6
第一会議室を開けると、既に始まっており静かにドアを閉めると、竹内と堺は空いてる席に座る。
友塚と目が合う。
右手の人差し指で三回ずつテーブルを叩く。
竹内も友塚も、顔には出さないがホッとした。
以前はもっと感情を出す人間だったが、階級が上がった途端に、あれほど感情が顔に出やすかった友塚がまるで能面みたく顔つき、それに表情が変わった。
「周りが眼と声だけはやたらキツく、一切笑いもしない人間に囲まれてたら嫌でもこうなる。」と、以前話した事はあるが、癖はそう簡単に治らないらしい。
喜怒哀楽で示せば、
三回ずつ区切ったリズムは「喜」と「楽」で、二回は「怒」
よく見ずに判断を誤ると大変な事になる。
連打は俺にも分からない。もはや、本人も分からないのではないか。笑ってても怒ってても無表情でも。
そういう時は、誰も近寄らない。
隣で、爪先を上げたり下げたりするのが目に入る。
こいつもか…
俺の周りにはどうやら癖のある奴が寄ってくるみたいだ。
「……指紋·体液共に検出されず。僅かな毛髪は、DNA鑑定により、若月真優の母親、若月多香子と祖母の若月トキのものと判断しました。」
「わかった。今入ってきた奴らは何か分かったのか?」
会議室のど真ん中にいる人物が声を掛ける。
「津田警視。あの人達はたった今まで、現場に居ました。」
俺が会った事が無いと読み取り、友塚が苗字と階級をそっと教えてくれる。
「報告あるか?」
足で、隣の足を蹴る。やっと動きが止まり、眼で「いけ」の合図を送る。
「…はいっ!」
険しい顔をしていた割には直ぐに立ち上がるが…皆その声の大きさに、視線が集まる。
俺は耳鳴りがする。
「はい!遅れてすみませんっ!担当する堺です。
先程まで現場におり、状況証拠を確認して来ました。」
マイクを使わずにこれだ。使ってたら大変なことになる。と、そっと自分の元にやるが気付く素振りは無い。
「亡くなった若月真優·女性·32歳。証拠が無い事、あまりに室内が異質な事を含め、唯一残っていた日記と思わしきノートも見ましたが、自殺とも事件とも判断出来かねます。
先程、遺体の真下のカーペットの下から新たなノートが発見されました。それと、紙片も見つかりましたが、第三者が関わっているのはわかり事件性も強く感じます。ですが、もし、第三者がカーペットの下に隠すような面倒をするのであれば、部屋中見る事になります。なのに、日記を何冊…いえ、100冊近い数の日記を書く人物が、何も残さないとも言いきれず、カーペットを捲った時気付きそうな紙片を残していた事から見て、亡くなった若月真優が自分でやった可能性も消しきれません。しかし、第三者が関わったのは確かであり、その人物がどの様な関係で、どうしてこうなったか…。自殺と事件の両面を見てもまだ、判断出来かねます。」
手で友塚が制す。
「だが、もうマスコミは辺りを嗅ぎ回っている。それにだ。穏やかな土地ならではの近隣や地域住民が怖がり、電話が止まない。それにもう会見が迫っている。」
友塚の眼が一段とキツく堺を射抜く。
無言で「ここで決めないと無いぞ」と。
指は…連打だ。
「お前が思うままを言え。ありのままだ。」
そう前を向きながら堺に伝える。
「…。はいっ!この件に関して、今会見で自殺とも事件とも言い切ってはいけないと思います。誰かが関わってるのは事実です。それに、俺には
こうなりたかった。或いは、こうしたかった
そんな気がします。亡くなった若月真優の気持ちを無視出来ません!今はマスコミ相手かもしれませんが、観るのは不安などを抱いてる住民もです。自殺にしろ事件にしろ…曖昧な部分は全てクリアにしてからしっかり話すのが一番だと思います。会見を中止出来ないとしてもです。以上です!」
竹内は席に着いた堺の膝をポンと叩いた。
お前らしい言葉だった。声のデカさもな
視線はこっちに集まったままだが
「堺、まだ知らない事が多い。行くぞ。」
二人はそのまま会議室を出た。
「お前の声のデカさは誰にも適わねぇな。」
つい吹き出してしまう。
「何か間違った事言ってました?」
「いや、大丈夫だ。お前野球部出身か?」
「いえ、剣道ですが…」
「段持ちか。」
「いえ、補欠で応援を…。」
笑いを隠す為に頭を思いっきり叩く。
「何かしましたっ?」
「それだ。よし、気を抜くな。これからだ」
俺は、こいつと居るのが楽しいのかもしれない。だが、目の前の問題は厳しい。
「今日は遅いからノートの続きだ。明日は聞き込みと周りを探すぞ。いいな。お前の言葉を忘れんからな」
「はいっ!」
二人の足取りが段々と同じ方に揃ってきた。
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