第5話 いつも通りの日常

ピピピピピピピピ·····

 

 「んっ·····うーん····· 」

 

 目覚ましのうるさい音で俺は目を覚ました。

 窓から差し込む日差しが妙に眩しく見える。

 

 「なんだったんだ·····昨日の天使は·····」

 

 あの後、泣き出した天使はそのままどこかに行ってしまった。

 

 俺は何か気に触るようなことを言ってしまったのだろうか。人の·····いや天使の気持ちはわからないものだ。

 

 「とりあえず、俺が泣かせちゃったみたいだし、次会ったら謝るか」

 

 俺はベッドから出て、学校に行く支度を始める。

 制服に腕を通す瞬間が、今日も地獄の一日が始まるという自覚が嫌という程湧いてきた。

 

 休んでしまいたい。何度そう思ったことか。

 でも、ここで休んでしまうと親父の思うツボだと思い、なかなか自主休講に踏み出すことができない。

 

 俺は自室から出て、朝ごはんを食べに1階へ向かう。

 

 「あれぇ? 渚じゃん。おはよう」

 

 「·····おはよう」

 

 俺に朝の挨拶をしてきたのは成美。

 

 こいつは間違いなく親父側の人間だし、俺のことも嫌いなはずなのに、なんで俺に構ってくるのかいまいち理解出来なかった。

 

 「アンタいじめられてるくせに、まだ懲りずに学校行くんだね。しかも友達もゼロ。私だったら耐えられな〜いっ。どんな図太い神経持ってんだよ」

 

 ケラケラと笑い、俺のことをゴミを見るかのような目で見てくる成美。朝から元気そうで何よりだ。

 

 「ほっとけ。成美には関係ないだろ」

 

 いつまでもこいつと喋ってても仕方がないと思った俺は、さっさと朝ごはんを食べに行こうとした次の瞬間。

 

 「誰に向かって口聞いてんだよ。このクソがぁ!」

 

 バシィ! と背中に強い衝撃が走る。

 

 教科書が入った重たいスクールバックで、容赦なく殴られた俺は床になぎ倒されてしまう。

 

 「いったぁ·····」

 

 俺は起き上がろうと腕を立てると、頭を足で踏んずけられてそれを阻止されてしまう。

 

 「一生そこで這いつくばってろ」

 

 成美はペッ、と俺の顔面に唾をかけて玄関の方へ向かっていった。

 

 ■

 

 学校に着いたら着いたで地獄だった。

 

 「お〜い、お前らクソ陰キャの登校だぞ〜!」

 

 俺が廊下を通ると、誰かの心無い声が聞こえてくる。

 

 「ゴミはゴミ箱に入れないとね〜!」

 

 紙が丸められたものを、誰かが俺に投げてくる。

 

 今日も今日とて、身も心もボロボロになりながら教室へ入る。

 

 そして今から、一日で最も苦痛な時間が始まる。

 

 「おはよう。神代くん。毎日毎日登校ご苦労様」

 

 紗月が俺の前に立ち、クラスメイトは俺たちの様子を伺っている。

 

 「私にストーカーや盗撮行為を繰り返して、なおかつ私の女優業を脅かそうとしていた癖に、のうのうと学校に通えるとか頭湧いてるよね」

 

 ·····俺は何も言えなかった。

 もちろん紗月が言っていることは全部デタラメだ。でも、それをここで主張したところで誰も信じてくれないだろう。

 

 人間は真実を信じる訳では無い。いくら陰キャで虐められている俺が事実を言ったところで、クラスの人気者でもあり、今をときめく若手女優の紗月の言うことを信じるのは火を見るより明らかだった。

 

 俺はギュッと目をつぶった。いつもだったら、ビンタが飛んでくるか、バケツに入った水をぶっかけられるからだ。

 

 しかし、今日は違った。

 

 「おーい、お前ら。席つけ〜」

 

 担任がいつもより早く教室へ入って来たからだ。

 

 俺は地獄の時間を終わったことを理解すると、深い安堵を覚えた。

 

 「お前らビックニュースだ。今日から急遽転校生がやってくることになった」

 

 突然の報告に、教室中がザワザワする。

 

 転校生·····か。確かにどんな子か少しは気になるが、どうせその子もクラスメイトと同じように、俺をいじめてくるのかと思うと、自分が惨めで仕方がなかった。

 

 「入ってこい」

 

 先生の合図で入ってきたのは、よく手入れされたサラサラの金髪ロングの女子生徒。大きくてくりくりとした瞳、透き通るような白い肌。そしてプルプルしたかわいらしい唇。

 

 俺は瞳孔が大きく開いた。

 

 「みなさん初めましてっ! 天乃ゆるです!」

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