第12話
「………町に出掛けたい?」
レルフィード様が麻婆豆腐丼をハフハフと口に運びながら、首を傾げた。
ちなみに野菜を摂りたいシャリラさんは中華丼、辛いのが大好きなジオンさんは麻婆豆腐丼である。まあシャリラさんも特製ラー油を結構かける事が多いので、きっと彼女も好きなのだろう。
最近ではランチタイムより少し早めに来てくれるので、お客さんも少ない今のタイミングがベストである。
「ええそうなんです。明日が休みなので。
実はですね、恥ずかしながら私寝間着とメイド服とコックコート一式、それとこちらへ来る時に着ていた服しか着るものがありませんので、レルフィード様に少しお給金を前払いして戴いて、普段着るものを何着か欲しいなと」
余り着るものを選べる体型ではないが、流石に仕事着以外は寝間着と日本に戻る時のデフォ衣服だけでは何かと困る。
いや、毎日脱いで洗濯籠に入れると半日も経たずに綺麗になった状態で置いといてくれるのだが、その、下着は流石に頼めないから自分で洗う訳で。
そのブラもパンツもワンセットしかない。
だから風呂に入る時に洗って、クローゼットのハンガーのところにコッソリと干しているのだが、寝る時はノーパンである。
何の疚しい気持ちもないが、ノーパンになってるだけで、結構落ち着かない。
さねるのNo.5しか寝る時にはまとわないわ、と言う海外のセクシー美人女優ではないのだ。
それにいくら厚手のロングTシャツみたいな寝間着だろうと、ノーパンのまま眠るのは、やはり何ともいえず股間がスースーするのだ。
だからって、
「あのー、すみませんがパンツとブラジャー支給して貰えませんか?」
とはとてもじゃないが言えない。
これでも一応乙女としてのプライドがある。
なので下着を買うついでに、町の様子も見つつ休みの日に着られる普段着の2、3着位欲しい。でないとろくに外も出歩けない。
状況は割と緊急かつ切実なのである。
「………それは、構わない、んだが、………」
「キリ。付き合うのは何でもないのだけど………実はね、明日から私とジオン様が隣国の様子を探りに3、4日ほど留守にするのよ」
「まあ、そうなんですか………」
女性の買い物だし、町のどこに何が売ってるのかもまだ分からない。女性と一緒に行った方が絶対いいに決まっているが、私にはシャリラさん以外にまだ親しく話せる女性は居ない。
「それじゃ、お戻りになってから次かその次のお休みにでも………」
少しだけガッカリしながらもそう答えると、
「………良かったら、私が案内しようか?」
と恐る恐るな様子でレルフィード様が呟いた。
「えっ?いやいや魔王様に買い物に付き合わせるとか畏れ多いですよ!」
「別に、明日は、私は読書の予定しか、ないから………」
「おう!そりゃいいじゃないか。なあキリ、レルフィード様は面倒臭がりで、殆ど外に出掛けないからよー、遠慮せずにガンガン外に連れ出してやってくれないか?」
「いやー、でもいちメイドが雇用主を道案内にすると言うのは………」
「いやキリが勝手に働いてるだけで、立場的には客人だからな?本来ならもてなさないといけない側だろ俺たちやレルフィード様の方が。
気にすんな気にすんな、少し位は光合成でもした方がいいんだよ魔王だって」
「魔王様を植物呼ばわりですか。………いや、でも………いいんでしょうか本当に?初めて町に出るので助かりますけども………外に出るの苦手なのではないんですか?」
自分が元の世界で仕事と用があって出る時以外は家にいるのが好きな引きこもりだったので、気持ちは分かるつもりだ。
読書が趣味と言うレルフィード様が外出するのは嫌なんだろうなーと思うと腰が引ける。
「いや、………ちょうど新しい本も見に行こうかと思って、いたから………」
ボソボソと話すレルフィード様とはやはり視線は合わない。
シャリラさんから、
「人間と接する機会が殆ど無いから対応の仕方がよく分からないだけで、別に機嫌が悪いとかじゃないから気にしないで」
と先日言われたが、元から話すのも苦手なタイプなんじゃなかろうかレルフィード様は。
まあ私のような見てくれの女と一緒に歩いて戴くのも憚られるほど、レルフィード様は目鼻立ちの整ったオーラのあるちょいコワモテのイケメン様であるが、正直背に腹は変えられないというか、せめて本を見て貰っている間に下着と普段着の1着だけでも早めに調達したい。
「もし本当にご迷惑でなければ………」
「構わない」
有り難い。私は頭を下げて、
「ありがとうございます!助かります」
と心から感謝を告げた。
しかし魔族の町は、一体どんなところなんだろうなぁ。
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