ファースト・デート

04



【起動。プレイヤーNo.7の意識覚醒を確認。報告。本日の索敵結果。AM7:35分。杉並駅にてモンスター発生を予告。提唱。所定時間までに彼女を入手し現場で待機することを推奨します】


 ――もしかして彼女の製作に成功したのか⁉


 半信半疑どころかまったく信じていなかったと言った方がいいくらいだったのに!

 まさか、本当にこんな現象が起こるとは思わなかった。

 こんな事ならきちんと言われた通りにするべきだったと後悔した。

 と、いうよりも。むしろ、ゲームの選択からきちんとすべきだったと反省した。


 ――なんで俺、R18版にしなかったんだよ!


 どう見ても指示を無視した結果だとしか思えない。

 聞こえてきた声色だけは、さくらだが。口調が紅理に近い。

 あんなめんどくさいヤツラが合わさった姿なんぞ不気味過ぎて見たくもない。

 そう言った点では、姿が見えなくてよかったと言えなくもないが……。

 気になるのは、金髪の持っている思考回路。正直なところ、ヤツだけはかんべんして欲しい。

 今となっては思い出すだけで吐き気がする。

 一応、容姿、スタイルだけならドストライクだった。

 全く二次元美少女なんぞに興味のなかった俺ですら彼女ならば――素直に、そう思ってしまうくらいだった。

 誰にでも気配りの出来る優しさと温かな微笑み。

 少しゆっくりだが、聞き取りやすい口調。

 見た目だけなら彼女が一番良かった。


「え~~~~。と、どなた様…ってゆーか、この文字は何?」

【回答。これは初心者用サポートシステムを改造した独自のシステム。文字は聴覚だけでなく視覚でも確認して頂くために表示】


 見回したところ飾り気のない自室だった。自分以外に人が居るようにも見えなければ、3D映写機が置いてあって動いていたりもしない。

 目に映った文字がそのまま付いて来るから実に物が見えづらかった。

 先ほど同様に聞こえた声は、やや早口ではあるが聞き取りやすく、声の感じは若い。やはり、さくらなのだろうか?

 文字は黒い太字で横書き。文章は、ちょうど50センチほど離れた所に見て取れた。

 俺は、もう一度部屋を見回すが……。

 せいぜいクラスメイトから借りた携帯式ゲームと店で売れ残った雑誌が少しばかり置いてあるだけの部屋だった。

 雑誌に掲載された女性が実体化してしゃべっているわけでもなさそうだし。そんな付録が付いていた記憶も全くない。

 身体をひねって、小さなテーブルの上に置かれたゲームソフトのパッケージに目をやれば――

 カーテンの隙間から差し込む日差しを浴びて、満面の笑みをたずさえている可愛らしい美少女キャラと目が合う。

 とても女性恐怖症のヤツが持っていたゲームとは思えないほど全身全霊を賭けて女好きを訴えていた。

 ってゆーか、感情の起伏みたいなものを全く感じない声が気になる。

 ヤツが自慢のコレクションから厳選してくれたのは、登場人物が全員元気な娘だったはず。

 しかし女の子の声は合成された機械音声みたいなのだ。

 となれば…答えは一つ。そうなる理由も痛いほど身に染みていた。


「そうか…俺は、ついに宇宙からの電波を受信出来る体質になっちまったんだな……」

【否定。現在プレイヤーNo.7に電波を受信する機能は設定されていません】


 せっかく出した結論を、この上なくもっともな理由で電波ヤロウに否定されたため、思わず身体を起こして声を荒げてしまう。


「じゃあ、なんなんだよあんたは⁉ って、ゆーかどこに居んだよ⁉」

【回答。これはプレイヤーNo.7をサポートするために用意された特別なシステム。現在の所在はプレイヤーNo.7の脳内】


 出来ることなら聞きたくなかった予想外の返答に背筋がぞくぞくしてきた。

 やはり麻里絵も交じってるっぽい。

 はっきり言って気持ち悪い。まるで寝ている間に脳ミソをいじくり回された気分だ。


「は……。ちょっとまて…。脳内ってなに?」

【回答。脳内とは、思考や行動等、プレイヤーNo.7を動かすために必要不可欠な部品が多く含まれる場所】

「や、そういう意味じゃなくて…なんで、そんなとこに居んの?」

【回答。プレイヤーNo.7をサポートするために最も適した位置との判断から脳内に組み込まれました】


 手が震えて、吐き気がした。ついさきほどまでめちゃくちゃ食いたい気分だったフライドチキンなんて見たくもない。

 幻聴にしてはリアル過ぎるし。妄想が生み出したにしては、理解不能な部分が多過ぎる。

 それでも、唯一の可能性として、とっておいた質問が否定されない事を祈りながら聞いてみた。


「なぁ。もしかしてなんだが…。その、俺が彼女出来ない状況になっちまった事で精神が壊れるっつーか、おかしくなって、だな…脳内に理想の彼女ってゆーか、そんな感じなものを創り出しちゃったってオチでいいのかな?」

【否定。これはプレイヤーNo.7が提示するところの彼女足りえません。報告。プレイヤーNo.7は、まだ精神攻撃を受けていません。問題なく、思考は働いていると推測】


 あっさり、最後の防波堤も決壊していた。

 むしろ壊れていると言われた方が、どれだけ気分的に楽だったろうか。

 俺は、「ぐわ~~~」頭を抱えてベットの上で転がりまわり。自分のしでかしちまった事をめいっぱい後悔した。


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