四、 只屋

これは爺さんがずっと口にしてた話じゃ。


爺さんが言うには山ん中に大きな蔵を備えたボロボロになった屋敷があるらしく、

そこに行けばなんでも「タダ」で手に入ったそうじゃ。


大きな蔵の中には色んなものが置かれとる。

物欲しそうに手に取れば、蔵ん中におる主が、

「要らん要らん、タダじゃ、持ってけ!」

と言いおるらしい。


金なんて要らん。

主が「タダじゃ、持ってけ」と言うとる。

だからしばしば仲の良い者たちを誘っては一緒に行っておったらしい。


行く回数が増えるにつれ、呼び名がないのが不便と誰かが言い出しおった。

だから誰かの言った「只屋」と呼ぶことにしたそうじゃ。

只屋通いは半年に一回が三か月に一回になり、

それが毎月に変わるのもそんなに遠い話ではなかったらしい。


ある時、仲間連れで蔵の中を漁っていると知らん誰かの声が聞こえたらしい。

「主よ、この活きの良いのは要るんか、要らんか?」

すると主はすぐに

「要らん要らん、タダじゃ、持ってけ!」


主に勝手に売られたと思った爺さんたちは、慌てて蔵ん中から逃げ出したそうじゃ。


あとのことは知らん。


じゃが、今でも山ん中で蔵らしきものを見たと言う者はおる。

そこが爺さんの言う「只屋」なのかも知れんねぇ。

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