冷や飯を食わされ過ぎた俺は、今日も冷や飯を食らう

テリードリーム

第1話


『冷や飯』を食わされる人生。

それが今の俺の人生といえるだろう。


日本人の記憶を持ちながら転生したのは良かったものの。

思えば、冷や飯人生は、俺が生まれた直後から始まっていたのかもしれない。


俺を産んでくれた母は、「この世界を救い導くような人間になってほしい」という思いを抱いていたそうだ。


だから、彼女は『メシヤ』と俺を名付けた。

すでにこの時点で、冷や飯を食わされる人生を暗示しているような気がする。


俺が過去に戻れるなら、母にはそんな名前を付けさせない。

だが、俺が過去に戻れるわけもないし、一度与えられた名前を俺の裁量で変える自由が認められているわけもない。

俺は、メシヤと名乗って生きていくことになったのである。


生まれてから一年間だけは平和だった。

伯爵を務める父と、結婚前は侯爵令嬢だった母。

その二人の下で、俺はすくすくと育った。


だが、生後一年を迎え、掴まり立ちを始めたころに、突如として暗雲が立ち込める。


侯爵だった母方の祖父が、降爵して伯爵になってしまったのだ!

なんでも、政敵に足を引っ張られてしまったらしい……。


これにより夫婦仲に微妙な影が差してきた。


もともと、俺の両親は政略結婚だった。

当然、二人の間に愛情などは無い。


成り上がりの伯爵と、由緒はあるが金のない侯爵。

それらはお互いの利益を目的として、成り立っていた関係だった。


その関係のパワーバランスが崩れてしまった。


父は母に強くでるようになったし、蝶よ花よと育てられてきた母のプライドがそれを許さない。

何かにつけて二人は衝突するようになった。


まぁ、破綻すべくして破綻してしまったということですな。

決定的な破局まで二年かかったから、むしろ長く持った方かもしれない。


子供(俺)の前で、家具を投げつけあって両親が喧嘩したり、母がわけのわからんヒステリー起こしたり、父が浮気してるっぽかったり……。

俺が前世の記憶もってなかったら、幼少期の人格形成が歪んでしまっていただろう。


三歳になる頃、母は家を出ていった。

何らかの手続きを経て、夫婦関係は解消されてしまったのだと思う。


で、破綻した後のクソな家庭に、俺は残されてしまったわけですよ。

なぜ、ママンが俺を置いていったのかというと。


俺は伯爵家の嫡男という立場にあった。

仮にも、父の正妻が産んだ第一子にして、初めての男子。


産まれた瞬間は、それはもう大いに喜ばれた。

家中が大騒ぎになり、領内でも祭りが開かれた。

……まぁ、そこが俺の人生のピークだったのかもしれんが……。


このあたりから、最初の冷や飯が始まる。


それまではママンという庇護者がいた。

その庇護者がいなくなったことにより、父の側近たちが俺のことを雑に扱いだすようになった。

時を同じくして、父は、後妻を探すのに精力的になった。


貴族の集まりに顔を出すから、父の姿を見ることはほとんどない。

父の顔を見ないで、穏やかに暮らせる日々が一年ほど続いた。


だが、そんな日々は、突如として終焉を迎える。


ある日、父が、とうとう後妻を連れてきたのだ。


俺の冷や飯人生が、幕を開いた瞬間だった。



■■あとがき■■


※ 2020.12.28 第26話から、本作は読者参加型となりました。

作中に、みなさまのペンネームと似たような名称のキャラクターが登場することがございますが、ご容赦いただけると幸いです。


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