第63話身請け
「それで? これからどうするの?」
「いやだから、これからレーナさんを縛っている魔道契約書を手に入れて竜の牙の悪事を暴く…」
「だ~か~ら~、どうやって魔道契約書を手に入れるの? そもそも魔道契約書が上書きされていたら証拠にならない可能性もあるのよ?」
「そ、それは…」
言い淀む自分にカトレアはため息をついている。
「本当にカツヒコは何にも考えて無いのね…。 全く…、竜の牙をどうにかするよりも先にレーナって女の子を確保するのが最優先でしょ! 魔道契約書の有る無しに関わらず口封じで殺されたら終わりなんだから」
確かに…。
流石カトレアさん、ごもっともです。
「じゃあまずはレーナさんの確保だね。 娼館で働いているって事は身請けと言う形で買い取る事も可能って事だし」
事も無げにそう言う自分にバイルさんが驚いた表情でこちらを見ている。
「ま、待て、ファインお前、身請けって言っても金貨数枚とか数十枚で出来るもんじゃ無いんだぞ! 相手にもよるが最低でも金貨数百枚以上かかる場合だってあるんだ。 そんな金…」
「数百枚ってぐらいならなんとでもなりますよ。 最近数えて無いから分からないけど最低でも6~7百枚以上はもってますから」
バイルさんも流石に自分が金貨数百枚も持っているとは思ってなかったみたいでポカンと口を開けて固まっている。
そうだよね…。
15歳になって村を出て冒険者になって数か月で金貨数百枚稼ぐ人なんて普通居ないもんね。
「じゃあカツヒコ、これから娼館に行くわよ。 丁度夜だから店も開いてるし、店主も居るでしょ。 さっさと行って身請けして来るわよ」
そう言ってカトレアは席を立つと、ルイーズさんもそれに続き、宿を出て娼館が立ち並ぶ区画に向かう。
前世では、仕事の関係で出張先にあった、川崎のお風呂屋さん街も、吉原のお風呂屋さん街も、金津園のお風呂屋さん街も、中州のお風呂屋さん街も、別府のお風呂屋さん街も行ったことあるけど異世界の風俗街は初めてだ…。
レーナさんの身請けが目的だけど、どんな所かしっかりとチェックしておかないと!!
カトレアやルイーズさんの目を盗んで遊びに行くためには下調べが必要だしね。
って、カトレアに睨まれた…。
口には出してないはずだよ。
カトレアって人の心読めるの? それとも顔に出てた?
いや、自分は前世でもポーカーフェイスで何を考えているか分からないとよく言われていた人間だし、下調べをって考えてるなんてバレてない…、うんバレてないはずだ…。
娼館のある区画に足を踏み入れると、そこは他の区画と違い夜だと言うのに店や道端の灯篭のようなものから光が溢れまるでここだけ昼間のような雰囲気を醸し出している。
やっぱり異世界でも風俗街は変わらないんだな…。
でも店の造りは自分の居た日本の風俗街と言うより時代劇で見る吉原のような感じだ。
薄着の女性が客を引き、外から見えるように待機している遊女が道行く人に流し目を送る。
耳をダンボにして周囲の会話を聞く限り、やはり店には複数のランクがあり、娼館のある区画の外側は安い店、そして中心部に向かう程高く質の高い女性がいるらしい。
薄着で客引きをしている遊女は外側の安い店の女の子で自分で客を捕まえているらしいけど、暗黙の了解でもあるのか、一定の場所以外では見かけなくなる。
確か昔は歌舞伎町にあるキャバクラのキャッチも縄張りみたいなものがあってあの電柱から電柱までとか決まってて、それを越えて声をかけると別の店のキャッチから怒鳴り声が飛んで来てたけどそんな感じか…。
そしてしばらく進むと、一軒の店の前でバイルさんが足を止めた。
バイルさんの視線の先には、感情の無い虚ろな瞳で道行く人を見ている一人の女性が座っている。
「れ、レーナさん?」
一瞬、誰か分からなかった…。
記憶にあるレーナさんはいつも笑顔だった。
だけど目の前に居るレーナさんは笑顔も無いどころか肌に艶も無く、薄い服から覗く素肌には所々あざのようなものまである。
恐らくバイルさんは何度も足を運んだんだと思う。
再生した右手だけでなく両手の拳を強く握りしめ、拳は小刻みに震えている。
「あの人がレーナか…。 じゃああたしがちょっと交渉でもしてくるぜ」
ルイーズさんはそう言うと躊躇なく店に入り、入り口で受付をしている男に声をかけ店主を呼び出している。
ルイーズさんに続き店に入ると、遊女たちは客が来たと思ったのか、声を出し誘惑をする。
「坊や~女は初めて? ならお姉さんが優しく教えてあげるわよ~」
「そこのお兄さん、私と遊ばなぁ~い」
最初に入店したルイーズさんにも遊女は声をかけている。
ルイーズさんを男と思ってる? それともこの世界では普通の事なのか?
こんな時なのにバイルさんにコッソリと聞いてみると、どうやら娼婦も居れば男娼も居るらしい。
異世界は百合もBLもありか…。
百合はありだけどBLは無いわ~、だって自分男だもん!!
ってまたカトレアに睨まれた! 今度はバイルさんも睨まれたようで2人そろって目を逸らす。
店主と話をしているルイーズさんに目を向けると、店主も身請けと言う話に乗って来ているようで値段交渉に移っている。
あれっ? なんか竜の牙の息がかかってたりして交渉が難航するかと思ってたのに意外とすんなり話が進んでる?
そう思って成り行きを見ていると身請けの価格は金貨50枚と予想より安い価格で話がまとまりかけていたがルイーズさんが魔道契約書も引き渡すように店主へ言うと、店主が引きつった表情になる。
店主はレーナさんとは魔道契約書を結んでないと何度も言っているがルイーズさんは負けじと魔道契約の反応がある、Aランク冒険者を騙す気か? と反対に脅すような感じで店主に詰め寄る。
「やっぱり竜の牙が圧力か息がかかってて魔道契約書を出し渋るか~」
そう言って溜息をつく自分の言葉を否定し店主が魔道契約書は無いと言う理由を説明してくれた。
魔道契約書を結ぶ場合は、両者の合意が必要なうえ契約を破ると契約書に込められた魔力が破った方に向けられて呪いのように身体を蝕み身体が弱ったりし最悪死に至る場合もあるから双方が契約を破らないだろう範囲で通常は契約が結ばれるらしい。
だけどレーナさんの場合、明らかに自分の意思どころか思考すら奪われている状態であることからレーナさんに不利な契約内容を強制的に合意させ契約させた可能性があるから店主が渋っているだろうとの事だった。
もちろん国としても魔道契約を黙認しているものの明らかに不審な契約を結んでいる場合は調査もするし場合によっては罪に問う事もするらしく、出し渋るという事は明らかに不自然な契約を結んでいる可能性が高いからだろうな…。
ルイーズさんの圧に屈したのか店主は渋々と言った感じで魔道契約書を持って来た。
ルイーズさんは店には迷惑をかけないようにするとは言ってるけど、店主は契約書を証拠に訴えられないかとビクビクしている感じじゃなくてルイーズさんに対して怯えてる気がする…。
ルイーズさん、店主さんに何言ったの?
明らかに不審な契約と思われ店主が出し渋るような契約書を出させるってどう考えても脅してますよね?
まあ脅してだろうと魔道契約書が手に入ればいいんだけど。
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