34.厳島の戦いの話は、これにて終了でございます。

「では、そろそろ厳島いつくしまの戦いの話を始めましょう」


 大阪城の大広間が、軽い笑に包まれました。

 わたしは、優しくてエライ仁将じんしょう小早川こばやかわさんの話を、ニコニコしながら真剣に聞くことにしました。


 小早川こばやかわさんは、堂々としゃべり始めました。

 

厳島いつくしまの戦いの全容は、皆が知る通りでございます。端的に申し上げますと、厳島いつくしまを占領したすえ晴賢はるかた殿の軍勢を、毛利軍が奇襲ををかけ、攻略した戦いでございます」


 ・・・あかん、訳わからんすぎる。堂々としゃべる小早川こばやかわさんの話は、真剣に聞いても訳わからんすぎる。

 しゃーないんで、わたしは普段通り「笑ってたらなんとかなるかな?」思いながら、ニコニコしながら聞くことにしました。


「さて、二万を誇るすえ軍に、何故、五千に満たない我ら毛利もうりが勝利をおさめることができたか・・・答えは簡単。数の勝利でございます。の勝利でございます。すえ軍の船は500そう、対する我が毛利軍は200そうでございました」


 わたしは、小早川こばやかわさんは算数が苦手なんやなと思いました。500と200なら、500の方が多いんとちゃいます?


「つまり、我らの作戦は、奇襲ですえ軍の兵と闘うのではなくことでございました。奇襲で、すえ軍の船を200そう未満にし、数で勝ることにございました。

 活躍したのは、因島いんのしま村上氏が誇る、焙烙玉ほうろくだまでございます。小早川こばやかわ因島いんのしま村上氏連合軍の140そうの任務は、焙烙玉ほうろくだまの奇襲をもって、すえ軍の船を最低でも300そう討ち果たす事でした」


 わたしは、やっぱり小早川こばやかわさんは算数出来んのやなと思いました。140と300なら、300の方が多いんとちゃいます?


「みなさまお察しの通り、いくら奇襲といえど、140そうで300そう以上を討ち果たすのは、いささか無理がございます。

 つまり、我ら毛利軍は、強力な援軍を味方につけることに成功したのです。

 能島のしま村上氏160そう来島くるしま村上氏90艘の援軍を受けることにより、総勢390そう焙烙玉ほうろくだまの奇襲により、すえ軍の船に壊滅的な打撃を与えることができました・・・以上が、厳島いつくしまの戦いの話のあらましでございます」


 わたしは、算数は苦手なんでようわからんけど、300の船壊すんに、390の船があればええんはわかりました。あと、ケンカは不意打ちが一番ええのもわかりました。


 厳島いつくしまの戦いの話を話し終わった小早川こばやかわさんは、なんでか話を続けました。


「『水、制するするのもは、戦を制す』」


 小早川こばやかわさんは、なんでか、三成みつなりさんの目をジィっと見ながら、話を続けました。


「水を隔てた場所には、船が無いと何も運べませぬ。兵も武器も兵糧も、いっさいがっさい運べませぬ。

 本願寺が信長しんちょう公に降ったのも、鳥取城が関白かんぱく殿に降ったのも、水路が絶たれ補給がままならなくなったため。

 備中高松城に至っては、天才、黒田官兵衛くろだかんべえ殿に計略により、人為的に水の隔たりが作られ、補給が絶たれております。

『水、制するするのもは、戦を制す』・・・どうか、心に置き留めていただきたい」


 小早川こばやかわさんの話を聞いた三成みつなりさんは、目を見開いて、何度もうなづいていました。訳わからん話を真剣に聞いて、何度もうなづいていました。


 小早川こばやかわさんは「ふぅ」とひとつため息をついて、今度は、わたしのことを、チラチラ見ながら話始めました。


厳島いつくしまの戦いの話は、これにて終了でございます・・・ですが、この場は、御伽噺おとぎばなし【すべらない話】の席の話でございます。このまま、おもんない話のまま終わってしまうと、関白かんぱく殿に打ち首にされてしまいます。

 ですので最後に、おそらく私だけが知っている、能島のしま来島くるしま両村上氏との、裏話を以って結ばせていただきたいと存じます」


 わたしは、わたしのことチラチラ見ながら話す小早川こばやかわさんを見ながら、今度こそ真剣に話を聞こう思いました。ニコニコしながら、真剣に話を聞こう思いました。



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