死んだ彼女が幽霊になって俺の前に現れたと思ったら、未練解決の手伝いをしろと言ってきた件について

那月ナタ

第1話 死んだ彼女


 ○月☓日。彼女が死んだ。


 思えば、がさつで乱暴でオヤジくさくて、両親思いで優しくて綺麗。そんな女性だった。今でも、なんでなんの取り柄もない俺の彼女で居てくれたのか、さっぱりわからない。

 死因は交通事故。雨の中ボールを取りに行った子供をかばって車と衝突、そのままかえらぬひととなった。

彼女と関わりの深い人間はみんな、なんとも彼女らしい、と、それならばしょうがない、と。まあ、悲しみを抑えて笑ってしまう、そんなひとだったのだ。


「やあ、来人くると。このたびは残念だったね」


 黒いスーツに金髪の髪を後ろに流す、精悍な顔つきの青年がすたすたと歩いてくる。大学の同級生である、薄い微笑みを浮かべている彼は、大変女性ウケする―――まあ要するにモテる―――顔つきをしていているのだが、正直俺は好きではない。

というのも。


「しかし、彼女がなあ。まあ僕を振るくらいなのだから、たいそう大きな幸せを掴むものであると思っていたのだけど、いやあ残念だ」


 まったく陰りが見えない笑みを浮かべながらそういう彼に、残念ながら周りの目は優しくない。なんならちょっと腹立たしく思っていそうな目をしている。主に男限定だけど。

 イケメンが性格まで良いと、矛先をどこに向けていいかわからず結果自分に向いちゃう事もあるので、そういう意味ではありがたいのだが。

 とまあ話は脱線してしまったが、要するに彼は彼女にふられた男、なのだ。そりゃあ彼氏としては気分がいいものではない。あと事あるたびに俺に話しかけてきて普通にうるさい。


「しかし、僕はまだしも、君が悲しそうに見えないのは何故なんだろうね。もしかして彼女のことが嫌いだったり?それとも他に好きな人でも―――」


「―――そこまでだぞ、かい。俺が彼女のことを好きじゃなかったことなんて、付き合ってから一度もない」


「……はは。どうやら地雷を踏んだらしい。失礼したね」


 そう言って櫂は身を翻し、その場を去る。そういう姿まで絵になってしまうのはなんとも腹立たしいものだ。

 いや、正直なところ。アイツの言っている言葉は的を得ていたりもする。

 勿論彼女が死んだことは悲しい、本来であれば絶望するくらい、俺は彼女を愛している。泣きわめいて泣きわめいて、それで今行われているこの葬式をぶち壊しにしてしまう、きっと俺はそうあるべきなのだ。


 ――――――けれど、しょうがないだろう。




「いやぁ。本当に櫂はキモいねー。私に振られたときも信じられないような顔をしていたけれど、なんであんなのがモテるんだろうね」


 ――――――死んだはずの彼女は、早川光はやかわひかりは、当然のように、俺の隣に立っているのだから。








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