克斗星になる

54



 俺達の目の前には、巨大なゆで卵としか思えない物体が3つ浮いていた。

 襲ってくることもなければ防御力も極端に低い。

 ボス戦前の定番――サービスモンスターだった。

 つまり、本日の2戦目はボス戦と言うことになる。

 場所はオフィス街で道のど真ん中。周りには、それなりに高いビルが立ち並んでいる。

 昨晩もそうだったが、とてもじゃないが個人で賠償出来る被害額じゃないと思った。


「レッド! ブルー! ここまで来たら開き直るしかないだろう!」

「そうっすよね! 最終戦っすもんね!」


 そうか、もう終わりなんだ……。

 そう思う自分を否定できなかった。


「もう、後の事は考えない! 浮いているポイントがあるなら全部防御にまわせ! それから不謹慎だとは思うが、周りの被害の事よりも今日でゲームを終わらせることだけ考えて挑むぞ!」

「了解っす!」

「分かりました……」


 威勢の良いブルーとは対照的に俺の声は少し沈んでいた。


「どうしたレッド! キミらしくないぞ?」

「いや、これで二人とは、もう会えないのかなって思ったら……」


 嘘ではない。一番はノエルと一緒に戦っている時間こそが生きている証みたいなものだったが。二人と一緒に戦えて本当に良かったと思っているからでもあった。


「それはしかたないことさ、我々がなぜ素性を隠すのかは以前も言ったはずだ。諦めてくれ」

「頭では、集中しなくちゃいけないって分かってるんすけどね……」

「だったら、全力全開で全部出し切ろうぜ! もしかしたらどっかで偶然会ってお互い知らねぇうちに一緒にラーメンでも食ってるかもしれねぇじゃねぇかよ!」

「そう…っすよね」


 後の事は終わらせた後で考えよう。

 どうせすぐに答えなんてでないだろうけど、ノエルと一緒に楽しめる何かを探そう。







 この街に巨大な隕石が降ってくるかもしれない――。

 そんな嘘をもとに緊急避難勧告が出された。

 昨晩の大爆発による騒ぎも終わらないうちに飛び込んできたニュースでどのチャンネルも似たような事を言っていた。

 さすがに巨大隕石落下ともなるとサイレントとの関連性を疑うコメントは一つもない。

 1回目のモンスター出現が朝だったのに対し2回目は昼間。本来ならみんな仕事したり学校に行ったりしてる時間である。

 今までの流れから言って昨晩のヤツよりも弱いって事はないだろう。

 俺は、少し早いが現地に向かおうと思い出かけようとすると紫先輩に呼び止められた。


「これは、一人の女としての意見だ。行かないでくれ」

「それは、無理っすよ」


 仲間を見捨てるなんて出来っこないし、そもそも俺自身が戦いたがっている。


「だったら生きて帰ってこい。約束だ!」

「もとよりそのつもりなんで、美味い飯作っておいてください」

「うんうん、こんちゃんにしては上出来だね」

「愛衣先輩もなにかあるんですか?」

「愛する夫を戦地に送り出す奥さんの気持ちを察してほしいってことかな」

「それはまた、ずいぶんと重そうな話っすね」

「でも、後悔はしたくないんだよ!」

「で、俺は何をすればいいんすか?」

「この戦いが終わったら結婚するって言って欲しいんだよ!」

「ごめんなさい、俺の嫁はノエル一人でじゅうぶんなんで」

「じゃぁ、せめて愛人にするって言ってよ!」


 愛衣先輩は泣いていた。よほど心配をかけてしまっているのだろう。俺だって死ぬのが全く怖くない人間を見たら同じような事を言っていたかもしれない。

 むしろノエルと戦えなくなることの方が怖いくらいだった。そしてそれを口に出さなくても愛衣先輩は知っている。

 それでも立ちふさがったり引き留めたりしないんだからたいしたものだと思う。そしてそれは紫先輩も同じだった。


「紫先輩でも泣くことってあるんですね」

「当たり前だ愚か者! 帰ってきたら責任取らせるから覚悟しておけ!」

「まぁ、見ていて下さいよ。どうせテレビ中継か何かするんでしょ?」

「あぁ、少なくとも五石の方からの情報提供はあるだろうな」

「だったら期待して待ってて下さいよ! きっちり勝って終わらせてきますから!」

「行ってきますのキスもなしでか?」

「はい、帰ってくるまで取っておいてください」

「ふんっ! それも約束に追加だからな!」

「はいはい! んじゃいって――」


 愛衣先輩が抱き着いて来たかと思ったら唇を奪われていた。


「私は、こんちゃんみたいに我慢強くないからね。先にもらっときました」

「ごちそうさまでした。じゃ、今度こそいってきますんで!」


 向かった先は実家のある方向だった。

 店は閉まっているだろうが一目見てから現地に向かおうと思ったからでもある。

 本当に義父には感謝しかない。だからせめて店に向かって一礼だけでもと思ったからだ。

 行きかう人は誰も居なかった。まるでゴーストタウンを一人で歩いているみたいだ。

 シャッターの閉まったコンビニなんて借金の返済ができなくなった店だけだと思っていたが実家も含め全て閉まっていた。

 予定通り実家に一礼すると足を戦地へと向ける。

 その時点で見たこともないほどに大きな赤い三角マークが横回転してるのが分かった。


「超巨大級か……」


 おそらくただでかいだけじゃなくてそれなりに強いんだろうな……なんて思いながらも足取りは早くなる。戦うことに飢えているのが分かる。

 もう、戻れないと思った。早くどんな敵なのか知りたかった。

 ある程度近付いた所でノエルに確認をする。


「ノエル! 今回の敵はどんなヤツだ⁉」

【回答。超巨大級。基本戦闘レベルAAA。基本攻撃近中距離物理攻撃特化型と判明】


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