第61話追憶2

間欠泉の洞窟に潜り始めて4日程経ったのだろうか、どの程度の深さまで潜ったのかは分からないが現れる生き物も、カエルや蛇などから巨大なトカゲや中には鱗に覆われたゴブリンなど見た事も無い魔物まで現れるようになり、さらには石の槍や斧を持ったリザードマンまで襲って来た。


それから2日ぐらい経っただろうか、マッピングをしながら洞窟を進んではいるがやはり自分達がどの程度まで深く潜っているのか分からないぐらいだ。

竜の牙メンバーによると現在位置は間欠泉の洞窟上層に位置する場所との事で、中層、下層になると、リザードマンの数多くなり、毒を持つ生き物や魔獣なども現れるらしい。

アイテムバッグももうすぐ一杯になると伝え、一旦街に戻る事を竜の牙のリーダーであるバインソンに相談すると持ち運べる量が一杯になっても洞窟やダンジョンで探索するのは無駄だから良い判断だと言い、今回の探索を終了し洞窟の出口を目指す事になった。


出口を目指し始めてすぐにレーナが疲労困憊な顔をしているのでバインソンと話をし安全な場所を確保しその場で野営の支度を始める。


一番若いレーナの疲労がピークのようだが他のメンバーは余裕があるのでレーナとアマンダ、そしてヤランが仮眠を取り、俺とダルムで見張りをし、途中でアマンダとヤランに見張りを交代してもらい俺とダルムが仮眠をとる。

竜の牙リーダーのバインソンはこれも良い判断だと言って俺達から少し離れたところにテントを張り休憩をとるみたいだ。


焚火をし、仮眠を終えたアマンダとヤランに見張りを交代してからテントで横になる。

自分ではまだ大丈夫と思っていたが疲労が蓄積していたのか目を閉じるとそのまま眠りについてしまった。


「な、何しやがる!!!」

ドッス!! ボキ!! バキ!! ドサッ!!


テントの外が騒がしい。


「バ、バイル…、に、にげ…」


普段とは違う弱々しいアマンダの声が聞こえ、途切れた事に疑問を持ちダルムが慌ててテントを飛び出し俺も後に続く。


テントを出て目にしたのは、後ろから刺されその後首を斬られたのか、胴と首が離れこと切れているヤランと、全身傷だらけでうつ伏せに倒れ背中に剣を突き刺されているアマンダだ。


「な、何をしている!!」

ダルムが大声で怒鳴り、メイスを構え、直後俺も剣を抜き構えるが、目の前の光景に頭が真っ白になる。

ダルムの怒鳴り声でレーナも起きたのかテントから出て倒れているアマンダとヤランを見て悲鳴を上げた。


「おいおい、何をしてるって? 授業料の徴収だよ…、それにしても良い顔だなぁ~、信頼した相手に裏切られどん底に突き落とされた時の顔、そそられるぜぇ~。」

「な、何を言ってるんだ!! こんな事許される事じゃ無いぞ!!!」


バインソンに向かってそう言うと、竜の牙の面々は、大声で笑いだす。

「お前ら本当に馬鹿だな!! 期待の星なんて言われCランクへの昇格も間近と言われるフォレストがご自慢のアイテムバッグに獲物満載で目の前に居るんだ、当然色々と教えた対価として授業料を貰うって言ってるんだよ。 もちろん命もな!!」


そう言うとバインソンは得物の斧を両手に持ち、指示を出すと竜の牙の奴らが一斉に襲い掛かって来る。

ヒーラーとは言え腕力に自信のあるダルムがメイスを振るい相手を牽制し俺が剣で反撃をするも5対2という数の劣勢を覆せず相手の連携の前に浅いながらも傷が身体に刻まれる。


「キャー!!」

突然後ろから聞こえた悲鳴に振り向くとレーナが羽交い絞めにされ剣を首におしつけられている。


「さて、あの女の命がどうなってもいいのか? 武器を捨てろ!!」

「クソッ!! 卑怯な…。 武器を捨てたところで俺たち全員を殺すつもりだろ!」


「そうだな、あの女、レーナと言ったか、上玉だからアイツだけは生かしてやってもいいぞ、まあお前らは殺すがな!」

バインソンがそう言うと竜の牙の面々は耳障りな声を上げ笑い始める。


メイスを握りしめ、反撃の機会を伺っていたダルムが突然膝をつき何が起きたのか目をやると腰の辺りに矢が1本刺さっている。


「ヒャァハァァァ!! 早く解毒しないと数分もしないうちに毒が全身に回るぞ~!」

恐らく途中から岩陰に隠れていたのだろう、弓を持った男が岩陰から姿を現す。


「ひ、卑怯だぞ!!!」

「卑怯? 魔物に襲われても同じことを言うのか?」


そう言うバインソンに剣を向け斬りかかる。

「おいおい、女がどうなっても良いのか?」


その言葉にハッとし動きを止めたその時、バインソンの持つ斧が振り下ろされる。

ドシュッ!!  ボタッ!!


レーナの事に気を取られた直後、その隙をバインソンにつかれ剣を持つ右腕を切り落とされた。

右腕を押さえ、転がりながら距離をとり左手で腰から短剣を引き抜くも、直後バインソンの斧が左肩から右の腰の方に振り降ろされた。


「ぐぁあぁぁぁ!!!」


「おお~、まだ生きてるか、普通は腕を斬り落とした時にショックで死ぬ奴が多いんだけどな…、 まあこれで頭をカチ割れば終わりだ!!」

バインソンが斧が振りかぶり、俺の頭を目掛け振り下ろそうとする。


「いや、やめて!!!!! なんでもするから!! いう事を聞くから!! だ、だからバイルを殺さないで!!!!」

レーナの声が洞窟内で木霊する。


ドッス!!!

鈍い音がし、直後絶命したダルムが崩れ落ちる。


「な、なんで…、何でもするって…、いう事聞くて言ったのに…」

涙でぐしゃぐしゃになった顔のレーナが弱々しく声を絞り出し絶命したダルムを見る。


「おいおい、お嬢ちゃん、殺さないでって頼んだのはバイルだろ? こいつを助けてなんて聞いてないぜ」

「そ、そんな…、酷い…」


その場に崩れ落ちそうなレーナを竜の牙の2人が羽交い絞めにし無理やりバインソンの方に連れて行く。


「それで、何でもするって具体的にどうしてくれるんだ? まさか口だけか? まあお前の態度次第でコイツが死なないようにポーションをぶっかけてやってもいいだぜ?」

「ど、どうすれば…」


「そうだな、まずは俺達全員の相手をして貰う。 その後はその体で稼いでもらおうか!!」

「そ、そんな…」


ドッス!!!

「ぐぁあぁぁぁ!!!!」

竜の牙のメンバーの一人がバイルの足に剣を突き刺し傷口をえぐるように剣をねじり、激痛の為かバイルはそのまま気を失ったように動かなくなった。

バイルの悲鳴を聞き、涙でぐちゃぐちゃになった顔をあげ、レーナが言葉を口にする。


「ああぁ? 聞こえねえよ!! なんだって?」

「何でもする…。 いう事も聞くから…。 お願い! バイルを殺さないで!!!」


「ブワァハハハハァ!!! これりゃ傑作だ!! 期待の星と言われるパーティーのリーダーが女に守られるとはな!! いいぜ、だがお前が心変わりをしないとは限らないからな、この魔術契約書にサインをしたら直ぐにでもポーションをぶっかけてやるぞ!」

「そ、それは…」


レーナも魔道契約書がどのような物かは聞いた事がある為、目の前に突き出された魔道契約書を前に言葉を失う。


「いいのか? このままだとアイツはもうじき死ぬぞ? 俺達が提示する条件はバイルにポーションを使い死なないようにする事と、殺さないという事だ、後はお前がすべて俺のいう事を聞くという条件を飲めば契約成立だ! で、どうするんだ?」

「か、書きます。 サインをしますからバイルを助けて…」


震える声でそう言葉を絞り出し、震えながら魔道契約書にサインする…。

契約が完了した瞬間、レーナは人形のようにだらりと身体から力が抜け、意思を失ったように虚ろな目になる。


「さて、とりあえず契約だからな…。 おい! こいつにポーションをぶっかけて死なないようにしてやれ! これで死なれたら魔道契約不履行で俺に反動が来るからな!」


指示を受けたメンバーがバイルの傷口にポーションをかけ止血し、口にもビンを突っ込む無理やりポーションを飲ます。


「これで、契約は果たした。 まあ俺達が殺さないってだけで魔物に喰われて死ぬかもしれないがな」

バインソンがそう言うと、竜の牙の面々がその場で大笑いをする。


「おい! さっさとこいつらの荷物とか身ぐるみ剥いで洞窟を出るぞ! ブロームのギルドにこいつらが突っ走って魔物に殺されたって報告して他の街に行って装備やアイテムバッグの中身を売りさばかないと金にならないからな…」


そう言うと、フォレストメンバーの装備を剥いで死体を洞窟の奥に捨てていく。


「バインソンさん、コイツも洞窟の奥に捨ててきますか?」

そう言いバイルを槍の石突でつつきながら問いかけると、バインソンは首を横に振り、もう少し入り口辺りまで運んだ後、短剣だけ残して放置すると伝える。


何で? と言う仲間にバインソンは万が一冒険者がここに来た際、仲間の死体と共にポーションで治療されたバイルが居たら怪しまれるから多少なりと入り口の方まで運ぶと伝え、フォレストのメンバーが殺された場所から数百メートル程離れた場所にバイルを放置し洞窟の外を目指し歩き出す。


「今回は良い収穫だ!! ブロームで報告をしたら他の街に行って、物を売り、この女を楽しんだ後、コイツも売り飛ばせばいい金になる。 これがあるから辞めらんねーんだよなぁ~」


腕を引かれるレーナの感情のない表情をみながらバインソンはそう言うと竜の牙の面々も同様に下卑た笑いをし、洞窟内に耳障りな声が木霊していった。

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