10 羞恥

「まず、俺の名前はサンクシオンだ。よろしく」

「フラム……です」


サンクシオンはアヴリルの騎士だという。

アヴリルとは、アヴニール王国の領地である。今私が住んでいるこのサキュバス街もアヴリル領に含まれている。


っていうことは、このサンクシオンという人は役人さんに近い人なのかな?

騎士ってことは、貴族なのかな?

そのへんよくわかんないや。私、子供だしぃ。


「俺は、領主に頼まれて赤痣を体に持つ人間を探すように言われているんだ。もし見つけたなら報告を、それがもし罪を犯しているのなら拘束して捕らえるか場合によっては殺害も許可されている。そして俺は昨日そいつを見つけて捕縛しようと試みたんだが、結構抵抗されてな。やむなく殺害したというわけさ。嬢ちゃんには刺激が強すぎる物を見せてしまって申し訳ないと思ってる」

「いえ、大丈夫です。確かに怖かったですけども……」


それ以上に、サンクシオンさんのほうが怖かっただなんて言えない。

言ったらまたあの瞳で睨まれちゃうかも……。

話してみたら案外いい人っぽいからそんな事しないだろうけど、私にあの恐怖を植え付けたこの人は、まだちょっと怖い。

というか一緒の部屋に二人だけでいるの怖い。

早く母さん戻ってきてよー。


「だけど、そんなこと私に話していいんですか? そういうのって秘密にした方がいいんじゃ?」


これは領主から騎士への直接の命令である。それを一般人である私に話すというのはあまり良くないのではないか?

特にこういった犯罪者探しの場合、私がふらっと喋ることによって逃げられてしまったり、私が襲われたりなどされちゃうかもだし。


「いや、まあ当然秘密にしてもらいたい。君に話した理由はあるのだけど、それは後で話そう」


サンクシオンは続ける。


「君は『罪人』というスキルを知っているか?」

「『罪人』?」


私はそんなスキルを知らない。でもなんとなくわかる。それは持っていてはいけないスキルなんじゃないかと。

私が知る限り、本来スキルというのは、自分のできること、出来たことを文字化した概念だ。

つまり「罪人」だなんて不穏なワードがスキル化してる人なんて、まともな人間じゃない。

不穏なワードで言えば私の「堕天」もそうだけど、それは私が堕天使だからだろう。え、でもなんで「堕天使」ってスキル名じゃないんだろ。

ま、いっか。


私は昨夜見た「速度の罪人」という赤痣の男しか持ち主を知らない。

「速度の」と付くからには、他の修飾語がついた「罪人」がいっぱいいるのだろう。

そして私が聞いた「転生教」という言葉。

その二つを組み合わせた時、私はある結論に達する。


前世での転生教と、現在の「罪人」。

もしかしたら、転生教の信者はこの世界に「罪人」スキルを持って転生してきてるんじゃないだろうか。

つまり向こうでの転生教の人数だけ「罪人」がこの世界に現れる。

うーん……。

サンクシオンさんに心当たりがあると言えなくもないけど、それには私が前世の記憶を持っていることに触れなきゃいけないだろうなあ。

そうなると、私自身も疑われそう。

実際疑われても、サンクシオンさんの持っている何とかの水晶?ってので、私が罪を犯してないのはわかると思うけど、領主からマークされるようなことはわざわざしたくない。


うん。黙ってよう。

そうしよう。


「『罪人』スキルは、昨日のあの人以外知らないですね」

「まあ、そうだろうな。あんなのがたくさんいたら、俺たちが困っちまう。こういうと悪いが、俺は君が『罪人』なんじゃないかと疑ってたんだ」


わー、ストレートに言ってくるなぁ。

この人バカ正直なのか?

そんなこと言われたら、誰だって不快だぞ。

でもあれ?

疑ってた?

つまり今はもう疑ってないことなのかな。

でもなんでもう疑ってないんだ?


「もう私は疑ってないんですか?」

「ああ、君は『罪人』じゃないし、犯罪を犯したかどうか判別の水晶で見た所青色の表示がでた」

「え、でもなんで『罪人』じゃないとわかったんですか?」


私はつい聞いてしまった。

今のやり取りで私が「罪人」じゃないとわかったのだろうか?


「先ほども言ったように、『罪人』には赤い痣ができる。それは犯罪を犯せば犯すほど広がるらしくてね。俺たちはそれを基準に捜索しているんだ」


サンクシオンは、私から顔をそむけた。


「その……なんだ。昨日の段階で、剥いた」

「……え?」

「だから、剥いた。君の服。そして全身を調べて赤い痣がなかったことを確認している」


私は最初、訳が分からなかった。

え、私全裸にされてたってこと?

え?え?え?

裸見られた?

直後顔が沸騰するほど熱くなった。


「あぁぁぁぁぁぁああああ!!!??」

「す、すまないと思って……ッ!」


バシンッ!


私は彼の頬を思いっきりビンタした。

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