第8話 王太子リチャード・ワイズマン
ぬっふふふふ! 遂に……遂にやってやったぞ。遂に私はあの憎きホーリーズ家を国から追い出したのだ。
大昔の先祖の威光を何百年、何千年と利用して私腹を肥やす、悪のペテン師一族ホーリーズ家。
バカな愚民共をうまく洗脳しては聖女聖女と持て囃させ、まるで大人気スター気取りの傲慢な一族、ホーリーズ家。
そもそも、特別公爵という非常に不安定で希有な存在であるのにも関わらず、王族である私よりも人気を集めるなど厚かましいにもほどがある。
あそこまでの厚顔無恥は国中探し回ったとしても、到底見つける事は出来ないだろう。
現に、非常に聡明な有識者と呼び声が高い私でさえ、そこまでの厚顔無恥は見たことがないのだ。この国どころか、たとえ大陸全土を探し回ったとしてもいないのではなかろうか。
特別公爵という地位といい、常識外れの厚顔無恥さといい、いったいどれだけ希有な存在なのだ、ホーリーズ家。その図々しさは聖女どころかもはや神クラスではないか。
毎日毎日、国の財産を食い荒らしては平然とした表情でぬくぬくと暮らしおって。必死に働く愚民共に申し訳ないという気持ちが芽生えなかったのか? 自分達ばかりが楽をしている事に、少しも負い目を感じなかったのか? 奴らはいったいどんな気持ちで今日まで暮らしていたのだ? 私には奴らの気持ちなんぞ少しも理解できないぞ。
ぬっ?
ああ、そうか……。
そういう事か……。
分かったぞ、ホーリーズ家の者達よ。
お前達は厚顔無恥ではなく、厚顔無知だったのだな。
自分達がどれほど常軌を逸した存在であるか知らないんだな。
知らないからこそ、あれほどの図々しい行為が出来るのだ。
知らないからこそ、平然でいられたのだ。
圧倒的に知識が足りないからこそ、物事の善悪を正しく判断することが出来ずにいたんだな。
無知の知ならぬ、無知の無知という訳か。
そうか……そういう事だったのか……。
全てがひとつに繋がった。
「ふふふっ……ふっふふふふ!」
答えが分かってしまうと、何だか途端に体が軽くなったようだ。
「ぬっ……?」
とすると、私はとても可愛そうな事をしてしまったのではないか?
自分達の行いをまともに理解できない痛々しい哀れな一家を国外追放にしてしまったのでは、野垂れ死ぬのは目に見えている。
そうなるとさすがにいささか寝覚めが悪いな……今から呼び戻すか?
そうすれば、おバカな一家を救った心の優しい殿下として私の株が上がるか?
いや待て……。
いくら馬鹿な連中とはいえ奴らは長年この国の財産を食い荒らしてきたのだ。いくら馬鹿でも罪は罪。その報いを受けさせなくてはいけない。
「ーーーーっ!」
そうだ……その手があった! さすがは私だ! 今日の私も最っっっ高に冴えているぅぅぅ!
「くっくっくっ……」
考えるだけで笑いがこみ上げてくるぞ。
くくく……。私の筋書きはこうだ。
数日経って、奴らが腹を空かせ泣きながら帰ってきたら、その時は暖かく迎え入れてやるんだ。
そうすれば奴等に報いを受けさせる事が出来るし、なにより哀れな一家を許した器の大きな優しい優しいリチャード殿下というイメージを愚民共に植え付ける事が出来るではないか!
最高だ。最高すぎるっ!
やはり今日の私は最っっっ高に冴えているぅぅぅ!
くっくくく……。
いくら馬鹿でも死ぬのは嫌だものな。
生きるためには国に帰るしかないものな。
私に泣きつくしかないものな。
くくく……。いつだ? 何日経てば奴らは泣き出すことだろう? 無様に泣き叫んで私に許しを請う顔が今から目に浮かぶようだ。
はぁ~! 実に清々しい! 身体が宙に浮かび上がりそうだ!
「……ん?」
私の心はこれほど晴れ渡っているのにも関わらず、生憎の空模様だな……。
それにしても妙だ。ついさっきまで見事な晴天だったのに、たかが数分の間にこれほどまでに天気が崩れてしまうとは……。
まあいい。空模様など知った事か。憎きホーリーズ家に追い討ちの大雨でも降らせてやればよいのだ。
身も心もびっしょびっしょになるまでな。
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