第55話逃避行
持って来た中樽、大樽すべてを満タンにしアイテムBOXに収納し帰ろうかと思っていると、カトレアの姿が無い事に気付く。
「ルイーズさん、カトレアは何処にいった?」
「ああ、あそこだよ、さっきローヤルゼリーを採って来ると言ってビンを持って登って行ったよ」
そう言って指さす先には、眠りについている女王バチの近くにある黄色いハチミツとは違う、乳白色のローヤルゼリーを採取するカトレアの姿がある。
「この巣をよじ登ってあそこまで行ったの? なんか帰ってきたらハチミツまみれになってそうなんだけど…」
「まあそれは大丈夫だろ、魔纏で体を覆っているからハチミツまみれにはならんだろうし。 それにしてもストーンキラービーのハチミツは旨いな、以前少し口にしたものよりコクも甘みも段違いだ」
そう言いながら巣盤を切り取って笑顔で齧りついているルイーズさんが周囲を見回し、そして引きつったような声を上げる。
「カツヒコ、魔力はまだ残ってるよな? これはヤバいぞ!!」
引きつった声でバトルアックス構えるルイーズさんに続き周囲を見ると先ほどまで眠っていていたはずのハチが起きだして動き始めている。
ライトの魔法で巣の中は光に満ちている事が原因なのか、予想よりもハチが早く目覚め始めたみたいだ…。
慌ててカトレアにハチが起きだしたと伝えると、「じゃあもう一回眠らせとけばいいじゃない!!」との返事が返ってき、カトレア自身は魔纏があるから大丈夫と言わんばかりの風でローヤルゼリー採取に没頭している。
ルイーズさんに護衛を頼み、両手に魔力を集め睡眠魔法を全力で噴射する。
動き始めたハチの一部は再度眠りに落ち動かなくなったが、完全に覚醒したハチが自分やルイーズさんに向かって攻撃をしてかけて来る。
最初は単独で向かって来たハチも起きだしたハチが増えると編隊を組んで襲って来る。
ルイーズさんは全力で動き回りバトルアックスでストーンキラービーを両断しているが、覚醒するハチがどんどん増えて行く。
「カツヒコ、睡眠魔法使ってるのか? 全然眠らないぞ!!」
「使ってますよ!! 飛んでる最中に眠って墜落するように地面に落ちるハチも居ますし、魔法は効いてるはずですよ!! 多分この広い部屋に睡眠魔法を充満させられないんだとおもいます!!」
自分とルイーズさんの奮闘を他所にカトレアは悠然とローヤルゼリーの採取を続けている。
「カトレア、自分とルイーズさんは撤退するけどカトレアは撤退しないの?」
「あと5本で持って来たビン全部に詰め終わるからそれまで待ってて!! まあ本当にヤバいんだったら撤退してもいいわよ」
呑気な返答にルイーズさんと目を合わせると、どうやらお互い困ったような表情をしていたようで盛大にため息が漏れる。
「カツヒコ、とりあえずこのままだと目覚めるハチが多すぎて完全に囲まれる! 先に撤退するぞ!!」
ルイーズさんはそう言うと、巣の入り口の方に向かって進みだす。
自分は睡眠魔法を噴射し続けているが、そんな自分を守りながら進むルイーズさんの腰のあたりをストーンキラービーの針が掠る。
針が掠った腰から血が流れ出し、直後ルイーズさんの動きが鈍る。
「ルイーズさん、解毒薬飲んで、すぐに解毒魔法をかけるから!!」
慌てて左手でルイーズさんに解毒魔法をかけ、右手では睡眠魔法を噴射し向かって来るハチを眠らせる。
ルイーズさんも解毒薬を飲んだのか、すぐに立ち上がりハチ達をバトルアックスで切り伏せていくも、先頭を行くルイーズさんの身体に傷が増えて行く。
左手でルイーズさんに解毒魔法をかけ続け右手で睡眠魔法を噴射しながら入り口の通路までたどり着くと今度は自分が
通路と言う空間では睡眠魔法は効果てきめんで飛んでるハチが眠り墜落するように地面に落ちる。
巣を出て岩山を下りその下でカトレアを待つと、しばらくしてハチが纏わりつき丸いハチ玉に足が生えた状な状態のカトレアが出て来た。
「ルイーズさん、あれで怪我一つないって絶対おかしいですよね…」
呆れた様子でそう言うと、ルイーズさんも同意するかのように頷いていた。
岩山を降りて来たハチ玉となったカトレアに睡眠魔法を噴射し纏わりつくハチを眠らせると、カトレアが満足そうな顔をしながら戦利品でるローヤルゼリーの入ったビンをいれた布袋を渡してくる。
アイテムBOXに収納し、岩山を後にしようとすると、カトレアがふと思い出したかのようにとんでもない事を口にする。
「とりあえずまずは急いでフェロモンと匂いを落とさないと数日ストーンキラービーに追っかけまわされるわよ!!!」
平然と言い放つカトレアにルイーズさんと自分が驚いた表情をしていると、巣を襲撃した相手に対し、フェロモンを付け追跡して襲撃し再度巣を襲われないようにする習性があるらしい。
ルイーズさんもこの事は知らなかったようで、先程までの達成感に満ちた顔から焦った顔になって川を目指し森の中を速足で進みだす。
カトレアは魔纏で全身を覆っていて傷一つ付けられていないので当然フェロモンも付着していないけど、ルイーズさんは何度もハチの針や顎が掠り怪我をしていたし、自分も返り血ならぬ虫汁がかかっているので、恐らくフェロモンがべったりついている可能性が高いので明るくなったらストーンキラービーの集団に襲われる可能性が高い。
「水魔法で頭から水をかぶれば匂いとか落ちるんじゃない?」
「そうね、完全に匂いが取れるんのならそれでもいいけど、人間が感じ取れないフェロモンや匂いで追って来るのよ? 少しでも落としきれてなかったらどうなるか分かる?」
そうなるか…、間違いなくハチに襲われる。
カトレアは良いとして、自分とルイーズさんはストーンキラービーの針も顎も防げる程の魔纏は使えないし、自分に至っては恐らく針で紙を貫くぐらい簡単に魔纏を貫通され致命傷を負うのが目に見える。
そしてなにより予想外だったのはあまり長時間巣に入っていた感覚は無かったが、意外と長時間巣の中でハチミツ採取をしていたようで、あと3~4時間で夜が空けそうな時間だことだ。
「川か池を探して全身を洗って匂いを落とそう!!」
そう提案すると、ルイーズさんを先頭にして暗い森を小走りに走る。
探知には夜行性の獣がハチミツや虫汁の匂いに釣られ追って来ていて恐らく足を止めれば一斉に襲い掛かってきそうな雰囲気だ。
森を走る事、数時間、空がうっすらと白みだした頃には、自分達と一定の距離を置きながら追って来る生き物もかなりの数になっている。
「カトレア、後ろから追いかけて来てる魔物か魔獣を先に駆除しないと水辺に付いて体を洗ってハチのフェロモンを落とすどころじゃなくない?」
「そうね、ただ今から追って来ているのを駆除してたらハチにすぐ追い付かれるわよ」
「じゃあどうしろと?」
「そんな事は自分達で考えなさい!! この程度の事も切り抜けられるようにならないと先が思いやられるわよ!!」
いや、カトレアさん…。 Aランクの冒険者であるルイーズさんですら切羽詰まった表情してるんですけど、それをサラッとこの程度って基準おかしくない?
心の中で抗議の声を上げつつ、先頭を行くルイーズさんの後を追う。
「ちなみにルイーズさん、この先に川とか池とかあるんですよね?」
「そんな事、あたしが知るわけ無いだろ。 だが森を出ると関係ない人を巻き込む恐れがあるから森の外へは出れないからな、全力で水辺を探してるんだよ」
いやいや、ノープランですか!!
てっきり水辺を知ってるから先頭を走ってるのかと思ったけど、まさかの行き当たりばったり!!
そして走り続けているとカトレアの探知にストーンキラービーの群れが引っ掛かったようで後ろから声がかかる。
「来たわよ~!! 大体2~300匹ぐらい、このままだと1時間もしないうちに接触するわね」
「いや、1時間って早くない? しかも2~300匹って完全に防ぎきれないでしょ!! 無理じゃん!!」
「いや、水辺は近いぞ! この先に川がある! あたしの空間把握で確認できた!!」
まさに地獄のどん底に垂れる一本の蜘蛛の糸と思える言葉に安堵するもつかの間、ルイーズさんが見つけた川を見て体中の力が一気に抜ける。
「終わった…」
そう口から言葉が出た…。
目の前にある川は幅が約1メートル程、深さは3~40センチ程ぐらいしかない小川だった…。
「いや、ここでのんびり水浴びとかしてる余裕ないから!! どうするの?」
「迎え撃つか…」
自分の言葉にルイーズさんも諦めたような表情で小川を眺め、バトルアックスを握りしめる。
「はぁ~、あなた達はバカなの? 下流に向かえばいいだけじゃない! 川は下流に行くほど水量も増えるんだから、全身をを沈められる場所ぐらいあるかもしれないでしょ! そんな事も思いつかないの?」
カトレアの言葉を聞き、確かにと思うのもつかの間、川辺で足を止めた為、後ろから追って来ていた魔獣や獣が樹の影からチラホラ姿を現した。
いや、マジでこっちは時間が無いんで勘弁してもらえませんか?
むしろ自分達と一緒に居ると巻き添え喰いますよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます