第90話迷宮にある村

迷宮に足を踏み入れ初めて遭遇した魔物はとても懐かしいスケルトンだった。

初めて墳墓のダンジョンで遭遇したスケルトンに比べると動きが速いような気もするけど、スケルトンは所詮スケルトン、アイテムBOXから出した木の棒で頭部を破壊すると灰のように崩れ3センチ程の魔石を残し消滅する。


「なんかスケルトンを倒すと初めてダンジョンに入った時を思い出す…」

「初心を忘れないのはいい事だけど、カツヒコが行ったことあるダンジョンは私の居た墳墓のダンジョンだけでしょ?」


「うん、あのダンジョンだけ、樹の国王都バラムイ周辺にあるって言う迷宮はなんだかんだで行けなかったし…」

「確かにそうね…、あの迷宮もまだ攻略されてないって言うからほとぼりが冷めた頃に攻略してみるのも良いわね」


そうカトレアと話ながらもポツポツと迷宮を彷徨うように歩くスケルトンが現れるので木の棒で頭部を破壊していく。

ルイーズさんもリーズもスケルトンなんか相手にする価値無しと言わんばかりに後方を歩いているけど、自分は久々のスケルトン狩りに勤しんでいる。

一階層はスケルトンしかいないみたいだな…。

まあギルドで仕入れた情報でもまれに剣を持ったスケルトンが現れるけど、殆どは只のスケルトンしか居ないって言ってたし。


苦も無く1階層を突破し、2階層に足を踏み入れる。

事前情報ではスケルトンとゴブリンが7対3の割合で現れるらしい。

うん、余裕で2階層突破だ。


そして3階層、ここに居る魔物もスケルトンとゴブリンで割合が5対5、ただゴブリンが武器として骨を持っている。

それってスケルトンさんの骨を勝手に拝借してるよね?

なんか右腕の無いスケルトンさん混じってるし、とりあえず返してあげなさい!!

どうせ武器を持っても持たなくてもゴブリンはゴブリンなんだから…。


それにしても事前情報で知っていたとはいえ、現れる魔物はスケルトンとゴブリンだけ、それも下層に進むにつれゴブリンの割合が増える以外は特に戦いが困難になる事も無く木の棒で撲殺していく。

たまに剣を持ったスケルトンや短剣を持ったゴブリンが現れ武器をドロップするが、それ以外は得るものは無い。


「1階層から5階層まで来て思ったけど、完全に初心者用だね…」

「そうね、倒しても死体は残らず魔石だけになるから、迷宮から新たに生まれ出ても常に冒険者に狩られてる事で受肉する程長く生き延びた個体は居ないみたいだし」


「いいじゃないか、ゴブリンの死骸を処理する手間も省けて楽だし」

ルイーズさんは完全に飽きたようで暇そうな顔で帰りたそうにしている。


予定よりも早く5階層まで到着したものの、ルイーズさんもリーズもそしてカトレアも事前情報で10階層まではスケルトンとゴブリン、そして稀に大ネズミしか居ないと聞いているのでこれ以上先に進んでも得るものは無いという事で来た道を戻り迷宮の出口に向かう。


5階層まで行ってスケルトンが持っていた鉄の剣が3本、ゴブリンが持ってた短剣4本、1つだけ見つけた宝箱にあった古びたブローチ一個、新人冒険者なら魔石と併せて売ればそこそこの稼ぎなんだろうけど、自分達にとってはお小遣い程度だ。


迷宮の中層付近を探索してる冒険者の気持ちが分かった気がする。

迷宮内にある町や村が居心地良いとかではなく、中層に向かう為に上層で雑魚相手するのがめんどくさいんだ!


そう思いながらも迷宮を出てギルドで換金をすると、買取金額は予想通り合計で銀貨2枚と銅貨5枚だった。

明日は迷宮で必要な物を購入する一日だけど、今日迷宮を見た感じだと何が必要かイマイチ分からないな…。

とりあえず、通常の野営具一式と調理に使う道具や炭でも購入しとけばいいか。


お試しで迷宮に潜った翌日、朝一で鮮魚を売りに行った後、4人で迷宮で必要になりそうな物を購入する為に道具屋を見て周る。

現在攻略されている階層は57階層までで、それ以上はまだ未踏の状態らしく断片的に得た中層の情報を元にしても自分のアイテムBOXにある道具で事足りそうな気がするも、念の為、1つ20メートルのロープを5個と予備のテントを2個、木炭を100キロ程購入しておいた。

魔道具のコンロもあるけど炭火でバーベキューとか捨てがたいし。


そして道具や消耗品を購入した翌日、朝一で鮮魚を売りに行き、その足で迷宮に向かう。

今度は受付で、探索予定期間を未定と記載し、迷宮の最深部を目指す。


迷宮に潜ると日付感覚が狂うけど、恐らくその日のうちに10階層を通過し11階層にある村へ到着した。

11階層は10階層までの遺構型と異なり自然型となっており、階層に足を踏み入れるとそこはだだっ広い草原が広がり中心に川が流れている。

村は中心付近の川辺にあり、川辺を中心に畑が広がり、普通に人が農作業をしている。


「のんびり農作業してるけど、この階層には魔物は…、あっ、やっぱり居るんだね」

とはいえ魔物というより魔獣と言うべき大ネズミのようで、畑に近づくと農作業をしてる人が鍬を振り上げ追い払っている。


「平和だ…。 迷宮の中なのに平和すぎる…」

「まあそうだな、あたしもここまで平和だとは思ってなかったよ。 仮にも11階層って事だから10階層よりも強い魔物か魔獣が居るかと思ったけど大ネズミぐらいしか居ないってなぁ~」

「ほんとですね、大ネズミなら群れで襲われなければ農家の方も問題なく追い払えますし、唯一の問題としては農作物が荒らされるぐらいでしょうか?」


ルイーズさんもリーズも、自分と同じく平和な光景を目にし気が抜けた感じになっている。

カトレアも一応は周囲を警戒しているものの、この階層には大ネズミしか探知に引っ掛からない事で拍子抜けした感じの顔をしている。


「大ネズミは畑を荒らすけど、受肉してれば村人からしたら食肉にもなるし毛皮も利用できるからある意味大切な獲物でもあるってとこかしら」

確かに、冒険者もわざわざこの階層で大ネズミを狩るよりも下の階層に行った方が実りあるだろうから恐らくこの階層の大ネズミは受肉して村人の糧になってるんだろうな…。

よく見ると箱罠とか設置されてるし。


そんな光景を眺めつつ村へ足を踏み入れると、期待していたものと異なり至って普通の村だった…。

恐らく人口は3~400人ぐらいで地上にある小さな村と何ら変わらず、唯一異なる点と言えば宿屋と酒場が普通の村に比べて充実しているぐらいだ。


迷宮内の村だからもっと物々しい雰囲気とか、荒くれ者が多いとかそんな感じを予想してたんだけどな…。

まさか普通の村だったとは…。


とりあえず宿には共同浴場あるみたいだから風呂に入って明日に備えよう。

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