第41話
下っ端聖職者のガチムチ五人衆は、いざ準備に取り掛かると、かなり動きが良かった。
やっぱり、普段から慣れてるってことなのかなぁ。
薪を準備して、スムーズに火をおこしたかと思えば。
具材を手際よく処理し、鍋に放り込んでいく。
そして、鍋が煮えてくると、すぐに器によそい、貧民たちを整列させて配り始めた。
彼らのコンビネーションは完全に確立されており、俺が手伝えたのは器配りぐらいだった。
俺は配り始めて、すぐに驚いた。
貧民たちの数の多さに、そして、その痩せ細り方に。
防寒には役に立たなそうなボロを身にまとい、なかには年端もいかない幼子も混ざっていた。
そこには、王立学院に通っているだけでは知ることのできない現実があった。
ひとしきり働いた俺が疲れてベンチに腰かけていると、またもハマークさんが俺の横に座った。
アンタ、俺の横に座るの好きやね……。
でも、なるべくなら座らんとってほしいんやけど。
「今日はありがとうございました。おかげで助かりました」
「いや、私はそこまで手伝えていないが……」
「今日のこの状況を見ていただいただけで十分です。なかなか貴族の方に目にしていただくことはありませんから」
そう言うと、ハマークさんが顎で、目の前の難民たちを見るように促す。
人生の敗残者たち。
上にあがる機会が与えられることなど絶対にないだろう。
だが、疲れはてて座り込んでいる彼らに俺のできることは……。
貴族の俺にならばできることが……。
クソッ。
いいように扱われているが、ほっとけるわけないだろ!
懐からだいぶ前に実家の領都で買ったネタ帳を取り出すと、ページを破り、そこに書きなぐる。
そして、書きなぐった紙をハマークさんに渡し、俺は言った。
「田舎で働いても構わない元農民には、そこに仕事があると教えてやれ」
農家のマイクさん。
俺が昔お世話になった、ワドーカ伯爵領でも一二を争う個人地主。
彼ならば、これぐらいの数ならば小作農として受け入れることができるはずだ。
俺は、彼の連絡先を渡したのだった。
……あとで話だけ入れておこう……。
さすがのマイクさんも、いきなりアポ無しで元農民に大挙して押し寄せられたら困るだろうし……。
「結構なことです。これでかなりの人が救われることでしょう」
だが、俺の前には依然として多くの遍歴職人くずれと移民が残されている。
……彼らに職を斡旋しようにも、俺にはツテがない。
そもそも、俺が他人の人生を掬うなどということがおこがましい話なのかもしれない。
だが、見てしまった以上、何もしないというわけには……。
悩みにとりつかれた俺は、手元の手帳を適当にめくりながら、思考をめぐらす。
そのネタ帳には、俺がこの異世界で生きていて、不便に思ったことなどが書きつらねられていた。
これだけの人たちに仕事を与えるだけの新規事業……。
労働力を用いたビジネス……。
そんなものが……。
その瞬間、俺に閃きがうまれた。
この異世界で、ずっと不便だと思っていた。
物流。
もし、そこにメスを入れることができれば……!
ロジスティックス革命。
自分のアイデアの秘めた可能性に、俺は興奮を抑えることができなかった。
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