歪み

豊崎信彦

第1話 歪み

「何でこの番組にあんな子役が出るんだぁ… はぁ… 子どもが見るような… 出るような番組じゃねぇ… つ・う・の‼」


僕が居る部屋の前で男の人たちが話した。名前が書かれてあるから僕がいるのを知っていて、僕に聞こえるように話しているみたいだ。



“今日のコメンテーターは、5歳から子役を始め今年大ヒットしたドラマで完璧な演技で注目を集めている… 先月、10歳になったばかりの…”



「今日のコメントも的確で凄かったですねぇ… 大人顔負けですよ… ホント… 天才子役さんは、何やっても呑み込みが早くて、空気を読むのも天才的ですねぇ…」


 僕は天才子役。周りの大人達が気持ちの悪い薄笑いを浮かべ近寄ってくる。そして、僕に敬語で話し掛けて来る。


「大人びて気持ちが悪い時もあるんですよ! でも、素直だから何でも直ぐに吸収しちゃんでしょうねぇ… ところで、ディレクターさん… この子の妹なんですけど…

7歳にしては…」


 お母さんは、最近妹を売り込むのに必死だ。僕を絶賛する言葉を聞いてから妹を僕の前に突き出す。妹は、今年入ったばかりの学校にあんまり行っていない。



 

「いい加減にしろ‼ いつまで子どもを使って金を儲けるつもりだ‼ 学校にあまり行っていないじゃないか‼ 友達もいないみたいだし、子どもらしい生活が出来ない事を… 可哀そうだと思わないのか‼」


「この子たちは楽しんでいるのよ… 今の生活を‼ 普通の子どもが出来ない経験をしているのよ‼ 貴重な経験よ‼ お金は子ども達の将来の為にちゃんと取っておくは‼」


 僕がテレビに沢山出始めると、お父さんとお母さんの仲が悪くなった。いつの間にかお父さんが家から居なくなっていた。




「あのプロデューサーが絡んでいる番組全てに… あの子役を出しているなぁ… 父親が… 出たみたいだし… 母親と出来てんじゃないか…? プロデューサー」


スタジオの隅にいる僕のところにも、テレビ局の人が話しているのが聞こえた。



僕は、いつも収録前にトイレに行く。行きたくないけどトイレに行く。トイレに行くと個室に入る。僕が入ると直ぐに男の人が後に付いて入って来る。その男の人と個室で二人だけになる。そして、二人一緒にズボンを脱ぐ。


僕がトイレから戻ると、お母さんの目はいつも赤かった。


「これから私たちだけで生きていくの… がんばりましょう…」 


お母さんはいつも僕に話し掛けてた。




「いい演技だったよ… 来週の収録に付いて話しがあるから… 付いて来て…」


僕は、大学に入ってテレビに出るのを止めた。そして、大学を卒業してテレビ局に入った。あのプロデューサーさんが凄く偉い人になったテレビ局に。


僕は凄いスピードで出世した。プロデューサーに直ぐになれた。



あの時、僕には世の中が歪んで見えた。そして、今はもっと歪んで見える。


僕も子役は大好きだ。

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歪み 豊崎信彦 @nobuhiko-shibata

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