第12話 教皇の夢
・・・新たな帝王を迎え入れよ・・・その名は・・・
・・・いずれお前の元に現れるだろう・・・
「・・・はぅっ・・・又あの夢か・・・やはり、これは神のお告げなのか・・・」
バリカタ教の教皇ツラレンシス・フランシセラ・レオニダスは近頃毎晩同じ夢を見ていた。
いくら”魔王軍との戦いで敗れた”とはいえ、帝王を退位させ追い出す事には抵抗があったからだ。
だが、もしもあの夢が本当に神のお告げであればと、思考の渦にはまり正しい判断が出来ず数日を過ごしていた。
そんなある日、教皇の元に来客があった。
「猊下、お客様がお見えになりました」
「ふむ、通すが良い」
この大陸においてバリカタ教の教皇とは一国の王と同列に見なされるほどの権力を持っている。
「猊下、本日はご相談が有って参りました」
現れたのは枢機卿たちでバリカタ教は帝国内にて枢機卿団を作り三つに地区分けられている。
その三地区の代表が一度に訪れたのだ。
サルガーリ・ウルトル卿、ヨルゴス・ファナティコス卿、ヴィルへル・オロルミーナ卿の三人だ。
いずれも代々世襲で卿団を支え、バリカタ教とフォルティス帝国を支えている自負がある。
「おお、お三方揃ってとは珍しい・・・一体何があったのであろうか?」
「実は・・・」
三人は顔を見合わせて代表してウルトル卿が告げた。
「我ら三人は魔王軍との交戦中から可笑しな夢を見る様になっておりまして・・・」
「なにぃ!!」
「いえ、夢です。夢なのですが・・・三人とも同じ内容の夢でして・・・」
「新たな帝王を迎え入れよか・・・」
「「「げ、猊下!!」」」
「まさか卿たちも同じ夢を見ていたとは・・・」
「猊下もですか!!」
「ふむ。して内容は?」
「我らは一様に”新たな帝王を迎え入れよ”とだけでございます」
「そうか・・・我が夢には新たな帝王の名も教えてくれたぞ」
「猊下、宜しければ教えて頂きますれば、国中をお探しして迎え入れましょう」
「いや、待て。お告げでは我が元に現れるそうだ」
「「「おおおおっ!!」」」
「我はこの夢を、神のお告げなのか迷っていたが、卿たちの話を聞いて確信した」
「我らもでございます」
「うむ。そうとなれば忙しくなるぞ。現帝王を失脚させて辺境に追いやらなければな」
「猊下。いっその事、”神に召された”方が宜しいのではないでしょうか?」
調子に乗ってファナティコス卿が危険な発言をした。
「そこまでのお告げは無いから辺境に幽閉で良いではないか?」
「では財産は没収し一族郎党に、縁の深い貴族たちも全てですな」
オロルミーナ卿も煽りだす。
「教徒を使い民衆を扇動し、魔王軍に負けた責任を皮切りに、今までの悪行を全て晒してやりましょう」
どうやらファナティコス卿は現帝王に不満があるらしい。
「そしてしかるべき宗教裁判に持ち込んで、廃位させましょうぞ」
ウルトル卿も同様だった。
「それで、どの位かかりそうかのぉ」
「・・・三月。いえ、急げば60日あれば可能かと」
「では何処に幽閉させるか?」
「隣国とは接していない方が賢明でしょうな」
「ならば西方の山岳の手前は如何でしょう?」
「あのドラゴンの住むと言う山の麓か」
「御意」
「ふむ。では段取りは任せてよいかな? 卿たち」
「仰せのままに」
「それは違うぞ、卿たちよ」
「「「はぁ?」」」
「神のお告げのままに、であろう」
「「「御意!!」」」
フォルティス帝国にて枢密院とは、帝王の質問に対して院内の諮問機関による選定者たちが国内の有識者に意見を求め陳情する組織だ。
お告げでは記憶には無い名前だったが、新たな帝王に強く推挙したのは他ならぬ教皇だった。
何故ならば神のお告げだからだ。
その教皇を筆頭に職種の違う5人の有識者を、帝王を補佐する新たな枢密院の代表とした。
ツラレンシス・フランシセラ・レオニダス(教皇)
天啓を受けて神の足元に存在する事を許されたと思い込んでいるレオニダスだ。
実際はスクリーバの念話なのだが、本人は天啓だと信じている。
何故ならば枢機卿団の三人も同様だったからだ。
しかし、自分だけに特別な情報を教えた事に対して、神に選ばれた自負が有った。
全てを宗教に捧げて来たレオニダスにとって、今後発展する帝国を見る事が唯一の喜びであった。
ギュスターヴ・バン・クーバー(将軍代表)
将軍たちの中では中立派だったクーバー。
子爵の次男だが、部下や民を思いやり絶やす事の無い練武で功績を上げて来た男だ。
顔には多くの皺が深く入り苦労の跡が垣間見えるが、本人が口にすることは一切無かった。
ガナリト・アレナ・ヴォルフガング(冒険者代表ギルマス)
本来はこの国の生まれでは無いが、その腕と実績でギルマスとなり早十五年。
既に現場を離れて役人の様な制服を着ているが、眼光は現役のままだ。
人生で一番驚いた事は荒くれも者の自分が今、帝王の参謀として携わっている事だ。
ゼクシス・エルシニア・ペスティス(貴族代表)
ペスティス家は新興貴族だ。
数年前に襲った天災に、私財を使って民を救い国に貢献した事が評価されて辺境の領土を管理する貴族に任命された経緯がある。
枢機卿団から寄せられた情報を元に教皇が指名したのである。
セラフィマ・アントラシス・バシラス(商人代表)
バシラス家は帝国で最大勢力を持つ商家だ。
帝国で出回っている全ての商品を扱っている大豪商である。
元々教皇との繋がりも強かった為、情報網の一つとして組み込んだ教皇だ。
5人なのは多数決をする場合を想定しての事だ。
また教皇は枢機卿団を構成しており、独自の情報源を保有する。
枢機卿団とは教皇の補佐であり国内外を三人で地区分けされている。
サルガーリ・ウルトル卿。
三人の枢機卿団の中で一番の老齢で五十過ぎだ。
他の二人からの信頼も有る。
白髪が目立つが目の輝きは衰えていなかった。
ヨルゴス・ファナティコス卿。
先代から引き継いで既に十二年が立っていた。
亡き父の友人でもあったウルトル卿とは良好な関係を保っている。
いずれ枢機卿団を纏める役回りに向けて余念が無かった。
黒髪でくせ毛の強い髪を短髪にして、毎朝欠かさずに冷水で身を清めている。
ヴィルへル・オロルミーナ卿。
最近世代交代したばかりで先代は存命だ。
一番若いが、三十を超えたばかりだ。
金髪でエルフの様に長髪を後ろで縛り、比較的整った顔をしている。
教皇の命により暗躍する枢機卿団たち。
国内は静かに世代交代の時期を迎えようとしていた。
「すべては天啓のままに・・・」
☆
帝王、失脚か。
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