第16話 うわ、俺の初体験、遅すぎ?
6歳半になった。
魔物狩りはまだしていない、と言うより、
というのも、パピーが『せめて武器の使い方は知ってないとダメだ』と言うのでこの半年間ずっと剣の使い方を習っていたのである。
そもそも、『体術も教えていく』と、だいぶ前に言われた気がするのだが、その時まで全く教えてもらってなかった。
最初は疑問でしかなかったが、剣(木剣)を持ってみてやっと分かった。これは体を鍛えていないと無理。うん無理。
すぐに重心がズレて体勢が崩れてしまうのだ。その隙を魔物に狙われればお仕舞い。冒険の幕は早々に閉じてしまう。
パピーはそこら辺はちゃんと考えててくれたようだ。ごめんなパピー。ちょっとキモいとか思ったりして。
まあ、こうして俺は半年間剣を握った。
脚の運び方、力の入れ方、振り方など、学ぶことが死ぬほどあったが、それもなんとか乗り切った。
他には、柔軟にも力を入れる。
パピーも一緒にやってくれていたのだが、体が柔らかすぎてキモかった。それも、半年間。
そして今に至る。やっと及第点が出たので、今日許可が下りたのだ。
今は森に来ている。
この森の周りには大婆様の結界が貼ってあって、ラクーン以外の生き物を入らせないらしい。しかし、時々弱い魔物が入ってくるとかで、今回はそれを狙っているのだ。と言うより結界なんてあるんだな。知らなかった。
人生初めての魔物狩りである。当たり前だが、アルはマミーとお留守番だ。アルはついて行きたそうにしていた。
俺の腰には
短剣、と言っても俺の身長はまだ1メートルちょい位なのでこれくらいが丁度良いのだ。
一方パピーは、身の丈ほどある
パピーとマミーの冒険者時代のことは、フィーネから聞かされていた。それによると、パピーは斧の使い手らしい。そして、俺は今までパピーが斧を持っているところは見たことが無い。
それがどういうことを意味するのかと言うと…………
パピーは『マジ』である。
ということだ。
魔物がいたら俺が戦う前に潰してしまいそうな勢いだ。
「パ、パピー? 大丈夫?」
「大丈夫だ。魔物が出たら、すぐにパピーが滅してやる」
ちょっと主旨変わってるよ! 見本を見せるとかならまだしも、滅したらダメでしょ、見本にならないよ力任せの暴力だもん。
「ぱ、パピー……」
「………………」
返事がない。ただのパピーのようだ。
「パピー!」
「おっとどうしたメル。怖くて帰りたくなったか? それは大変だ今すぐ帰ろう」
怖い怖い怖い怖い。何? 何が見えてんのパピーには。パピーが一番怖いんだけど。
「怖くないし帰らない」
「………本当に、やるんだな?」
パピーは真剣な顔で聞いてくる。
「うん」
俺は答えた。それを見て、パピーが渋々と言い始める。
「分かった。じゃあ、あそこにホーンラビットがいるのが見えるか?」
俺はパピーの指差す方を見た。
「……!」
いた。
食卓で良く見る角ウサギだ。
静かに頷く。
さっきパピーが固まっていたのは、ホーンラビットを見つけて、どうするか迷っていたんだろう。娘である俺を危険に曝したくないがために。
全く、良い親である。
「出来ればゆっくり近づいて、不意打ちで倒すんだ。躊躇はしなくて良い。それに、もし気付かれても焦らなくて良いぞ。ホーンラビットの動きは単調だ。人を見つけ次第誰彼構わず突進してくるが、それだけだ」
俺はゆっくりと頷いた。
パピーは続ける。
「よし。じゃあ、まずはそれを避けるんだ。アイツは突進を
「うん」
ホーンラビットの大きさは、今の俺の膝くらいしかない。
だが、角は少し尖っている。ぶっ刺さる、とまでとはいかないだろうが、もしかしたら刺さるかもしれない。注意はすべきだろう。
因みに今回は魔法は無しである。そのために剣を習ったのだ。
「……行く」
「あぁ、気を付けてな。出来ることをやれば良い。『最高』を目指すと、足元が見えなくなって、出来る筈の『最善』さえ出来なくなるからな」
「うん」
心を決め、俺は忍び足でホーンラビットにゆっくりゆっくりと近づいていく。
だが──
『キュ?』
「……!」
目が、合った。
『キュイィィ!』
ホーンラビットは、俺を見つけるや否や、パピーが言っていた通り真っ直ぐ突進してきた。
しかも思っていたよりも結構早い。
「っ!」
俺は距離が3メートルを切った辺りで、左に思いっきり避けた。そのすぐ横を、ホーンラビットが通りすぎていく。
『キュウ?』
そして、俺を見失って止まったホーンラビット目掛けて、思いっきり剣を突き立てた。
「やあぁぁぁぁ!」
『ピギュアァッ!?』
ホーンラビットから悲鳴が吐き出される。その声を聞くと胸が少し痛くなった。
だが、躊躇っている暇などない。構わず剣を深々と刺していく。血が飛び散って、俺の顔にベットリと付いた。
……生臭い。しかも、かなりグロい。
『ピ……ピィ……』
だがそれでも、ホーンラビットはまだ生きていた。
「……ぅ」
吐きそうになるのを必死におさえ、俺はダメ押しとばかりに剣を押し込んだ。すると、カツンと、硬い何かに当たる感触。
更に刺すと、今度は何かガラス状の物が割れるような『ビキッ』という音がした。
『──ッ!?』
すると、ホーンラビットが形容しがたい絶叫を上げ、その体が塵になって消えていった。
俺の顔に付いていた血さえも無くなっていく。
……倒せた、のか?
少し困惑している俺に、パピーが近づいてきた。
「頑張ったな、メル……ぐすっ、ホーンラビットが消えたのは、
ひ、引くくらい泣いている……
それほど心配だったんだな。
そうだ、レベルは上がったのだろうか?
俺はパピーをおいてステータスを開いた。
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Lv:6
HP:309/310
MP:344/344
SP:323/328
力:278
耐久:218
敏捷:411
器用:298
魔力:289
ーーーーーーーーーーーーーーーー
一気にレベルが6まで上がっていた。
ステータスは大体1レベごとに平均で10位上がっている計算だ。ちょっと嬉しい。いや、かなり嬉しい。
今まで頑張ってきたことが実を結んだような気がする。少し大袈裟かしれないが、達成感が半端ない。
こうして、俺の初めての狩りは幕を閉じた。
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