「封印されし不死の勇者」   中二病魔法バトル❌現地ファンタジー

すめらぎ

< 序 > 眷属の猫


「くそ! くそ! くそ! あの野郎ぉぉぉぉ!!!!」

静まり返ったこの世界で、声が響いた。

元の世界で最後に見たのは、皮肉にもあの忌々しい魔導士の笑った顔だ。

いつ思い出しても、頭が沸騰して湯気が出てきそうになる。怒りはそれ程だ。

だがストレスを物にぶつけようにも、それは叶わない。

この世界は時が静止したかのようで、傷付け浸食される事を拒むのだ。


あるじさまよ、わらわがいること……忘れちゃおらんか?」


「ん? ミイ、か……」

この世界には俺とミイア以外に生物は存在しない。

聞くまでもない事と知りつつも、怒りが理性にまさって思考を鈍化させていた。


あるじは、尻の穴の小さい男よのぅ。まだ怒っておるんか?」


「当たり前だ。折角、不老不死と成ったこの身だと言うのに……。

  こんな城が一つあるだけの世界に閉じ込められているのだぞ。

  それも、お前と二人だけ……。一体何年経ったと思っているのだ」


「さあ、50年ぐらいかのう。魔族のわらわは、時の流れにうとうてのぅ……。

  それに、この世界と外の世界で、時の流れが同じとは限らんじゃろうて」


「ふんっ。もう、この話はなし、、だ。難しい話は……な。

  クソ。空腹で考え事をすると余計に腹が立つ」


「そういえば、50年間ずっと怒っておるものな。

  ほんに、かわいそうに。空腹でも、、死ぬことすら叶わず……」


ミイアは黒猫の姿に化けていて表情が分かり辛い。

だが、俺をからかって楽しそうにしている事は分かった。

「うるさい、黙れ。お前を煮て喰うぞ」


「おぉ、こわいこわい。あるじさまは、こわい男じゃ」

ミイアはしっぽを振り振り、お尻を振り振り。

そして逃げるようにその場から居なくなってしまった。


勇者である俺は、魔王共々この閉じた世界に封印されているのだ。

封印したのは俺の仲間パーティーだった魔導士の男。そいつ、、、が怒りの元凶げんきょうだ。






氷の衝撃アイス・バースト


氷柱が瞬く間に迫り出し、身長を越す。別に頭を冷やそうという訳ではない。

空腹を紛らわす為、氷を食らうのだ。


炎の槍ファイア・ジャベリン」「風の錡エア・カットソ-


砕いた氷をむさぼる。そして日課となっている魔力の解放の準備をする。

この閉じた世界をこじ開ける為だ。この「」の存在しない世界で毎日、毎日、脱出する気で全力を出すのだ。それを何万回も繰り返している。

魔法の得意ではない俺だったが、この日課のお陰で魔力は桁違いに伸びている。

――きっかけは他にあるのだが。


「ミイア……力を借りるぞ」


≪ 眷属併呑けんぞくへいどん ≫





――冥府に迷いし淳朴なる亡者の嘆きよ、デエアン カオイダ アイル・ナ マリルブ アイル チャルノ アンネス アノ フォザラム

           我は汝らを求め、テハ ミ ガド シヒレアド汝らは我を求めよテハ ツ ガム シヒレアド――


  「「 怨懟呪殺グラッジ・カース 」」



俺がこの世界で開発した、オリジナルの魔法呪術。

  ――呪い殺すのだ。この閉じた世界を!!!!


この世界の封印を解除する事は、現実的ではない。

  ――だから壊すのだ。この陰気な世界を!!!!


解放された魔力が、禍々まがまがしい呪詛じゅそとなり、世界をむしばむ。


「何だ? 今日は……、力が……」

うらみが強かったのか? はたまた眷属のミイアがごきげん、、、、だったからか?

いつもより、禍々まがまがしい。だが俺は躊躇ちゅうちょしない。

持ちうる全ての力を解放し、行使こうしするのだ。


やがて力は、それまで干渉を拒んできた世界を浸食し、そして蹂躙じゅうりんする。

の無き空はひび割れ、木洩こもの如く光が世界を照らす。

天地てんち開闢かいびゃくとでも呼ぶべき事象じしょうに、術者の俺ですらも震え、歓喜した。


だが、天はそこでとどろきを止める。


「くそ! いつも肝心なところでこれだ。くそ!くそ! 俺は……」


絶望する俺の目前が、突如として紫色に染まった。

神々こうごうしい程に美しい髪は、それとは対極の存在である魔王の物だった。


「先ほども申したが、あるじさま。わらわがいること……忘れちゃおらんかえ?」


そう告げ振り向いた魔王、――ミイアの紫に染まった唇は、柔らかい。


あるじさま――勇者アルド。少し力を返してもらったぞよ」


同意の上とはいえ、力を奪われた俺は両膝を突き、地面に倒れ込む。

行く末を見守るべく、仰向けになり天を仰ぐ。

皮肉な物だ、目の前にいるのは神ではなく魔王なのだから。


「「 怨懟呪殺グラッジ・カース 」」

ミイアは両手をかかげ、唱えた。それも俺のオリジナル魔法を……だ。


天は再びとどろき、そして割れた。


「これでも、いたらぬか……」



「ミイア、どけ」

動かぬ身体を無理矢理叩き起こし、立ち上がる。

鈍い痛みからくるしびれが全身を覆っていた。だが、それがどうした?


≪ 魂の真剣ソウル・セイバー ≫


生命力をやいばとする。俺の勇者としての技能スキル。魔王をも討伐せし神技みわざ

不老不死と化した俺であっても、文字通り捨て身の技だ。


右腕が光の剣となり、剣は天へと突き刺さる。

ひび割れていた天は一撃で、みごとに砕けた。


「さすがは、我があるじわらわが唯一認めた男。わらわの、全て……」


静止した世界は動き始めた。

春の到来を待ち構えていた樹木のように、世界は一斉に色付く。


新たな世界を見上げつつ、俺は前のめりに倒れ込んだ。



「力を使い果たし、抵抗は叶わぬであろう? 体は動かず、片腕は壊れておる。

  これでは『再び封印してくれ』と言っているようなものぞ?」


ミイアは不適な笑みを浮かべていた。



――同じだ。

あの忌々しい魔導士の笑った顔と同じだ。

信じていた者、仲間に裏切られる。


「ミイア、貴様もなのか……。

  くそ! くそ! くそぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」


「ゆっくり眠るが良いぞ……――」


力を使い果たし生命力の借金までした反動が、俺を襲う。

――意識が遠のいた。







意識が戻ると、玉座の間だった。

うつ伏せのまま顔を上げると、青白い脚の間から絢爛けんらん豪華ごうか絨毯じゅうたんが見える。

「魔王城? ……か」


「覚めたかえ? ……夢、から」


今度は俺が魔王の眷属にでもなったというのか? 四肢てあしが、動かない。

「ミイア、騙したな? ……俺を」


「騙したとも、……あるじさま、、


体をよじりミイアの顔を覗く。

すると、いつもの俺をからかうニヤケたつらだった。

ミイアは俺を裏切ったフリをして、からかっていたのだ。

もしかすると、俺に警告したかったのかも知れない。『次は油断するなよ』と。

騙されたが悪い気はしない。だが、やられたままというのだけはしゃくだ。


「俺は腹が減って体が動かぬの……か。やはり、お前を喰らう……べきか」


「さぁ、めしあがれ💕」


「気が変った。絶対に俺は喰らわん……ぞ」



つづく


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