第2話

 ある夏の暑い日でした。僕は仕事である町に来ていました。仕事が思ったよりはかどって、帰りの列車までまだ時間があったので、ちょっと見物しようと、町中をぶらついてみることにしました。

 三十分も歩いた頃でしょうか。今まで晴れていた空が急に暗くなったかと思うと、あっというまに大粒の雨が降りはじめました。みんなあわてて走っていきます。僕も雨宿りをしようと思って、目の前にあった店の中へとびこみました。


 そこは薄暗くて、人気ひとけのない店でした。たいして広くもないところに、いろいろな古い道具が並べあります。道に面した方には、ガラスのケースが置いてありました。そして反対側には、いかにも年月を経たような家具が置いてありました。暗さに目が慣れてくると、その椅子の一つにうずくまるように、誰かが腰かけているのに気がつきました。

 見たところ、八十歳くらいのおじいさんで、穏やかな、ちょっともの問いたげなまなざしで、眼鏡の奥から僕を見つめていました。僕はちょっとおじぎをして、

「すみません。ちょっと雨宿りをさせていただきたいんですが。」

と言いました。おじいさんは、

「ええ、いいですよ。まだやむまで間がありそうですから、暇つぶしに店の中でも見てらっしゃい。」

と言ってくれました。


 僕は店の中を見まわしました。ガラスのケースの中には、絵皿や壺、刀もあります。小さいのがいくつもまとめてあるのは、根付でしょうか。凝った細工の置物もありました。たぶん、かなりの値打ち物なんでしょう。

 反対側の奥の方、店の主のいる方には、古い家具の類が、昔の部屋のたたずまいそのままに、置いてありました。まるくて大きなテーブル。しっかりとした造りの椅子。ちょっと洒落た座り心地のよさそうなロッキングチェア。そして、壁には古い電話がかけてありました。

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