環状道路、あなたの味

春嵐

環状道路

 セックスを断られると、いつも環状道路を車で走る。

 わずかに見える街の夜景や、星空。流れていく。それを見ながら、心を落ち着ける。

 彼女を強く求める気持ちが、どこから来ているかは、よく分からなかった。ただ、満たされない何かが、ずっとある。

 彼女のことは、好きだった。他の女に浮気したくない。ただ、自分の強い欲求は、彼女にそのままぶつけていいものでもない。理解してる。身体は、心があって初めて、交われる。

 環状道路。どこまでも続く。自分の要求と同じ。どこまでも、果てない。

 いま、こうやって走っている間。彼女が、自分ではない誰かと交わっていたら、どうしようか。どうしようもない。自分が認められなかった。それだけ。事実が残るだけ。自分は捨てられて、彼女は別な誰かを拾う。ちょっとだけアクセルを強めに踏んだ。加速感。雑多な気持ちを振り切っていく。

 環状道路。はじめて彼女にセックスを断られたのは、いつだっただろうか。控えがちに、やわらかく、ごめんなさいと言われた。気持ちの置き場がなくて、やっぱり、家を出て車で走った。街は、適当に走ると結局環状道路に行き着く。あのときの感覚は、いつ思い出しても、新鮮なままだった。セックスを断られただけなのに。失恋したときよりも、恋人が死んだときよりも、はるかに大きい感情に揺さぶられたような感じがある。


「あはは」


 ばかみたいだ。失恋したこともないし、恋人が死んだ経験もない。彼女が初めてだし、それはこれからも変わらない。身体ではない。心が、彼女を求めている。だから、セックスをしたい。それだけ。それだけでいい。

 彼女を抱いて。彼女に抱かれて。求めあって。求められて。それがほしい。

 なかなか、心が落ち着かなかった。昼間充電しておいたから、車のバッテリーには余裕がある。走ろう。彼女への満たされない思いが落ち着くまで。

 街の夜景。星空。道路横の点滅する灯り。すべてが、やさしかった。ここにいてもいい。走っていてもいいのだと、思わせてくれる。帰ったら、彼女に謝ろう。なんて謝ろうかな。セックスをしすぎて、ごめんって言おうか。そのあとで、愛を伝えよう。セックスは断られているから、手を握っていいか事前にいて、その上で手を握ろう。一緒にいてくれて、ありがとう。それを伝えるために。


 心が落ち着いてきた。


 そろそろ、帰ろうかな。

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