第22話 お祭り会場へ
『
そこは本来誰もが足を踏み入れることができないエリアであり、神に近い存在がいるべき場所でもあり、『
故に、本来下にいるべき存在である『
…………『
『んま、そんな設定があったところで、一発撃ち上げたら入れるから気にする必要もないんだが』
確か、そういう設定がこのゲームにおいての話だった気がするな、と白い装甲に覆われた男、『ケンジ110』は思い出す様に呟いた。
このゲームには、三つの世界が存在する。
一つは『
また一つは『
最後の一つが『
その三つには、それぞれそこでしか生きられないという設定がある。
まず、『
この二つの種族は、地上でしか生きられない。
その理由は、魔力が使えないというただそれだけの理由だ。地上では魔力の元……という設定のものである魔素はさほど存在はしない。それに対して、地下や天上には魔力の元になる魔素と呼ばれるモノが充満している。それ故に、地上では生活圏を広げることは出来ない……という設定だった気がする……。
だが、詳しいことは覚えてはいない。
次に『
『
それは、繁殖能力が極端に低い。
それ故に、絶対数は少ない。……確かそういう設定だったな、とケンジは思っていた。
最後に『
『
ただ、一つ問題があるならば。
それは、他の種族にとっては絶対的な敵であるということだ。
そういう設定だったはずだな……とケンジは偵察に出かけた二人を待ちながら考えていた。
今現在、ケンジたちは『
かつてはケンジを含めた七名で結成された『旅団』と呼ばれていた集団で遊んでいた時に目印になるものを作ったりはしたのだが、幾度として行った爆撃……もとい上昇作戦の時に多くの目印は作っては壊れ、作っては壊れ、ということを繰り返していた。
なぜ、そうしたことになっているというと、それは単に一つ。
……誘導や追尾システムなどの代物を知る者が誰もいなかったことに他ならない。
故に、目印を作ってはそこ目掛けて爆撃を行い、また目印を作っては爆撃し、……ということになったのだ。
しかもその爆撃というのは戦闘機や爆撃機というモノに乗って行うモノではなく。
ありったけの火薬を積んだ『
故に。
『……いやぁ、そう思うとよく生きてるよな、俺。火薬を敷き詰めた「棺桶」飛ばして攻略してたんだから』
ははは、とケンジは苦笑しながら、昔の光景を思い出す。
そうなのだ。
当時、誰も攻略したことのない『
何も知らない第三者から見れば『頭のネジがいかれているただのバカ』としか見えないだろう。それもまた事実でもあった。……なぜならば。
ケンジたちは遊びを求めてそれを行ったのだから。
それを自分の命をバカなことに使う愚か者と罵る者はいるかもしれない。だが、同時にケンジたちは一つのことを証明するために行っていたのだ。
『「スパルタン」は死なない』
自身のことを『スパルタン』と呼ぶ者がどんなことをしても死なない不死身の存在として周囲に示すために必要だったのだ。
死を恐れ、動けなくなった者たちを自分の足で再び動かすために。
そんな存在がいるなら、自分たちも動けるんだ、と思わせるために。
……というのもほぼ結果的にそうなったとしか言えないのだが。
『……ま、そう思っても言おうとする奴はいなかったから、いいだろ、うん』
気持ちを切り替える様にそう言いながら、手元にある粗悪品としか言えない残骸へと視線を落とす。
それは銃と呼ぶにはあまりにも逸脱した欠陥品であり、弓と呼ぶには完成し過ぎていた。言うなれば、銃の劣化コピー品と呼ぶべきか。
……そう呼ぼうにも粗悪品としかケンジには言えなかったが。
『しっかし、これ、なんだよ……。
魔力込めれるようにしてある「魔弾」しか撃てねぇ仕様になってるわ、下手に使うとすぐに壊れるわで、全然使い物にならねぇじゃん。
……これ作ったの、何処のどいつだよ』
量産するなら壊れない程度の強度にして安くするのが普通だろうが。それも分からねぇで作るとかバカか、コイツ?
ケンジは文句を言いながら既に壊れている粗悪品を器用に片手で回した。
彼の言うことは正しい様でいて、しかしだいたい間違っていた。
量産タイプであれば、ケンジの言う通りある程度の頑丈さが必要になる。
何故ならば、それを使う場所も状況も全て同じではないためだ。
その為に、大抵のモノにはある程度頑丈にしなければならない。
しかし、この銃とは言い難い代物はそれほどまでの強度はなかった。
ケンジが持っている耐久性能が一番低い『ハンドガン』ですら、振って殴れば相手の頭蓋を砕く程度の強度はあったが、この粗悪品は振って殴れば砕く前に壊れてしまう。それほどまでに貧弱なモノだった。それ故に、ケンジは劣化コピーと呼ぶべきか否かを悩んでいたのだった。
……そもそもの話、その論点で話すべきことではないのだが、ここにそれはおかしいと指摘する者は誰もいなかった。
そうしているケンジの背後に二人の姿が見える。
一人は白一色の服で顔を隠す様に深くフードを被っている女性。
もう一人は動きやすさを重視してか露出度が多いラフな服装をし、短く切り揃えられた緑色の髪を揺らす女性。その二人だ。
「……マスター。
ケイトと共に周囲を確認しましたところ、近くに『バイオス』の姿と気配共に見受けられませんでした。恐らくはここにいたのは先程の強襲で狩り尽くしたものかと思いますが。……如何為さいましょう?」
「…………ja。…………レオナの言う通り。
…………近くにはいないみたいだけど。…………どうするの、チーフ?」
二人は指示を仰ぐ様にケンジにそう訊いてくる。訊かれた本人であるケンジは答えることなく、どうしたものかと少しの間、悩んだ。
単に『バイオス』をその文字通り、狩り尽くすのであれば、その辺をぶらりと散歩する気持ちで歩いていれば狩ることは出来る。
繁殖率が高いことで有名な種族が『バイオス』である。
ケンジが住んでいた世界である地球であれば、『G』と名に付く黒い奴程の生命力を持つが故に、群れを視認出来た以上は適当にそこらをぶらつけば出会えると考えた結果なのだが……。
ケンジの脳裏でなにかが引っ掛かる。なにかを忘れている様な……そんな気がした。見落としてはならない重要なモノだ。
それをケンジは思い出そうとし……、ふと思ったことをケイトに訊いた。
『……そう言えば、ケイト』
「…………ja。
…………何、チーフ?」
『お前、しばらくウルナと一緒にいたんだよな?』
「…………ja。…………そうだけど。
…………それがどうしたの?」
『いや……大したことじゃない。
……大したことじゃないんだが、ふと思ってな。』
「何が引っ掛かりましたか、マスター?」
フードを深く被った女性、レオナはケンジにそう訊いてくる。訊いてくる彼女を片手で制しながら、彼はケイトに訊いた。
『お前とウルナ。お前ら二人以外に誰がいた?』
「…………? …………誰が?」
ケンジの問いが分からないという様にケイトは彼に問う。だが、ケンジはその問いがどの様な意図が含まれているのか、それを理解するために数秒固まった。その彼の様子から今の状態がどの様なモノかを察したレオナが咳払いをしながら、ケイトに補足した。
「コホン。いいですか、ケイト?」
「…………なに、レオナ?」
「ここ、『
時折、降りてはいましたが、それでもここにいた期間は長いはず。……ですよね?」
「…………ja。…………そうだね」
「ですが、ここには居ないはずの『バイオス』がいます。
ということは、何者かがここに『バイオス』を手引きしたということになります。ですが、貴女とウルナの二人でここに『バイオス』を誘うことは有り得ません。
つまりは、そういうことです」
「…………なるほど」
レオナの補足説明を聞くとようやく納得できたのか、ケイトは頷くと、レオナに向けていた顔の向きをケンジに向かせた。
「…………そういう意味なら、…………居たと思う」
『……っ!! ……本当か!?』
「…………落ち着いて、チーフ」
居たと言うケイトの言葉にケンジは勢いよく訊く。しかし、彼女はすぐには答えず片手を彼に向ける。
「…………確かに、居たとは思う。
…………けど、誰かは知らない」
『…………、…………どういう意味だ?』
「…………そのまんまの意味」
彼女が言った言葉の意味が分からずに助けを求める様にレオナの方を見る。
だが、助けを求めたところで分からなかったのは彼女も同じようで首を横に振った。これで手がかりも失ったと思い始めた刹那、確認するようにレオナがケイトに訊いた。
「ケイト。質問してもよろしいでしょうか?」
「…………ja。…………構わない」
「貴女は誰かは知らないと仰いました。そして、マスターの問いに貴女はそのままの意味だと答えました。……合っていますか?」
「…………ja。…………間違ってない」
「つまり、貴女が知らない……厳密には、私もマスターも名を知らない誰かがいた、ということで合ってます?」
「…………ja。…………その通り。
…………流石、レオナ」
「ふふ、お褒めに預かり恐悦至極。感謝の極みに御座います。
……出来ることなら、貴女ではなくマスターの口から聞きたい所ですが。
まぁ、それは後々の楽しみとしておきましょう。」
何かを理解して納得したかのように言うレオナと言いたいことを理解してくれたことが嬉しいというような綻んだ表情であったケイトの二人であったが、話の流れがよく分からなく蚊帳の外にいたケンジは内容を理解するためにレオナに訊いた。
『レオナ。つまり、……どういうことだ? 分かりやすく説明してくれ』
「えっ?」
今の話の流れで分かるはずなのになんで分からないの? というような声でレオナは驚く様な声を出し、ケイトもなんで分からないの? と理解できないモノを見るような目でケンジを見ていたのだが、当の本人であるケンジにとっては何が何だか分からないが故に訊いただけである。
そのことを察したのか、レオナは仕切り直す様にわざとらしく咳払いをすると、言葉を続けた。
「コホン。……いいですか、マスター?」
『お、おぅ。いいぞ……?』
疑問形になった言葉を聞くと、レオナはふっと笑うように気を和らげてから言葉を紡いだ。
「先程、ケイトに訊きましたところ、合点がいきましたのでお教えしますね?」
『あっはい。……すみません』
「お気になさらず」
話そうとしたレオナであったがなぜか委縮した様子のケンジがちゃんと聞けるのか、若干不安に思いながらも彼女は言葉を続けた。
「まず、最初にケイトは誰かは居たと思うと言いました。ですが、誰かは知らないとも言いました。その言葉に貴方はどういう意味かと彼女に問い、彼女はそのままの意味だと答えました。そして、私はそう言った彼女の言葉に私もあなたも知らない誰かと問いました。……ここまではよろしいでしょうか?」
『ああ、問題ない』
問題ないという彼の言葉をそのまま受け取った彼女は続けて言った。
「つまり、私もマスター、ケイトとウルナが知らない誰かが居たとなります。」
『………………………………あん? ちょっと待て。俺もお前も、ケイトも知らない誰か?』
「そうです」
恐らくですが。
「私たちが知らない転生を果たした何者かが手引きしたと、判断します」
レオナの言葉を理解するのに少しの時間が必要だった。だが、理解出来てからはすんなりと納得も出来た。
普通ならば、『バイオス』を誘うとすれば触れる前に殺されるのが筋だ。敵対関係にあるのだからそれは当然である。…………………普通であれば。
だが、その誰かは『バイオス』を手引きした。……従うこともない『バイオス』を手懐けた上で、だ。
とすれば、その誰かは並の者ではないと結論付けることが出来る。そうなれば、その誰かは転生者である可能性が高くなる。
転生システムがまだ生きているかは知らないので確証の仕様が出来ないが、転生すればステータスを引き継ぐことが出来、更には新たに能力を得ることも出来る。つまりは、『バイオス』を撃破することも出来るほど強くなれる、ということだ。
となると、今の現状は非常に不味いと言えるのだが、レオナからは焦った様子は感じられない。その様子からケンジはようやく理解した。
恐らくだが、その誰かは一度、転生をし新たに得た力で『バイオス』たちを従わせていることに自信があるのだろう。自分には力がある。誰もを従わせるだけの力が。
敵対する関係であった『バイオス』を従わせたのだから当然のこと、そうなるだろう。故に、ケンジも知らなければレオナやケイト、ウルナも名を知らない誰かということになる。
だが、その誰かは知らないだろう。
今、ここに一度ならず二度、それ以上に転生を果たしたこの世界で唯一最強と名乗ってもおかしくはない存在が、帰って来ているということに。
その誰かは知らないだろう。
その人物はかつて、世界を
その誰かは知らないだろう。
その人物は己が従えた『バイオス』という存在を腹の底から憎み、打ち滅ぼすことを決めているということを。
そうなのだ。
それぞれの種族名に付く、『エクス』というのは『ex』、つまり『規格外』を示す言葉であり。
二度以上の転生を果たしたケンジやレオナの二人にとっては魔素があろうがなかろうが、そんなものは関係がなかった。
一度、転生を果たした『ハイ』と名が付く者であれば、多少は良くなる程度だが、それでもここに居ることは身体に毒を宿すことに等しく一定時間ダメージを受け、やがて死を迎える結果となる。
だが、二度以上の転生を果たした二人には意味はない。
そもそも『エレメンタリオ』であるケイトにとっては魔素があろうがなかろうが関係はない。故に、三人がいること自体には特には問題はあるはずがない。
そして、二度以上の転生を果たした『エクス+』と名を持つ者の多くは『旅団』メンバーしかいない。
……………まぁ、一度転生するだけでも多大な時間が必要となる。
故に、一度だけ転生はするが二度、またそれ以上の転生をしようと思うのは誰もいなかったのだ。ただ、ケンジ達『旅団』と呼ばれた集団にとって死が伴う戦闘も遊びに等しいモノだと感じ多くの戦闘の第一線に立っていたために二度の転生も容易に行えたわけだが。
そうなると、ケイトがケンジやレオナ、ウルナ……恐らくはエルミアや
『なるほどな……。つまりは、「
ゲフンゲフン。
『「
「ja。肯定です、マスター」
ケンジの疑問にレオナは頷きながら、そう答える。その彼女の返事を聴きながら彼はどうしたものかという様に唸った。
『う~ん……、そうなるとどうしたもんかな……』
「…………? …………どうしたの、チーフ?」
『…………あ? いや、大したことじゃねぇ。…………あぁ、大したことじゃねぇんだ。…………ないだが』
「? ……なにか問題がありますか、マスター?」
「…………もしかして、チーフ。…………そいつを捕まえて何かしようか。…………とか考えてる?」
ケンジが何を考えているのか、全く分からない二人はそう訊いてきた。だが、彼はケイトから向けられた疑問を鼻で笑った。
『ハッ。…………捕まえる? バカ言うな。
…………「バイオス」のクソ野郎に明け渡そうとか考えてる一番胸糞悪いクソ野郎相手にんなことするかよ』
いいか?
『そんな野郎は、ドたまに一発デカいのをお見舞いしてぶち抜く。そう決めてんだ。
いちいち捕まえるかよ、面倒くせぇ』
あ~、頭をくり抜くのは良いとして頭と身体を分離させるってのもアリか。うむむ、悩ましいな。
物騒なことをぶつぶつと言い始めたケンジを二人は「ああ、また始まったよ」というような目で見た後に顔を見合わせてお互いに肩をすくませてみせた。
ケンジとは短い付き合いではあるが、これだけは分かってはいた。
事の発端である黒幕は彼の手によって終わりを迎えるのだろう、と。
説明などは特にはしないが、やると言った以上は必ずやる、それが己の主、『ケンジ110』という男だったから二人はそう思った。
そして、彼は言ったのだ。
『そんな野郎はドたまに一発デカいのをお見舞いしてぶち抜く』、と。
であれば、その文字通りに頭に一発デカいのをお見舞いしてからぶち抜くのだろう。
…………どうやってぶち抜くかは二人には方法を断定することは難しいので断定することは出来ないが。
だと言うと、何を考えていたのかということが気になってしまうもので。
「では、マスター。何をお思いになられていたのか、お伺いしても?」
失礼を承知でお聞きしますが、とレオナは付け加えながらケンジに訊いた。
『…………いやな? 「
「輸送手段……ですか?」
『ああ』
いいか? とそう二人の顔を見ながらケンジは説明をした。
『いくら、「バイオス」に下の連中を殲滅したら明け渡しますよ、とか言ってもどうやるか…………そこが問題だ。
バレない様に輸送しようって言っても下は下でほとんど全体をカバーしてる。そこをバレずにどうやり過ごす?』
「そこは…………何か囮を出す、とかですかね?」
『囮を出すとは言うが、数だけはどの種族よりも遥かに上だぜ? 囮を出してもすぐに見つかるのが目に見えてるってもんだ』
「…………だったら。…………囮を増やす…………とか?」
『いやいや、増やしてどうする。確かに増やせばそれだけ対処するのに時間は掛かるがそれだけだぜ?
迎撃方法も一応は数は揃えてるんだ。
……全部撃ち落とせばいいってことになるけどな』
というケンジの言葉を聞いてなにか疑問に思ったのか、レオナは顎下に手を当てるようにフードの中に手を入れた。
「全部撃ち落とせばいい……時間稼ぎ……、いや、まさか。
ですが、そう考えると……あれは……」
「…………レオナ?」
レオナは考える様に独り言を呟くが、そのことに何か不審に思ったのかケイトが彼女に訊く。そうなると、何も知らないケンジとしては何のことか分かることもなく。
『どうした、レオナ? なんか引っ掛かるのか?』
そう訊かざるを得なかった。
だが、その質問に大したことではないという様にレオナは片手を上げると振ってみせた。
「ja。いいえ、マスター。大したことではありません。ただ、ここから離れたところで多くの船? と思われる残骸……に似たモノを見掛けまして。マスター達が行っていた試行錯誤の光景と似ていたな、と。ふとそう思いまして」
ja。
「えぇ、それだけです」
そう言ったレオナの言葉にケンジは笑った。
『おいおい、バカ言うなよ、レオナ。
いくらなんでも「バイオス」のクソッたれだからってモノ作りとかするわけねぇだろ。アイツら、ほとんど考える脳なんざない連中なんだから』
「そう……ですよね。考えすぎですよね。
技術提供とかで提供すると言うのであれば分かりますが、いくら何でも飛躍し過ぎですよね」
『そうそう、いくらなんでもそれはねぇって』
ハハハ、と笑う彼だったが数秒もしない内に笑いを止めると雰囲気と口調を全く違うものに変えた上で改めて彼女に訊いた。
『………………………………レオナ。お前、今なんて言った?』
「えっ? ……いくら何でも飛躍し過ぎですよね、ですか?」
『その前だ。いくら何でも飛躍し過ぎですよねの前。……なんて言った?』
「え……っと。技術提供とかで提供するというのであれば分かりますが、ですか?」
レオナの言葉を聞くや否や、ケンジは手元に持っていたガラクタを地面に叩きつけた。
『やられたっ!!! そうか、その手が残ってやがったかっ!!!
……クソ野郎がっ!!!』
「え、えっ? なんです、マスター?
何か問題が……ありました……?」
レオナがそう訊く前にケンジは疑問に答える前に歩き出す。
その彼の背に二人は何事か疑問に思いながらも付いて行く。とは言っても少し早足で歩いているケンジの後を追っていく段階で少し小走りになっていたが。
「マスターっ!? なにが、どうしたのですかっ!?」
「…………チーフ。…………どうするの?」
小走りになりながら追っていくために訊こうにも少し声の大きさが大きくなってしまう。だが、ケンジは特に気にはした様子はなく、ただ進んでいくのみだった。
…………ケイトは相変わらずだったが。
『「バイオス」はとんだクソ野郎だ。
だが、そのクソ野郎に提供した野郎はもっとクソ、とんでもないクソ野郎だ。
一発だけじゃ済まさねぇ。何発も何十発も撃ち込まねぇとこの苛立ちは消せそうにねぇ』
ははは。
『この世界は全然飽きさせてくれないねぇ…………。
…………面白れぇ』
ああ。
『全然面白れぇ。つまられぇなんざ言えねぇ。遊びがいがありやがる。
これだからゲームってのはやめらんねぇ』
ぼそぼそとではないが、そう言う彼の雰囲気からいくら質問しても答えてくれそうにないことを悟ると、質問することを諦めたわけだが、同時に思うことがあった。
それは。
今の彼は、昔によく見た彼に戻っていたということだった。
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