第50話王女の憂鬱

朝になるとメイドが起こしに来て服を着せてくれる。

自分一人でも服は着れるんだけど王女ともなると着替えもメイドにさせるのがこの世界では普通らしい。

今朝も数十着の服のなかから今日の気分にあう服を選ぶよう頼まれ、選んだ服を着させられ髪を整えられる。

そして朝食を摂る為に部屋を出るとメイドたちは無言で私の後をついて来る。


テーブルに着くとこれが朝食? と聞きたくなるような数多くの料理が並べられ、それをその日の気分で食べたいと思った物を少しずつ口に運ぶ。

当然並べられた料理を全部食べ切れるわけもなく、テーブルに並べられた料理の大半は残ったままだ。

そして食事が終わると今度は城内にある訓練場へ足を運び、この国の王である父から武技の稽古を、お抱えの魔法使いからは魔法の手ほどきを受ける。


そして昼になったらまたテーブルを埋め尽くす様々な料理から食べたいものを食べたいだけ食べ、その後は礼儀作法、ダンスの稽古だ。

礼儀作法はまだしもこの世界のダンスは社交界で音楽に合わせ男女がペアになって踊るだけ、言うなれば社交ダンスをゆったりとした音楽に合わせいかに優雅に踊るとという私にとってはダンスとは言えないようなものだ。

激しい動きはもってのほか、王女として可憐にかつ優雅にリードをする男性に合わせらるよう何度も練習をさせられる。


そして稽古が終わると今度は貴族の令嬢とのお茶会。

呼んだ覚えも無いのに毎日毎日貴族の令嬢がやって来て、他愛もない話をしている。

今日もお綺麗とかお召し物が素晴らしいとか思っても無い事を媚びへつらうように言われ、それに対し「貴女のお召し物も素晴らしいわ」とお世辞を言い合うだけで私から話しかける事も無く、ただ話を聞き、愛想笑いをするだけの退屈な時間だ。


そしてそれが終わると、再度この国の王である父とお抱え魔法使いに武技や魔法の手ほどきを受け、その後、テーブルを埋め尽くす様々な料理の中から食べたいものを食べ、お風呂に入ってメイドに髪や身体を洗ってもらい、自室に戻り寝る。


王女、末娘ではあるけど側室の子ではなく正妻の子とあって王位継承権は3人の兄に続き第4位、その上父と母との間では諦めていたところに生まれた子とあって側室の子である姉たちと比べるとかなり溺愛され欲しい物を言ったら数日中には用意されるほどだ。


確かに…。

確かに王女や貴族令嬢に転生してセレブライフを送りイケメンを侍らせるってのには憧れてたけど、悪い虫は近づけないとか言われイケメンと知り合う機会は無いし、毎日毎日同じことの繰り返し…。

ハッキリ言って退屈以外の何物でもない!!

ただ溺愛されてる事を逆手に取って、結婚相手は自分で決めると宣言したらすんなりと受け入れられた。

これで変な貴族のボンボンと結婚させられたり政略結婚の道具にされる事だけは回避できた。

適齢期になった側室の子である姉たちは貴族とのつながりと言って父が決めた家に嫁行かされるので、自分で選べるというだけでも僥倖だ。


朝食を終え、午前の稽古をする為に訓練場へ行、国王である父に思い切ってお願いをする。

「お父様!! 私は旅に出て世界を見て周りたいと思います! どうか旅に出る許可をください!!」


訓練場に響く私の声、そしてそれを聞き、小刻みに震える父、我が子の成長に感動しているのかな?

だけど、そんな淡い考えを打ち砕かれた。

「フーレイゼちゃん!! 何か不満あるの? パパの事嫌いになっちゃった? 誰かにイジメられた? そんな思い詰めるような事があったならパパにいつでも相談してね。 パパがフーレイゼちゃんをイジメる奴をやっつけるから!!」


…。

……。

ダメだ…。

この親ばかは私がこの退屈なお城暮らしが嫌なのを理解していない…。

多分、この世界で王族として生まれ恵まれた生活が当然と言う風に何の疑問も持たない人間ならではの回答だ。

だけど私は違う。

この世界ではない地球という惑星の日本という国で生まれ育ち26年、物や娯楽が溢れた中で生活していた私としてはこのただ贅沢をするだけで満足している人達とは良くも悪くもどこか考え方がずれている。


それは王族の娯楽にも表れていて、数百人の騎士を引き連れダンジョンに狩に生き、騎士が弱らせた魔物にトドメを刺すだけの狩を娯楽としているし、社交界を開き表向きは笑顔で友好的に、そして裏では腹の探り合いをして楽しんでる人達だ。

私の退屈なんて理解できるわけがない。

今でも週に1回は狩に連れていかれるけど、魔物や魔獣に剣や槍を突き刺した時の手の感触は何度経験しても不快でしかないうえ周囲はお世辞なのか拍手をしたり私を称えたりし不快感がさらに増す。

そんな私の心を誰も理解してくれない世界。


そもそも何で私はこんな所で王女をやってるの?

普通に大学を出て就職して働いてたのに…。


そう、ぼんやりとだけど覚えているあの日まで。

金曜日という事もあり週明けバタバタしたくないから残業して仕事を先に進めて、家に帰る途中、駅の階段を下っていたんだ。

その時、酔っ払いが階段から足を踏み外しただけでなく、よりによって私の服を掴みそのまま私まで一緒に階段から転げ落ちた。


上着は破れ、上半身半裸のような格好で倒れている私を酔っ払いの連れは気に留める事も無く、首が変な方向に曲がって明らかに死んでそうな人に必死に声をかけていたし、近くに居た若者やサラリーマンは私を介抱してくれることも無く携帯で写真や動画を撮影していた。

薄れゆく視界の中でそれだけは覚えている。

もちろん私の服を掴み階段からの転落に巻き込んだ酔っ払いの顔はしっかりと覚えている。


そう、アイツのせいで私は日本での生活を突然終わらされ退屈な王女生活を強いられているんだ。

このテレビも無い、スマホも無い、ネットも無い、それどころかそもそも電気すらない世界に。


そしてこの世界では8歳になったら神から与えられるギフトと言う物があり、なんか私は「探求」と言うなんと言ったらよいのか分からないギフトを与えられた。

私に何を探求しろと言うのよ!!


今私が探求、探し求めたいものは、私をこの世界に転生させた張本人がこの世界に居るのかどうか。

そしてこの退屈を抜け出す事が第一目標ではあるけど、この世界に酔っ払いも転生していれば、まずは正座させて思いっきり説教をし謝らせたい!!


その為には何とか父を説得して旅に、それが無理なら王都を自由に散策できるようにならないと…。


あの酔っ払いめ!!

私の人生を滅茶苦茶にしたうえ退屈な王女に転生させた罪を償わせてやる!!!


確か薄れ行く意識の中で酔っ払いの連れが、「かつ・こ」と名前を呼んでいたけど…。

恐らく転生してれば、私同様に違う名前を付けられて育てられているから記憶があてになるとは思えないけど絶対に正座させて説教し責任を取らせてやる!!!


その為にはまずあの親馬鹿を親父をどうにかしなきゃ…。

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