ハーフエルフのお兄さんにハンカチを貸しただけで嫁フラグが立っていた。

来栖もよもよ

おはなし。

 ここはニホンベサルチア連合国。

 といっても昔ながらの日本である。

 

 ある日、富士山の麓に空いた穴から異世界の住人が現れ、世界各地にも同様の穴が空いた事で国際問題に発展したが、首脳会議で当時の日本の首相からの、

 

『魔法で防御されたらおしまいですし戦争にもなりゃしませんよ。ミサイルとか魔物に効くかも分かりませんし、日本の象徴である富士山を焼け野原にする訳には行きません。

 まあ害意もないそうなんで、ここは1つ穏便に』

 

 というなあなあの決断が評価され、各地で連合国として異世界の住人との共存関係が築かれる事となる。

 

 それから早数年。

 

 

 ラノベが存在する国の日本人からしてみれば、獣人や魔物と呼ばれるファンタジーが現実になって大歓迎だった者も多く、「外国人はとりあえずもてなす精神」が根強い年配勢からも、「日本人じゃない人(魔物)」という事でざっくりと理解され、概ね共存関係はどの国よりも早く構築されていた。

 

 割と大雑把なゆるい国民性であるとも言える。

 

 だがベサルチアの人種(特に男性)は、一途で思い込みや独占欲が強く、思い込んだら命がけのストーカー気質な人種が多い事を、日本人はまだ気づいていない。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それではー、中途採用で新人さんも入りましたのでこれから一層の発展を願いまして、仲良く頑張りましょうー♪ かんぱーい!!」

 

「「「かんぱーい!!」」」

 

 私の勤務する会社は主にカメラの付属品を作って売っている。

 そんなに有名ではないが、知る人ぞ知るという中堅どころである。

 

 ここ3年ばかりは業績が今一つだったらしく新人が入社してくる事はなかったのだが、人気のある画像加工するスマホアプリと提携出来たとかで、値段も手頃と売り上げが大分伸びたらしい。

 

 久々に11月に中途採用とは言え若い男子が入ってきたので、佐々木課長が浮かれて飲み会を企画したのである。

 

 と言っても全社員入れても20人もいない小さな会社で、我が販促部は佐々木課長を入れても4人である。

 

 そして幼い子がいる人妻な先輩はお迎えがあるからと参加できず帰ってしまい女性は私1人。

 

 40代の佐々木課長に50近いベテランの新田さん、そして独身彼氏なしの34歳の色気のない女という大分枯れたメンツに囲まれるベサルチア人のヒューゴ・エバレント君(推定25歳)。

 

 何でウチのようなぴちぴちした若い女子もいない、何かが起きなければ爆発的に成長が見込める訳でもなさそうな会社に彼のような有能そうな若手が入ってきたのかは謎である。

 

 佐々木課長の注ぐビールを申し訳なさそうに受けて飲み干すヒューゴ君を、塩揉みキュウリをツマミにウーロンサワーという華やかさの欠片もない組み合わせを楽しみつつ観察する。

 

 

 エルフの血が入ってるとかで、シルバーブロンドの艶やかな髪もエメラルドのような目も綺麗だし、目鼻立ちは整いすぎるほど整っているのだが、それを感じさせないほどデカい。ゴツい。

 

 190センチ近くはあるんじゃなかろうかという身長に、隆々とした筋肉が全体的に付いていて、マンガにあった世紀末な覇王とか霊長類最強とか言われてる格闘家みたいな感じなのである。

 

 

 ……ただ、この圧迫感のある体つきを見るのは初めてではないのだ。前はここまでゴツくはなかったが。

 まあ、半年ほど前なので覚えてはいないだろうけど。

 

 

 

 

「──さん、松崎恵理子さん」

 

「おっと、お疲れさま」

 

 佐々木課長がお気に入りの店だそうで、個室で空間にゆとりのある掘り炬燵の部屋である。

 横になれそうな八畳の広さだし周りの音も気にならないのでなかなかしっかりした造りなのだろう。

 

 乾杯の後はそれぞれ適当にやっていたのだが、佐々木課長は新田さんと胡座をかいて、

 

「何故今はポロリのある芸能人水泳大会がなくなってしまったのか。民放で見られる唯一の合法エロと言っても過言ではなかったのに」

 

 等という会話を熱く語っているが、その前は佐々木課長がカメラ業界のこれからをヒューゴ君に語っていた気がする。仁王のような新人に正座をさせるとより大きく見えて、どっちが上司だか分からないなーと焼き鳥を食べながら内心苦笑していたのだが、スマホにネットニュースが流れてきたのでちょっと目を離してたらいきなり横に座っていたので少し驚いた。

 

「佐々木課長もちょっと熱くなるタイプだけど悪い人じゃないから、何か言われても気にしないようにね」

 

「はい。でも皆さん本当に良い方ばかりです」

 

 ニコニコと私に日本酒を注ぐヒューゴ君は既にかなり飲まされたのか顔が真っ赤だ。

 

「急性アルコール中毒とかあると怖いから、お水とか貰おうか?」

 

「あ、いえ、お酒には割と強いので大丈夫です」

 

 本当かいな、と思いながら口調はしっかりしているので安心した。

 

 ヒューゴ君にもビールを注ぎながら、

 

「ところで中途採用で入ってくるにはかなり若いけど、日本に来たのは最近なの?」

 

 と聞いた。

 

「えーと、そうですね8ヶ月前になります。でも若いと言われるとちょっとアレなんですが」

 

 おや、結構いってたのかしら。

 

「幾つなの?」

 

「138歳です」

 

 飲みかけた日本酒を吹いた。

 

「ひゃく……?」

 

「ニホンに来て驚きました。ニホンジンは大体100年位しか寿命がないと」

 

 まあ大抵の地球上の生き物でも長い方だけども。

 

 

 ベサルチアは人種によって長生きだそうで、スライムさんなどは500年、オーガやゴブリンなどは200~300年、獣人も200年位は生きる者が多いとのこと。

 

「私もエルフの血が入ってるので、300年前後は生きるのではないかと。

 あっ、でも138歳とトウは立ってますが、ハーフエルフとしてはぴちぴちの世代ですぴちぴちの!」

 

 座布団を座りやすいように二枚重ねにしようとしていた私をヒューゴさんは慌てて止めた。

 

 私も少し動揺したらしい。

 

「私の4倍以上生きてるんだね。ヒューゴさんと言わなきゃダメだったわ。見た目で判断して申し訳ない」

 

 頭を下げる途中でまたしても止められた。

 

「恵理子さんは会社の先輩ですし、出来たらもっと砕けた感じでお願いしたい位です。名前も呼び捨てで。

 実は、恵理子さんに会ったのは初めてではないんです。きっと覚えてはおられないと思いますが」

 

 何故か苗字の松崎の方ではなく名前の恵理子を連呼されているのだが、外国の人は名前を呼ぶのが普通なのかも知れないと突っ込むのは止めておいた。

 

「……半年前の異文化セミナー主催の親睦パーティー?」

 

「あっ、そうです! 恵理子さんがお酒をこぼした私にハンカチを貸してくれてですねっ!」

 

 嬉しそうに頷いたのだが、あれはこぼしたと言うより自分でわざとかけたような……いや、半年も前の記憶なので定かではない。きっとヒューゴさんも酔っ払って手元がおぼつかなかったのだろう。何しろ138歳だし。

 

「覚えてる。あの後風邪気味だったんですぐ帰ったんだけど、その時から大きい人だなと思ったわ」

 

「ハンカチを返そうと連絡先を聞こうとトイレから戻って探したのにもう姿が見えなくて泣きそうでしたよ」

 

「大げさな。あんな安物のハンカチ別に構わないわよ」

 

「いえ。恵理子さんの持ち物っていうだけでレアなので。本日はクリーニングしてあるモノをお持ちしました」

 

「……え?」

 

 カバンからヒューゴさんがゴソゴソと取り出したのは、綺麗にラッピングされたリボンのついた袋だ。

 

「これ、私のハンカチ?」

 

「はい。本当はずっと洗わずに取っておきたい位でしたが、洗わないとシミが残りますし、返す時に何て礼儀知らずだと思われてもいけませんので」

 

 御礼を言い受け取ったものの、ふと疑問が湧いた。

 

「この会社に入って私がハンカチを貸した人だって分かったのよね? そんなにいつも持ち歩いてたの?」

 

「いえ、恵理子さんが勤めている会社だと知ってました。たまたま募集が出たのでこれ幸いと応募しまして採用された次第です」

 

 キリッとした顔で答えるが言ってる事がおかしい。

 

「ハンカチ返すためにわざわざこの会社に?」

 

「まさか! そこはスタート地点です」

 

 ぐいっとビールを飲み、ヒューゴさんが語る。

 

「ハンカチを返してくれる律儀で真面目な人というところで職場の先輩後輩として円満な関係を築き飲みに行ったりご飯を食べたりしつつ親密化を図りあわよくば週末に映画とかドライブとかを楽しみつつ更に親密化を進めもうこれは付き合ってると言ってもおかしくないよね? 付き合おうよという流れがあり晴れて恋人同士となったところで私のマンションで一緒に暮らしませんかと囲い込んで親御さんへご挨拶をして入籍をすると言う壮大な1年計画があります」

 

 ノンブレスで当事者本人の前で言い切ったが、余りにも不穏なワード目白押しでどっから突っ込めばいいか分からない。

 そもそもハンカチで一目惚れはともかく何の情報もなかった私の名前や会社まで調べあげてるのが怖い。

 

「まさかとは思うけど、あのパーティーでハンカチ貸しただけで、その……」

 

「一目惚れしました。というかもう【俺のベサルチアの女神は恵理子さんだ!】と落雷のように心にストンと落ちたといいますか魂で惹かれるといいますか」

 

 ゴツい美形が照れるな。気恥ずかしいわこっちが。

 

「でも私、34歳で若くはないんだけども。

 それに別に可愛くもないしスタイルもいい訳じゃ」

 

「私に比べたら生まれたてみたいなもので、むしろ私の方が犯罪と言われてもおかしくないところです。

 同じハーフエルフの友人に打ち明けたところ【ロリコン】と一刀両断されました」

 

 胸を押さえてうつ向くヒューゴさんに、いや34歳でロリコンてと思ったものの、300年生きるような種族では確かに若すぎる年齢ではあるのかも知れない。

 

 個人的には若すぎると言われると微妙だが。

 

 しかし、だ。

 

「ヒューゴさんは──」

 

「ヒューゴでお願いします」

 

「ヒューゴ、は見た感じ全く年寄り感がない訳だけど、老け込まないの?」

 

「かなり緩やかです。最後の50年位ですかね、段々と年を取るのは」

 

 私が生きてる間この若々しさか。

 

「私は人間だからおばーちゃんになっていくの早いよ」

 

「問題ないです。恵理子さんであればおばーちゃんになっても可愛いですし、私と結婚する事で寿命が延びて年の取り方が一緒になります」

 

「……どういうこと?」

 

 ベターハーフと呼ばれる組合せ、いわゆるベサルチアでツガイと呼ばれるカップルがおり、種族も異なる事が多いのだそうだが、結婚して結ばれると長寿側の寿命に合う形で自然に短命な者も長命になるのだそうだ。

 

 滅多に出会えないツガイと結ばれると、逆に相手が亡くなると生きていけない程衰弱し、そのまま残された方も後を追うように亡くなる事が多いそうだ。

 

 例外は子供がいた時だけで、子供が結婚したり独り立ちすると遅れて死ぬようだ。

 

「……呪いだねぇそこまでくるとツガイって言うのも」

 

 佐々木課長と新田さんは飲みすぎたのか眠ってしまっており、後でタクシーに乗せるの面倒だなと思いながら呟いた。

 

「どうしてですか? 私はとても合理的だと思いますけど。愛する人がいないのに延々と生きるのは辛いです」

 

「でも子供たちがいればさ、ほら」

 

「子供たちも子供たちの人生があります。彼らの愛する人も出来ますし、子供とはいえ私のツガイほどの愛は注げません。

 私は恵理子さんに出会うまで138年かかりましたが、一生出会えないまま、待ちきれず違う人と結婚してしまう人もいます。でもそれはお互いに不幸です」

 

 ヒューゴが溜め息をついた。

 

「どういう事?」

 

「ツガイでない相手と結婚して、子供も出来てそれなりに幸せに思える日があったとしても、ツガイと出会った瞬間に全て終わります。ツガイ以外に心が向かなくなりますから夫や妻、子供もポイしてしまうのです」

 

「あー、それは……ちょっとツラいねえ……」

 

 とぽとぽとビールをヒューゴに注ぎ、自分も日本酒の徳利を空けた。

 

「お代わりどうしますか?」

 

「──いや、後はお水でいいや。課長たちをタクシーに乗せないとだからしっかりしないと」

 

「2人は私1人で持てますから大丈夫です」

 

 うん、だろうな。

 でも入社したての新人におんぶに抱っこはいかん。

 

「とりあえず、課長たちを帰して、ベサルチアの話をもう少し聞きたいから2人で二次会しない?」

 

 パアアアッ、と喜色が浮かぶヒューゴに、私はほだされてしまいそうな気がした。

 

 

 だって、138年……まあ生まれてすぐとかじゃなくて適齢期からとしたって、100年以上ツガイがいないまま生きてきて、下手したら一生1人ぼっちで生きていかないといけなかった人だもんなー。

 

 既に私の一生分以上を1人で過ごしているのだ。

 寂しいだろうなと思う。

 

 

 

 

 佐々木課長と新田さんをタクシーに放り込み、それぞれの住所を乗務員にメモで渡して帰すと、ヒューゴに、「どうする?」と聞いた。

 

「どうする、とは?」

 

「いや、明日は休みだからのんびり飲みながら話を聞きたいけど、帰るの面倒になるからね。

 もしアレならウチに来るかなあと。たまたまここから歩いて帰れるし、お酒もあるしツマミ位なら作るし。

 あ、イヤらしい事はなしだけど」

 

「喜んで行かせて頂きます! ……お手製の料理とかもう死ぬのかも知れないいやまだ死ねない」

 

 コクコク頷くヒューゴはとても100年以上生きてるとは思えないほど可愛かった。ゴツいけど。

 

 私は彼と自宅のマンションに向かって歩きながら、

 

「ところで1つ確認したいんだけどね」

 

「何でしょうか?」

 

「筋トレとか好きなの? 前に見たときより1回りは大きく見えるんだけど。何かスポーツやってるとか?」

 

 と質問してみた。

 

「え? だって恵理子さんが言ってたから……」

 

「? 何を?」

 

「ハンカチ借りる前に、他の女性と【男性の筋肉質な腕とか、厚い胸板ってそそりますよねぇ】って親睦パーティーの時に言ってたのが聞こえたので、それで好感度上がればと……」

 

「んー、そこで会った人とそんな話はしたけど、ヒューゴほどゴツいと逆に少し怖いかなー。殴られたら吹っ飛びそうだし」

 

 ヒューゴはショックを受けたように顔を歪ませた。

 

「女性を殴るなんてとんでもない! 恵理子さんを殴るぐらいなら死にますから」

 

「大丈夫だよ。前にね、ちょっと付き合ってた人がすぐ手を上げる人だったから」

 

 だから、大柄な男性は少し恐怖感があるのだ。

 だがヒューゴは顔面蒼白になった。

 

「恵理子さんに手を上げた? 誰ですかソイツ。教えて下さいベサルチアの山に捨ててきますから!

 直接手を出さなくても魔物が始末してくれますし!」

 

「止めれ人に殺人の片棒担がせるのは」

 

「でもっ!」

 

「昔の事だから。ベサルチアの人の言うツガイではなかったんでしょうね。

 でも不思議だよねえ、ベサルチア人のツガイっていうのは、相手がツガイと言う概念がないところでも発動するのね」

 

「えーと、ニホンジンでも一部ですが居ますよ」

 

「へえ、そうなの?」

 

「結構一方通行が多いようですが。

 調べてみましたが、こちらのツガイという考え方の人たちは呼び方が違うようです」

 

「初耳だわ、何て言うの?」

 

「ヤンデレとかメンヘラと呼ぶそうです」

 

 

 ……聞きたくない情報だったわーそれ。

 

 

「ヒューゴも、ツガイを閉じ込めておきたいとかそう言った趣味嗜好が……?」

 

「閉じ込めておきたいというか、他の異性の目に出来るだけ晒したくないというか、出来れば仕事しないでずっと家で専業主婦していて欲しいというか。

 あ、甲斐性はあるんです向こうで貯めていた貯金がかなりあるので、冒険者でかなり長いこと稼いでましたので正直仕事しなくても一生困らないっていうか社会経験程度で後は恵理子さんとイチャイチャしてても全然余裕っていうかですね」

 

 いやまだ付き合ってもいないぞ落ち着け。

 

 

 マンションにたどり着き、リビングに案内すると、

 

「恵理子さんの匂いが沢山……」

 

 とうっとりした仁王がいた。

 正直かなり不気味ではあるが、不快ではない。

 

 だが、ツガイがヤンデレと似たり寄ったりと言う知識を得てしまったので、果たして本当に「そんなに好きならひとまず付き合ってみよう」と言ってもいいのか迷う。決して悪意のある感じはないだけに悩むところだ。

 

 狭い1LDKのマンションではヒューゴ1人増えただけで圧迫感があるが、とりあえずソファーに座らせて酒の支度をする。

 

 ピーナッツと乾きものがあったので皿に盛る。

 私は家では焼酎のウーロン割りが基本だ。リーズナブルでさっぱりしている。ヒューゴもそれでいいと言う。

 

 冷蔵庫を開けると、玉子と焼そばの麺とカット野菜があったので、厚焼き玉子と焼そばを手早く作りこれも器に盛る。

 

「お待たせ」

 

 テーブルにツマミと酒を並べると、ソファーで大人しく座っていたヒューゴが目を潤ませて、

 

「写真撮ってもいいですか?」

 

 とスマホで料理をカシャカシャ撮り出した。

 

「本当に大したもんじゃないから止めて」

 

 と言っても、

 

「好きな人が手をかけて作ってくれたのに、大したものじゃない訳ないじゃないですか!」

 

 と聞き入れない。そうか、これがヤンデレ……ツガイ的な感覚なんだな、と私は遠くを見るが、気を取り直して飲むことにする。

 

「それでヒューゴは、ベサルチアで付き合ってた人は居なかったの?」

 

「1人、そうなりそうな幼馴染みはいたんですが、どうしてもツガイではないと分かっている人とそう言う関係になるのは嫌で……」

 

 おうふ。これはまさか付き合うと、初カノが私か。

 138にもなって初めて付き合うのが三十路過ぎとは不憫で目頭が熱くなる。まああちらの種族的感覚ではロリコンなんだそうだが。

 

 美味い、美味すぎると泣きながら食べているヒューゴを見ていると、何だかそこまで私に何かを感じたのかと思うと、ほだされるというか既にほだされてしまった。

 

「──うん、分かった。付き合おうよ」

 

 流れでつい言ってしまった。

 

「え? あの、先輩後輩としての飲み会一緒ご飯や週末のデートをすっ飛ばして?」

 

「元からあんまり職場の人とは飲んだり食べに行ったりしないもの。それに週末にデートしてたらそれは同僚でなく恋人だと思うよ」

 

「えっと……そうしますともう恵理子さんと私は恋人同士と言う事で良いのでしょうか?」

 

「付き合い初めのね。

 まあ付き合って嫌な所が出てくるかも知れないから、その時はキッパリ──」

 

「入籍ですか?」

 

「違うでしょ、キッパリ別れましょうと──」

 

「嫌ですけど。死ぬまで傍に居たいです。

 嫌いになることなんかないんで」

 

「人は全ての人が一生添い遂げる訳ではないのだよヒューゴ君」

 

「私は何があろうと一生添い遂げる一択なので問題ないです」

 

「私がいきなり鼻をほじほじしたり、酒太りでお腹たぷんたぷんになっても問題ないのかね?」

 

「全く問題ないです。恵理子さんであればまるっと受け入れる所存です」

 

「……私がヒューゴを嫌になったとしたら」

 

「嫌な所は直します。何がなんでもすがりついて捨てないで貰います。

 一生大事にしますから結婚して下さい!」

 

 ヒューゴが土下座した。

 

「待て。だから、今日付き合う事を決めたばかりでね」

 

「でもほら、付き合っても結婚まで一本道じゃないですか? 今先輩後輩ルートはしょったんですし、恋人期間をはしょってこのまま入籍しても同じじゃないですか?」

 

「いや待って、全然同じじゃないよね?」

 

「どうしてですか? だって恵理子さん最終的に私の奥さんしかないんだし、生涯愛してますし心から尽くしますから結婚して下さい!」

 

 土下座は続く。

 

 

 全く話が通じない気がする。

 

 

 反論しようとして、しかし結婚が決まっているのならば確かに恋人期間を設ける意味はないな、とも思う。

 

 何だかもう絶対に逃げられない感が半端ない。

 

 断っても断らなくても最終的に捕まっていた気がするが、もう脳にまで大分お酒が回っていたのか、この執着系ヤンデレもジー様の割に積極的じゃのう、と思って笑うゆとりがあった。

 

 

 

 とりあえず今夜はよく考えるという事で曖昧に濁したが、まさか1ヶ月後には本当に仕事を辞めて人妻になってしまうとは夢にも思わなかった。

 

 

 その上肌ツヤが良くなって何故かスタイルまで引き締まり、街中でも買い物にいってナンパをされるという生涯初の経験までしたのだが、嬉しくなってヒューゴに話したら、それ以降殆どの買い物はネットスーパーやショップを利用する羽目になり、たまに出掛ける時もボディーガードばりに張り付いたゴツい旦那様が常時辺りを牽制しながら歩くというどこの姐さんモードになってしくじったと思わないでもなかったが、手を繋ぐと照れて赤くなるゴツい旦那様というのも悪くない。

 

 

 

 だけど、おっぱいを与えている赤ん坊に、

 

「お母さんは、私のだからな。今だけは仕方ないけど、私だけの恵理子だからな」

 

 と呟くのだけは140歳にもなって止めて欲しいと心から思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ハーフエルフのお兄さんにハンカチを貸しただけで嫁フラグが立っていた。 来栖もよもよ @moyozou777

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