第4話 俺の短所と君のエゴ

人が一番傷つくにはどうすればいいか·····?

 こいつ天使の癖になかなかえげつないこと聞くな·····

 

 「うーん·····暴力とか拷問か? でもそんなことしたくないしなあ·····」

 

 いくら俺を傷つけた人達とは言え、血を流したりするところは見たくない。

 

 「ぶっぶー! 違います! ていうか、なんでそんな野蛮なことばっかり思いつくんですかっ! それに私さっき恋に落とせって言いましたよね!? それで恋愛関連だとは思わないんですかっ!」

 

 ゆるは手をばってんにしている。

 

 いや、『人が一番傷つくにはどうすればいいか』て質問の方がよっぽど野蛮だと思うが·····

 

 「ちなみに正解はなんだ?」

 

 「正解は『色恋沙汰』ですっ!」

 

 「あ〜、なるほどなるほど。色恋沙汰か〜、·····ってなるかボケェ!」

 

 なんだこいつ、人が死にたいって言ってるのにふざけてるのか!?

 俺は自室にある小さな机をちゃぶ台返しした。

 これがノリツッコミってやつか。人生で初めてしたな。喜べ天使、俺の初ノリツッコミはお前のものだ。

 

 「ぬわあああ! ちゃぶ台返しって、渚くん昭和の人間ですか!?」

 

 ひーん、と言いながら、ゆるは机を元に戻している。

 

 そんなゆるを片目に、俺はロープを括りつけて自殺の準備を始めた。

 

 「もういい。天使なんぞ信じん。俺は死ぬ」

 

 俺は踏み台を引っ張り出し、ロープに首をくくろうとしたら、ゆるがハサミを取り出し、ロープを切り刻んでしまった。

 

 「おいっ! なにするんだ、このポンコツ天使!」

 

 「ちょっと待ってください、渚くん! 死ぬにはまだ早いですって! 私の作戦を聞いてくださいっ!」

 

 ゆるは馬鹿力で俺のことを踏み台から下ろし、床に座らせる。

 あまりにも力が強かったから、掴まれた部分が少し痛い。

 

 「それで、ゆるの作戦ってなんだよ」

 

 俺は自殺の邪魔をされて、仏頂面であぐらをかいている。

 ようやく死ぬ勇気が出たところだと言うのに。

 

 そんな俺の心を露知らず、ゆるはルンルンで話を始めた。

 

 「ふふふふ! 聞いて驚いてくださいっ! その名も『幼馴染と双子の妹を恋に落として、告白されたら盛大に振りましょう作戦』です!」

 

 ゆるは作戦を言い終わったあと、腰に手を当てて鼻を高くしている。

 

 こいつの言いたいことはわかった。ゆるが俺の事をどこまで知ってるかは分からないけど、きっと今まで不憫な目に合っていた俺のために頑張って考えてくれた作戦なんだろう。

 

 気持ちは·····ありがたい。けど、これ以上話すことはないぐらい俺の心は決まっていた。

 

 「却下」

 

 「えぇ!? なんでですか!?」

 

 ゆるは目を丸くして驚いている。

 

 きっと普通の人ならこの話に乗るんだろうなと思いながら、俺は天を仰いだ。

 

 「二人を恋に落とすなんて、そんな簡単に出来ることじゃないと思うし、もし万が一上手くいっても俺は人の気持ちを弄ぶようなことはしたくない」

 

 理不尽な環境にいる俺のために作戦を考えてくれたのは本当にありがたい。それでも、やっぱり俺は誰か。を傷つけるようなことは出来なかった。

 

 ゆるは俺の答えを聞いて、肩を小刻みに震わせている。

 

 「本当に·····良くも悪くも良い人過ぎるんですよ·····あなたは·····」

 

 「え、今なんて·····?」

 

 俺が聞き返した途端、ゆるの目からは大粒の涙がこぼれ、すごい気迫で俺に叫んできた。

 

 「このままじゃ私が納得行きません! これは私のエゴです! 作戦その2に移行します!」

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