第87話迷宮都市パダーリン 1

日が傾きだした頃、目的地の迷宮都市パダーリンが見えて来た。


この分なら日が暮れる前にバダーリンに入り宿を探せそうだけど、ここでも王都同様に街に入る為の行列が出来ていた。

まあ冒険者だから列に並ばずに入れるから良いんだけど…、それにしても毎回思うけど毎日のように行列が出来るんだから門の衛兵を増やしてもっとスムーズに入れるようにすればいいのに…。


そんな事を思いつつも行列を横目に門まで進み衛兵に冒険者証を提示し迷宮都市パダーリンに足を踏み入れる。

迷宮がありそこから得られる物が豊富な為か、王都にも劣らぬ活気と人混みが目に入る。


「流石迷宮都市と呼ばれるだけあるよね…。 人が多く活気も王都に負けてないみたいだし」

「それだけ人・物・金が集まるんでしょうね、まあ見るからにゴロツキみたいなのもチラホラ居るみたいだけど巡回する衛兵も多いみたいだし治安も良いんじゃないかしら」


確かにカトレアの言う通り、3人一組で巡回する衛兵をかなりの頻度で見かけ、ゴロツキっぽい人も見た限りトラブルを起こしたりはしていない様子だ。

夜になったら治安が悪化するとかありえるけど、昼間は比較的安全ぽいな。


露店などを眺めながら大通りを歩き、門の所に居た衛兵に聞いた高級な宿へ向かう。

それにしても最近大きな都市では高級な宿に泊まってお金を湯水のごとく浪費してるな…。

金銭的にはまだまだ余裕はあるし、ストーンキラービーのハチミツもあるし、当分の間はお金には困らないだろうけど…。


そして紹介された宿の看板を見上げ書かれた文字にため息をつく。

「吉原の夜って…。 ここも召喚者か転生者が創業したか、その知り合いが創業したのか…。 名前が宿と言うより風俗店じゃん!! いやアダルトなDVDのタイトルか?」

「なに、カツヒコ、吉原ってのはカツヒコの居た世界では有名なの?」


「う~ん、まあ有名? 主に男なら多くの人が知ってるんじゃない? 自分は福岡の中洲と川崎の堀之内派だから吉原には行ったことないんだよね…。 大阪では滝井新地派だったし」

「堀之内? 滝井新地? それは地名なのよね?」


カトレアもルイーズさんも、そしてリーズも何をよく分からんと言った顔をしていたけど、夜の町、この世界で言いう娼館と教えると思いっきりため息をつかれた…。

中洲と堀之内の特殊浴場は最高なんだよ! 滝井新地もリーズナブルで若い子が居る時もあるし!!


3人に呆れられながらも宿に足を踏み入れ空き部屋があるか確認し、部屋を確保する。

パダーリンに複数ある高級な宿は、料金形態が他と異なるようで1泊の部屋代が金貨5枚、部屋の広さは最大8人まで泊まれ、食事は宿に併設されたレストランで別料金となっている。

どうやら迷宮を探索する冒険者の中でも上位のパーティーが良く使用する宿のようで1人いくらと言う値段設定ではなく、一部屋いくら、と言う値段設定らしい。


要は迷宮の奥深くまで行き探索できる冒険者にとっては1泊金貨5枚は余裕らしい。


「へぇ~、ここの迷宮は儲かるんだな~」

ルイーズさんが宿のロビーを見回しながら感嘆した声をあげる。


「ひとまず部屋に行きましょ。 ゆっくりお風呂にも入りたいし…」

受付の人にとりあえず5泊と伝え金貨25枚を支払い部屋に向かう。


部屋は8人まで泊まれると言うだけあってかなり広く、大きなソファーがテーブルを囲むように置かれたリビングにベッドが4つある部屋が2つ、5×5メートル程の風呂、そして水洗式のトイレが2つ用意されている。

これで1泊金貨5枚は安いと言うべきなのか?

人数が多いパーティーからしたら安いと言えば安いか…。


自分とカトレアが部屋のソファーに腰掛けアイテムBOXから飲み物を出して飲み始めると、ルイーズさんとリーズはひとまずお風呂と言って風呂場に向かう。

風呂の良さを知ったら定期的に入りたくなるよね…。

まあ自分は毎日でも入りたいけど。


「それでカツヒコ、今後の予定を今のうちに決めておきましょ」

「ルイーズさんとリーズは良いの?」


「問題ないでしょ、どうせ居ても居なくても今後の予定は変わらないんだから」

「んん? それは予定を決めると言わずにカトレアが決めた予定を伝えると言うのでは?」


「そうとも言うわ…。 仕方ないでしょ、ルイーズは明日から迷宮に行くとか言いかねないんだから」

「確かに…、それで行動予定は?」


カトレアの考えた予定は至って普通で、1日目は4人で朝ギルドに行き軽く情報を集めた後に街を散策、そして2日目はアイテムBOXにある鮮魚などがどの程度の価格で売れるか確認し、高く売れる店が有ればそこそこまとまった量を複数回に分けて売却する。

3日目は軽く迷宮を探索して、4日目は武器や防具、雑貨などの買い出しをした後、5目に宿を一旦引き払い本格的に迷宮探索を行うとの事だった。


とは言えその間、迷宮の事や高く売れる魔物の素材、そしてオークションの日程や出品物の傾向なども確認する。

カトレアの予測ではギルドで迷宮の地図は販売してるはずだから上層階の地図は購入し、上層階は早めに突破し中層に向かうとの事だった。

なぜ中層の地図を買わないのかと聞いたら、迷宮の下層はまだ誰も足を踏み入れてないとの噂もあるし、中層も完全に探索され尽くされているか分からない為、中層の地図は当てにならないとの事だった。


「地図ならカツヒコがマッピングすれば良いんだから問題ないでしょ? それにマッピングした地図はギルドで売れるし」

「まあ上位のパーティーが迷宮に挑んでも中層までって事だから、地図があてにならないのは納得だけど、やっぱり自分がマッピングするの? けっこうめんどくさいんだよね…」


そんな抗議の声もカトレアには届いていないようで、しれっとした顔でお茶を飲み干し、「お風呂に入って来るわ」と言い残して風呂場に行ってしまった。


マッピングは面倒だけど確かにお金になるから良いんだけど、魔物が現れる度に中断してアイテムBOXに紙とペンをしまい、倒した後で再開するってのがね…。


カトレアの事だからマッピングだけをすれば良いなんて事は無いだろうし…。

はぁ~、カトレア達が風呂から上がったら自分も風呂に入って寝よう。



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