第39話 進展と呼べるもの


「……嘘?」

「ご、ごめんなさい……その、理由は聞かないで下さい……」


 エイミがそう言うので、それ以上は聞かなかった。


 それにしても、あと2階層くだればダンジョンの魔石があるのか。

 少し希望が出てきた……ような気がしなくもない。


「それよりも問題があって」


 俺の考えを遮ってエイミが口を開く。


「え? まだあるの?」


「その、食料が足りないんです。2階層を下るには最低でも一日はかかってしまうので、メル様も……」


 その時、グギュゥゥ、とエイミのおなかが鳴り出す。当のエイミは一瞬で顔が赤くなっていた。


「こ、これは違くて……! あくまでもメル様を心配した上でのことで……」


 エイミが慌てて弁明する。

 いや、別に良いんだけど。


 なるほど、食料問題か。

 確かに、もう10時間も食べてないからそろそろお腹が減ってき──ん? そういえば異次元収納にあるぞ、


「大丈夫。それならある」


 俺はそう言って異次元収納から既に調理されたビルドボアを取り出した。

 これは、あまりにも不味かったので調理したけど放置した肉塊ヤツである。それが3日分。2人になるので1日半になるがイケるだろう。

 もう一度言うが、マズイ。


「な!? い、今どこから取り出したんですか!? まさか、異次元収納……?」


 エイミの急な驚きの言葉に、俺はぎこちなく頷いた。


「そ、そんなものまで………」


「……そんなに珍しいの?」


「い、いえ、どこの街でも数十人はいるのでそこまで珍しくはありません」


(あ、やっぱりそうなんだ)


 しかし、エイミは「でも……」と話を続ける。


「普通子どもが覚えていることは少いんです。容量が魔力に依存している関係上、子どもは覚えられないことが多いので……」


「そ、そうなんだ………ま、まぁ、食料ならあるよ。水も魔法があるから大丈夫」


 魔法で作った水が飲めることに感謝だ。


「魔法も使えるんですね。異次元収納を使えるならもしかしてとは思ってましたけど……」


 エイミが半分呆れた様子で言う。


 なんかチート持ってるみたいな感じで照れるなぁ。

 いや、Eランクモンスターに手こずるチートがどこにいるよ。俺YOEEEE! の真っ只中だろこれ。


 という言葉を俺は呑み込む。


「食料のことなら問題ない。ということで、これ食べて」


 取り出したバトルボアをエイミの前に差し出す。それをエイミは恐る恐る受け取った。


「あ、ありがとうございます……はむ」


 そう言うとエイミは肉塊に齧りついた。

 ブチブチと固い繊維が切れる音が辺りに響く。


 俺もそれを見て食べ始めた。


「……ぐ」


 うぅ……やっぱりマズイ………せめてアルマにここに来る前に胡椒くらい貰っておけば良かったと、後悔の念が埋め尽くす。


 と、そこで、「うぅぅ……」と、エイミもえずいた。

 涙まで出ている。


 え、えぇぇ?

 そんなマズイ……? いや、マズイけどさ。


「大丈夫?」


「だ…大丈夫です。ちょっと喉に詰まらせてしまって……」


 あぁそういうことか……ってダメじゃん!

 急いでエイミに近寄り、その背中を擦った。


「……」


 痩せ細っていることが、服越しにも分かる。

『今まで辛かったね』とは口が裂けても言えなかった。


 落ち着いたエイミは、ぽろぽろと涙を流しながら、ビルドボアを食べ進めていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「じゃあ行こっか」

「……はい」


 俺たちは安全地帯セーフティーゾーンを出発した。

 目的は勿論、ダンジョンの魔石、その破壊のみである。


 エイミは俺の後をゆっくりと付いて来ている。

 因みにだが、敏捷が違うと言っても同じ身長なら歩くスピードが変わることはない。

 レベルが上がるとそれまでの力が出せるだけなのだ。力のステータスが高くても、不注意でドアノブぶっ壊したりすることはない。やろうと思えば出来るだろうけど。


「この先の別れ道を右に曲がって下さい」


 エイミの役目は道案内である。

『魔力察知』で魔力が強く感じる方法を教えて貰っているのだ。

 もちろん、それで階下へくだる階段が見つかる訳ではない。そこまで『魔力察知』は万能ではないらしい。

 4階層に着けば話も変わってくるのだろうが。


「っ! 来ます、数は3体!」

「!」


 エイミの忠告に俺は剣を構える。構えるのはフールの剣だ。相変わらず大きい。


 因みにゼンとアントンの剣は異次元収納に入っている。アントンの剣はフールの剣が折れたとき用である。ゼンの大剣は大きすぎるので使うことは無いだろう。


 魔物の姿があらわになる。インプであった。


 スカルウォーリアーならエイミを抱えて逃げても良かったのだが、インプでは戦うしかない。

 先程こともあるし、俺は真っ先にヴィエントエンチャントを使用した。今、MPは完全に回復している。ここは出し惜しみはするべきでは無いと判断したためだ。


 エイミを後ろに下がらせる。


 それを見た1体のインプが逃がすものか、と言わんばかりの醜い声を上げて接近してきた。


 俺はそれに対して、剣を思いきり振り上げた。インプは辛うじて爪で剣を受け止めたが、その代わりにその軽い体は俺の剣によって後方に吹っ飛ばされる。


 インプの連携を、


 俺の予想外の動きに『ケギャ!?』と他のインプが戸惑いの声を上げるが、俺は気に止めずにその2体に迫った。


 そこに、大振りの切り払いを見舞う。

 反応できなかった2体のインプは体を断たれて絶命した。


 残りのインプは未だに体勢を立て直せていない。

 剣はあっさりとその体を断った。


「……よし」


 これなら、戦える。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 スカルウォーリアーと接敵しては逃げ、インプは確実に屠る。

 そうし続けること早5時間。


 俺のSPスタミナも無くなってきた、という頃(エイミは2時間前にダウンしたので今は俺の背中にいる)。


「あった………」


 とうとう、3階層へと続く階段を見つけたのだ。


 俺はエイミに目配せをして、階段を降り始めた。

 少し暗く、気を抜けば転がり落ちてしまいそうである。


 気は抜けなかった。




「……っ?」


 降ること10分。

 急に、光が見えた。


 遂に来た。

 そう思った俺は足早に進んでいき、殺風景な階段を抜け──。



「……!」



 目の前にはがあった。

 には光さえ差している。だが、四方に見える岩壁は、ここは外では無いと言うことを俺たちに知らしめていた。

 

 聞いたことがある。

 疑似地帯フェイクフィールドと呼ばれる、まるで外のような地形が存在するダンジョンもあると。


 恐らく、これがそうだろう。

 目の前には広がるは。



「……行くよ」

「………はい」


 俺たちは意を決して進んでいった。



 先は、まだまだ長い。

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