第31話
【レルフィード視点】
「……だと思うのですがどう思われますか?」
……ああ、昨日は楽しかった……。
何と言ってもキリが腕を組んでくれるという至福な体験が出来ただけでなく、柔らかいキリの体で私のゴツゴツした腕が包まれるという御褒美があったのだ。
神は確かに存在するな、うん。
ああそうだ。私の服も選んでくれた。
自分はコーディネートのセンスがないというか、正直服など着られればどうでもいいタイプの人間だったが、キリが選んでくれたと思うだけで、シンプルなデザインのシャツとパンツであっても、この先ずっとお気に入りとして着続けるだろう。
カフェでお茶を飲む時に熱くてふーふーしてる時の愛らしさといったらもう──。
「……あの、聞いておられますかレルフィード様?」
「──あ、済まないがもう一度頼む」
シャリラのひんやりした声でハッと意識が戻る。
そうだった。今は仕事中だった。
早く仕事を済ませてキリのご飯を食べなくては。
「ですから、聖女たち一行が2日前に出立したと連絡が入ったのです」
「……どういうことだ?まだ1ヶ月以上は先ではなかったのか?勇者選抜中だとジオンが言ってたではないか」
「私には分かりかねますが、もうある程度戦力が固まったのか、のんびりしてられない事態でもあったのか。いずれにせよ、こちらに向かっているのは確かですわ」
「そうか……」
「キリがいるからとりあえず聖属性の魔法は中和されて効かないとしても、だ。
他に何を使ってくるか判らんし、俺らも戦う気はなくても、全くの無抵抗って訳にもいかねえだろ。国民に被害が出ては困るしな」
ジオンが眉間にシワを寄せる。
国全体を覆う防御結界は私が張っているが、流石に範囲が広いのでそれほど磐石と言えるほどの強度ではない。
元から国民自体がそれなりに自衛魔法が使える者が多いせいもあるが、概ね敵が入り込んできた時に場所を特定するのが本来の目的なのだ。
ジオンやシャリラたちが蹴散らしに行くまでの間だけ持てばいい。
以前からうちの城勤めの衛兵は強いし、この頃は食事が美味しくみんながよく食べるようになったせいか、体つきも以前より逞しくなった。
鍛練に励んだ後の食事がまたたまらないと、前以上に鍛練に勤しんでいるようだと報告を受けたことがある。
もう食事がメインなのか鍛練がメインなのか分からないが、よく働きよく食べるせいか、肌ツヤもよくみんな健康そのものである。
「思ったより早かったな……」
恐らく2週間もしないうちに我が国まで来てしまうのだろう。
これからもっとキリとデートしたり膝枕とか手を繋ぐとか、キスをするとかやりたい事は沢山あるのに。
「……出来ればゆっくり来てもらいたいものだが、文句を言っても仕方がないな」
「キリにはレルフィード様の方からお伝え頂けますでしょうか?彼女も立ち会いが必要になるでしょうし、心の準備もあるでしょう」
「──分かった」
私は頷いた。
◇ ◇ ◇
「……なるほど、聖女さまが2週間ほどで来られるのですね?予想より早かったですね」
今日はキリの方が早く仕事を終えていて、私は手伝う事も出来ずにがっかりしていたのだが、私の為にランチを作ってくれていたので(私1人の為だけにである。他の城勤めの人間の為ではないオリジナルメニューだ!)すぐにご機嫌は直った。
ショーユ焼きそば、という肉と野菜の沢山入った黒っぽい麺は初めて食べたが、キリが作るご飯はどれもみんな美味しい。キリが作ってると思うと尚更である。
モギュモギュ食べながら頷くと、私は
「のんびり来てくれればいいのだがな。キリも申し訳ないが、聖女が来た時には宜しく頼む」
「はい。どれだけお力になれるか分かりませんが」
大体私魔法の訓練すらしてませんからねえ、と笑うキリがまた可愛い。
「私はキリが側にいるだけで百人力だ」
だから、帰らないでくれ。
ずっとこの世界にいてくれ。
喉元まで出た言葉は、キリを困らせるだけだと分かっていたから、出さずにしまいこんだ。
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