限界だった。でもかなりスッキリした。最後にクリーン魔法を使って証拠を隠滅する。

『皆ありがとう』

『ふふ。アンナはいつでも大丈夫ですよ』

『レイナも』

『ボクだって』

　何事もなかったように影分身と入れ替わりことなきを得たが、影分身から記憶を引き継いだ際、ルイセ様とセシリア様から何度か話しかけられていたようだけど、キュアリーフに集中していて返事だけしかしていなかったようだ。

　ただキュアリーフを摘む事を優先させていたから、すごい量のキュアリーフを摘んでいた。

「クライ様すごいです」

「ずっと見ていたが、クライ殿は手先も器用なのだな」

「ほえ〜」

「うわ〜」

　予定よりかなり早く課題を終えることができみんなから感謝されたのはいいが、みんなの好感度まで上がっていてびっくりする。

　特にセイル様とセシリア様が、上がりすぎていていよいよまずいかも。2人の眼差しが少し熱を浴びている気がするし。

　しかし、2人はヒロインであり、高位貴族でもある。下手に距離を取ろうとすれば失礼にあたるし、近づき過ぎてもよくない。

　正直どうすればいいのか自分でも分からなくなっている。

　そんなことを考えつつも課題は終えたので、荷物（摘んだキュアリーフ）を僕が全部持ち５人でゴール地点（休憩地点）を目指した。