第60話追憶1

俺がリーダーを務める冒険者のパーティーメンバーが知り合ったのは俺が冒険者を始めた15歳の時だった。

まあその時レーナはまだ13歳で冒険者登録も出来ず、俺が生まれ育った孤児院で魔法の練習に明け暮れていたけど、手伝いと称しFランク冒険者である俺達が行う街中での雑務を手伝ってくれていた。


パーティー内で決めた約束事、依頼は手を抜かずしっかりと。

その事を胸にギルドで依頼を受け、天気が悪い日などはギルドの資料室で薬草や食べれる木の実、野営の基本等様々な事を勉強し、常時依頼である薬草採取なんかに出かける事もあった。


とは言え、はじめの頃は薬草採取も上手くいかず、反対にゴブリンやオークに追い回されたりと散々な事もあったが、メンバーのヤランが探知のスキルを身に着けた事で、効率よく魔物を回避し、薬草を採取したり、魔物を狩ったり出来るようになり、俺が冒険者登録して1年後にはEランクに昇格した。


お互い初めての出会いは劇的なモノではなく、ただ街中の雑務依頼が一緒になり、その際に意気投合しただけという間柄だったけど、1年、2年と行動を共にするうちにお互い信頼関係がうまれ、魔法使いであるレーナが15歳になり冒険者登録した時には、一心同体と言える間柄になっていた。


レーナが加入してからは、俺をリーダーとして魔法使いのレーナ、大剣使いのアマンダ、ヒーラーのダルム、弓使いでシーカーを兼任するヤランの5人でフォレストと言うパーティーを組んだ。

何でフォレストって名前にしたかというと、響きが良かった事と何より恵みを与えてくれる森の感謝をする気持ちを忘れない為にそう名付けた。


パーティーを組んでだ最初の頃は、ブローム街周辺での採取やゴブリンやオーク狩りをして経験と実績を積み、俺が19歳の時からは、春から秋にかけてルミナと言う村に行き採取や狩りをして、冬場はブロームに戻り依頼を受けると言うスタイルで安定した収入を得られるようにもなった。


本当だったら高くて手が出せないようなアイテムバッグを引退する冒険者から手ごろな価格で買えたのが安定収入に繋がったといった感じだが、それでも金貨50枚と言う額は一括で払いきれず、3回に分けて支払う事でなんとか譲ってもらえた。

そしてこのアイテムバッグは特殊で状態保存効果のある代物だった事もあり、春から秋にかけて自然が多く、かつ獣や薬草なんかも多いと冒険者の間で有名なルミナ村へ行き、冬になる前にブロームの街に戻って薬草や獣の肉、毛皮等を売る事でブローム周辺で活動するよりも多くの収入を得ることも出来た。


俺達がルミナ村へ行くようになった次の歳、昨年同様に宿を取り、併設された酒場で夕飯を食べていると、まだ7~8歳にも満たない子供が給仕をしているのが目についた。


孤児院育ちの俺とレーナは自分達の境遇と重ね合わせ、恐らくこの村の孤児院の子供が施設の運営費の足しにと働いていると思っていたが、ある日声をかけてみると、どうやら親に15歳で成人したら村を出て行くように言われており、その為に今から金を貯めているとの事だった。

子供を追い出す親を怒鳴りつけたい衝動に駆られるも、自分達も乳飲み子の時に親に捨てられた身であり、貧しい村などでは口減らしの為に子供を森に捨てたり、養子と称して売る親もいる事を考えると15歳になるまでは養育するという親がまともに思えた。

本当なら子供を捨てたり売ったりしないで済む世の中だったら良いんだが、世の中そううまくはいかないのが現実で歯がゆい気持ちになった。


朝、朝食を摂って森に向かおうとすると、昨晩酒場で給仕をしていた子供が、宿の庭さきで木の棒を振って素振りをしていた。

子供の遊びと思っていたが、次の日も、その次の日も素振りをしていたし、何より驚いたのは素振りをする前に村の周りを走り込んでいてその後に素振りをしていると聞いた時だった。

俺があのぐらいの歳の頃は毎日遊び惚けていたのに村を出て行くように言われているとはいえ目標を定めている事に胸を打たれたんだと思う。


その翌日には少し早起きをし、俺はその子供に剣の握り方、振り方を教えていた。

ただ驚いたことにその子供、ファインと言うらしいが、誰に教わった訳でも無いとの事だったが握り方も振り方も様になっていて、筋力が付けば普通に剣も振れるんじゃないのかと思うぐらいだった。

とは言え動きは直線的なので、その翌日からは実戦に近い素振りを教えた。

そんな俺を見てか、フォレストのパーティーメンバーも魔法を教えたり弓を教えたりすることが日課のようになってしまった。

とは言え、俺達と同じように思った冒険者もいたようで、日によっては冒険者同士で誰が今日ファインに何かを教えるのかと言う取り合いのようなものまで発生したぐらいだ。


手の空いた時にファインの修行を見ながら日中は森で採取や狩りをする。

そして冬が近づいたらブロームに戻り街を拠点に活動し、主にオークを狩り、冬場餌が不足して人里や畑を荒らすゴブリン退治なんかをし、ギルドでも期待の星なんて言われてDランクに昇格し順風満帆の日々だった。


そしてその翌年、またルミナ村へ行くとファインが酒場で働きながら自分を鍛えていた。

ファインにはまだ早いと思いつつも、土産に買って来た鉄剣を渡すと、すごい喜んでいたけど、やっぱり筋力不足なのか予想通り振る事は出来なかった。

だがあれだけ喜んでくれると量産品の剣だがその中でも一番良さそうな剣を選んだ甲斐があったと思え自分達まで嬉しくなってくる。


その翌年はヤランが探知を覚えたら森へ同行させてやると約束をした為か、ルミナ村へ着くとファインが探知を覚えたと言って向こうからやって来てくれた。

親に許可は取っているみたいだから安全を確保しながら同行をさせたが、弓の腕も上達していて自分の探知で発見したウサギを弓で仕留めた時はファインの成長速度に驚きもした。


その翌年も、森に同行させてゴブリンなんかを狩らせてみたが、以外と手際よく倒し魔石の取り出しまで行っていたので15歳になったらフォレストに勧誘しパーティーメンバーに加えようかと言う話になったぐらいだった。


その年、冬になる前にブロームの街に戻り一晩休んだ後で、ルミナ村を拠点にして得た物を換金しようと仲間と共にギルド買取カウンターの順番待ちの列に並んでいたところ、不意に声をかけられた。


声をかけて来たのは竜の牙と言うBランク冒険者パーティーリーダーのバインソンと言う男で、ギルドで期待の星なんて言われている俺達に足りない経験を積ませたいとの事で、ブロームから徒歩2日程の場所にある洞窟型ダンジョンの探索をしようとの事だった。


急な話であり、高ランクとは言え見ず知らずの冒険者パーティーからの誘いを最初は訝しんだが、酒を飲みながらバインソンや他のメンバーと話を聞いているうちに、この冒険者パーティーはDランク冒険者を中心誘い経験を積ませて無理な探索、無理な狩をしない様、また効率の良い探索方法などを伝授し、有望株の死傷率を下げたいという事で定期的に冒険者へ声掛けをしているとの事で、パーティーメンバーも今まで経験した事ないダンジョンでの探索などいい経験になるからとこちらから同行をお願いし夜まで語り合った。


翌日、竜の牙のパーティーと街の入り口で待ち合わせをしダンジョンへ向かう。

これから向かう洞窟型のダンジョンは間欠泉の洞窟と言われ、ダンジョン内の至る所で水が湧き、水辺を好む魔物が多く、最下層は一面水に覆われて水龍が住むともいわれているらしい。

本当は昨日のうちにルミナ村で得た薬草や獲物をギルドに売るつもりだったが、なんだかんだで夜まで飲み明かしたせいで売りそこなった感じだがアイテムバッグの容量にはまだ余裕があるので、明日出発すると言われても帰ってから換金すればいいやと二つ返事で答えてしまった。


間欠泉の洞窟までの道のりは順調で、竜の牙メンバーからは洞窟内での注意事項や現れる魔物の傾向、倒し方などをレクチャーされた。


ブロームを出発し2日目、間欠泉の洞窟に着くと、入り口で1泊し、翌朝から探索を開始する。

到着したの時間は昼前ぐらいだったのでこのまま洞窟を探索しようという自分達に竜の牙のリーダー、バインソンにはダンジョンなどに入る際は必ず休息を取り満を持して望まないと痛い目に合うと注意を受けた。

どうやら初めてダンジョンや洞窟に挑む冒険者は俺達みたいに到着してすぐに探索を開始し怪我をしたりする事が多いらしい。


一晩、洞窟前で野営をし装備の確認などをした後、翌朝から洞窟に潜る。

間欠泉の洞窟と言うだけあって洞窟内のそこら中から水が湧きだし水たまりが多くあるが、これだけ水が湧き続けたら洞窟が水没してしまわないのかと疑問に思うもどうやら魔力が洞窟内に湧き出る水に影響を与え、その魔力によって洞窟内もそれなりに明るくなっているらしい。


探索を始めて1時間、巨大なカエルや蛇を仕留め更に奥に進む。

ダンジョンや洞窟内では昼なのか夜なのかが分からなくなるので、常に安全な場所を確認しつつ、疲れたら休む、誰かが眠くなったらそこで探索を一旦やめて順番に見張りを立てて睡眠をとるというように奥へと進んで行く事を心掛けるようにとも教えられた。

ダンジョンや洞窟では全員が常に最善の状態で動けるようにしておかないと足元をすくわれると口を酸っぱくして言われた。


そんな言葉にこれまでの採取や狩りの際、失敗した場面を思い出すと思い当たる節があり、納得すると同時に竜の牙のパーティーへの信頼が強くなった。


この探索で学べることを貪欲に学んでもっと上を目指さないとな…。

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