第20話 祖母
私の祖母と私には血の繋がりはありません。いつだったか、祖父が森で危険な目にあった際に助けてくださったのが、今の祖母でした。
祖母は見たこともない格好をされていて、明らかに異国の出で立ちだったので、言葉が通じるかわからずにいると、祖母の方から流暢な外国語で話しかけてきたそうです。
聞いたこともない言語だと言うのに、何故か意思疎通はでき、不思議に思ったようですが、何度か話をしているうちに意気投合したらしいです。祖父に後で聞いた話では、一目惚れだったらしいです。
祖母は、不思議な方です。どんなに気難しい方や、にこりとも笑わない方でも会えば笑顔になるような懐の深さと、不思議な食べ物で、塔に篭りがちの気難しい魔法使いも手懐けたと言います。
私はこちらに来るまでは、不思議でならなかった祖母のことも、二人にあってからは理解することができました。
二人のお祖母様の写真を見せていただきました。写真と言うのは、私の世界にはありません。あると便利なものですが、普及させるのは大変でしょう。話がそれましたが、その中にいたのは、私がよく知る祖母でした。
二人のお祖母様がどのようにして、私の世界に現れたのかは知りませんが、私は二人が大好きな祖母を二人から奪ってしまっていたのです。とは言え、お返しすることはできません。祖母は、こちらの世界では亡くなられているからです。
祖母は、私達の世界に住むようになってから、魔法の習得を始めました。魔法の訓練は、幼少期から始めることが多く、祖母のように外の世界から来られる方は今までいらっしゃらなかったのです。
祖母には天賦の才能がありました。祖母はたった二年で召喚魔法のような大変な魔法まで習得したのですから。気難しい魔法使いも、その縁で仲良くなれたと聞いています。
そう、話はその祖母に関することなのです。当時、私が消えたことにより、王宮内には混乱がありました。
王太子の婚約者が召喚魔法によって姿を消したのですから。人目も少ないですがありましたし。どこかからの攻撃だと思われました。
実際には、私はのほほんと幸せな日々を送っていたのですが。
私を取り戻す方法として、逆召喚を行うと言う手順が王宮内で模索されておりました。そして、祖母は違う理由があり、蒼と夕実を召喚しようとしていました。
そのタイミングはたまたま、同じでした。だからこそ起こり得た事故でした。
私達はその日、ちょっと不思議な、ことをしていたのです。夕実が、不思議なメイクに興味があり、蒼と私にそのメイクを施してくれていたのです。
本当にたまたまのことでした。居間に集まって話していた私達に大量の光が現れ、私は怯え、蒼と夕実は私を抱きしめ、庇ってくれました。
そして、その結果どうなったかと言うと、夕実は王宮に、蒼と私は祖母の元に召喚されてしまったのです。
光が収まって、目を開けるとそこには祖母がいました。
「あらあら、まあまあ。珍しい組み合わせだねえ。」
さほど驚いていないように見えるのは祖母の特徴でもあります。何でも知っていて、何でも助けてくれる、そんな頼りになる人です。
「え、ばあちゃん?」
目を開けた、蒼が驚いています。孫とは思えない程の取り乱しようです。
「蒼、あんた夕実は一緒じゃないのか?」
蒼はそこでようやく、思い出します。顔面蒼白になっています。私は祖母に尋ねました。
「夕実の行き先に心当たりはありませんか?」
「ここじゃないといいけどね、ってところなら、わかるわねえ。」
召喚魔法が出来る魔法使いは限られています。祖母が規格外なのは、仕方ないですが、今は冬眠中の気難しい魔法使いの方、あとは王宮にいる魔法使いが何人かしか、操れない代物です。
「もしかして、王宮?」
私が言う前に、蒼が口にした疑問について、否定することはできませんでした。
夕実は私の代わりに王宮へ召喚されてしまったに違いありません。
私はすぐにでも王宮に向かうと思っていたのですが、蒼が、口にしたのはそうではありませんでした。
「夕実なら多分大丈夫。嬉々として楽しむんじゃないかな。だから、迂闊なことをせずに、計画を練ろう。皆が幸せになる方法を考えよう。」
ポン、と頭に触れる手が優しくて、安心します。私は心底ほっとしました。本当なら夕実を助けなきゃいけないのです。けれど、甘やかされた私には、王宮に向かうことは最早苦行でしかないのだと、認識していたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます