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 軽く飯を食い終わると迎えが来たからと言われ車での移動になった。

 運転手ががたいのいいおっさんなのはなんとなく想像していたが……後部座席に座っているのは俺だけではない。いつぞやの眼つきの怖いお姉さんが居るのだ。

 左腕をギブスで固定しているところから見ても相当のケガをしちまてってるみたいだ。

 はっきり言って空気が重い。だって二人ともなんにもしゃべらないんだもん!

 と思っていたら駅が近づいて来た頃――眼つきの怖いお姉さんが話しかけてきた。


「私の名はひいらぎ 鈴音すずね以前は助けてもらった、礼を言っておく」

「正確にはお姉さん担ぎ出したの紫先輩なんで機会があったら紫先輩にも言ってあげてくださいっす」


 紫先輩の名を出した瞬間――あからさまに嫌そうな顔をしたが、それでも「分かった。機会があったらそうしよう」と言ってくれた。

 駅に着くと同時に大きな三角マークが3つ見て取れた。どうやら相手は中型が3体らしい。

 モンスターの発生場所は駅の構内ではなくタクシー乗り場等がある入り口付近だった。 

 そこで俺が指定した所に、がたいのいいおっさんが緑色に発光しているテープで×マークを付けていく。

 3か所付け終わったところで隣町に移動となった。

 移動中に分かった範囲でモンスターのタイプを書き込む。見ていてくれると助かるのだが……直接やり取りができない以上祈るしかない。

 801に着くと思った以上に人は少なかった。入店制限をしてくれているみたいだ。

 そういえば私設軍がどうとか言ってたもんな……それなりの人材もいっぱい居るんだろうなぁ。


「ノエル。敵の場所は分かるか?」

【当然。敵モンスターの発生場所は屋上と断定】

「了解だ。モンスターの発生場所は屋上みたいなんでここまででいいっす。送ってくれてありがとうございました」


 お礼をきちんと言ったはずなのに柊さんは帰らない……。


「スマンが微力ながら参戦させてもらうつもりだ」


 銃刀法違反の物を見せつけてきた!

 刀である本物の刃の付いた刀である。どうやら右腕だけでも戦うみたいだ。

 はっきり言って足手まといな気がしたが、ここまで送ってくれたりした礼もある。

 俺なりに言葉を選んで言ってみた。


「ケガを悪化させない程度でおねがいします」


 ――そして屋上。


 それなりに子供向けの遊具などがあり少なからず人も居たが直ぐに退去してもらった。

 やはり、俺なんかのいう事よりも、強面のおっさんが言い聞かせた方が話が早いみたいだ。

 モンスター出現まではあと10分程度。相手はこちらも3体で中型だった。

 俺は「ちょっとトイレに行ってきます」と言っていったん離れてからトイレで変身した。


「ノエル。ステルスモードって解除可能か?」

【回答。可能】

「じゃぁ一時的に解除してくれ」

【了解】


 どうやら今日は俺が苦戦した相手ばかりをぶつけてくる日らしい。

 今回も、以前戦ったヤツだと思おう。

 もしかしたら、カネルって人のネタ切れなのかもしれないが……基本攻撃が音波で中型と言ったらシルクハットおばけしか思い当たらなかった。

 そこで、「柊さん耳栓って持ってます?」と聞いてみたところ「あぁ、もちろんだ」と言って耳栓をしてくれた。どうやら俺が変身してても全く気にならないみたいだ。

 俺の指示が聞こえなかろうと彼女自信が納得した結果を得られなければいけない気がしたから基本好きにさせるつもりである。

 あとは、俺自身がどれだけ強くなったか?

 昼間の敵は、もともと防御力の低いヤツだったから上手くいったってだけかもしれないのだ。

 しかも、相手は3体。以前してこなかった突撃攻撃もあると考えておいた方が良いだろうと思っていたら――。

 本当に出て来たよ、シルクハットおばけが3体。

 柊さんは、予想通り中央の帽子部分に切りかかっている。 

 でも指示はしない。俺は見ていろとばかりに金属部分を思いっきり刀もどきで叩く。

 ――武器が違うせいか以前よりも手ごたえが良い!


「ノエル! ダメージはどのくらい通ってる⁉」

【回答。現状の攻撃によるダメージ約5%。提案。武器の変更を要求】

「はぁ? 俺、他に武器なんか持ってきてねぇぞ!」

【否定。外骨格装甲変形機能によりソードモードが使用可能】

「じゃぁ、よく分からんがそれ頼む!」

【了解。外骨格装甲ソードモードに変形】


 右手の内側が変形し始めて刀になった。重さはほとんど感じない。

 使い勝手は良さそうだが後は切れ味の問題である。

 刀もどきを地面に置くと無駄に騒音をまき散らすだけの金属部分をぶった切る

つもりでジャンプして振り下ろす――⁉

 スパっと切れて、敵モンスター本体の一部を撃破していた。


「スゲーマジかよ!」

【当然。愛衣お母さんのおっぱいは最強】

 

 右手から生えてるから投げたりは出来ないが、これはこれで嬉しい誤算である。

 相手の移動速度はそんなに早くない。

 反対側も簡単に切り捨てると1体目撃破。2体目も同じように簡単に撃破。残る3体目は以前の俺を見ているかのような展開が続いていた。

 やはり右手一本では本来の力が発揮できないのであろう。苦戦しているようだった。

 下手に手を出すと後で何か言われそうで嫌だったので静観しているとラッキーなことに分離してくれて本体の一方が俺に向かって突撃してきた。

 ジャンプしながら上段の構えで打ち下ろすとこれまた簡単に切れて終了。

 残るは、柊さんの方だけである。


「ノエル。最後の本体は後どのくらいで撃破可能だ?」

【回答。約1分】

 

 以前、木刀でぶったたいてた時の事を考えればかなり順調な方だ。

 さすが、銃刀法違反の危険物だけの事はある。


 ――そして柊さんも撃破完了。


「すまない、足手まといだったな」

「いえ、特に足引っ張られたとかは思ってないっすよ」

「そうか、優しいのだなキミは……」

「そうっすかね? 放置して見てただけっすよ」

「それが私の望みだったからな。雪辱とまではいかなかったが機会をくれて感謝する」

「俺こそ、送ってもらったりして助かりましたから」


 事実である。共闘関係と言うなら少しくらいはこういうのもありかなと感じた部分も少なからずあった。







 場所が駅の入り口付近と言うのは壁を作るという意味で言ったら不可能に近かった。

 まず電車を止めなければならないし。何か所も道路を封鎖しなければならない。そして、それは警察の協力を得ても期待するほどの効果は得られなかった。

 野次馬と言うのはどこからでも湧いてくるそれこそモンスターの様に。

 

「おりゃ~!」


 モンスター出現と同時に決まったかと思えたブルーの正拳突きは黒い帽子部分を貫いただけ。まるで手ごたえがない。豆腐でも貫いた気分だった。


「なんだこいつ⁉」


 そこでブラックは克斗の書き込みと以前の記憶から両サイドの金属に見える部分が本体なのではないかと察して攻撃を仕掛ける。

 周りに人が居るため行動は制限されるが地面に人はいない。だから跳んだ相手の大きさの何倍も高く跳び強烈な踵落としを叩き込む。

 その一撃で本体の一部は消えていったが、被害も大きかった。

 突然鳴り響く大きな音は野次馬連中だけではなく警官や、五石家の者達も慌てて耳をふさぐレベルだった。

 しかも、数が多いため鳴りやむという事はない。

 実質、3体に見えて6体を相手にしなければならないのだ。

 1体は撃破したとはいえ、残る5体の騒音は深刻な聴覚障害を与えるレベルで鳴り響いていた。


「ブルー! 相手の本体は左右にある拡声器みたいなヤツだ! そこを狙え!」

「了解っす!」


 動きの遅い相手にブルーの攻撃が当たれば一撃必殺である。

 しかし人の居ない方向に向かって拳を振るわなければならないというハンデがある。

 そこでブラックを見習いジャンプして拳を打ち下ろす! 威力は落ちるが他に選択肢がなかった。


「バーニングナックル!」 


 その半分の威力も出せていないはずの必殺技ですら相手にとっては撃破に相当していた。


「おっしゃー1体目!」


 倒し方が分かれば――後は簡単なお仕事だった。

    







 今夜の反省会は、少し長くなった。

 なにせ違う場所に同時出現である。今後の対応に不安があった。

 今日は、運よく過去の経験則を生かせる相手だったからいいものの初見殺しの必殺技みたいなものを食らえば前リーダーと同じことになりかねない。

 同時出現が2か所とも限らない。まだレベル2は始まったばかり。

 克斗は出来る限り上手く立ち回るつもりではいるが、限度と言うものがある。

 最悪の場合、死人が出かねない危険なゲームは――まるでこれからが本番だとでも言っているみたいだった。

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