第11話 キャラバン隊、北へ(一)
元の職場の皆に盛大に見送られ、重い尻を蹴り出された格好で出発した我らキャラバン隊。
自宅を出て北上し阪神高速北神戸線へ入る、この先は中国自動車道へ接続し吹田からは名神高速、一路東を目指す。
世間では明日から大型連休、主要な高速道路や行楽地では渋滞が見込まれるため、混雑しそうな太平洋側は避け東名高速へは進まず米原から北陸道に入り日本海側へ抜ける予定。
まだ時間が早かったせいで宝塚のトンネル前で軽く渋滞、その先は混雑こそしていたが比較的順調に進行、多賀サービスエリアでクロマル最初の休憩とカリカリの夕食、自分もフードコートで買い食い。
米原ジャンクションから北陸道に、交通量はがくんと少なくなり対向車すらまばら。
この辺り地図上では琵琶湖の東岸の様に見えるが大半が山の中で湖はほぼ見えない、道路照明も少なくウネウネのアップダウンとトンネルで楽しい区間ではない、夜ばかり走っているせいもあるが。
北海道苫小牧行きのフェリターミナルがある敦賀を過ぎ、石川県に入ったあたりの尼御前サービスエリアで休憩。
夜なので何も見えないが海がすぐ近くのはず、歩いてサービスエリアを抜け林の中をヘッドランプ装着してクロマルの散歩。
本日はこれまでとし、ここをキャンプ地とする。
といってもテントを張るわけではなく、まずクルマの後部座席の荷物を足元と助手席に移動させレバーを引いてシートバックを倒す。
次に荷室に設えた寝台の上に置いていた板(カットしたカラーコンパネ)を倒した背の部分まで滑らせ、三つ折りのマットレスを広げてから寝袋を展開すると、長さが不足気味だがだいたいセミダブルくらいのスペースのベッドが完成。
板はシートバックと前席との隙間を埋めかつフラットにするため、マットレスが展開しきれず端が折れ曲がっているが、そのほうがクロマルの落下防止になり具合がいい。
車外で待たせていたクロマルを抱えあげて乗せてから自分も寝台に這い上がってドアを閉める。
しばらくクロマルとスペースの奪い合いのいざこざがあったが、やがて二名とも眠りに。
翌朝5時起床、起きたくて起きるわけではなく、その少し前からクロマルが蠢きだすため。
海の方へ散歩に行き、帰りに隣接のコンビニで買物、クロマルと買ってきたパック牛乳をシェアし自分はブラックコーヒーに混ぜてカフェオレにする。さらにクロマルはカリカリ、自分はドーナツで朝食。
北陸道は金沢あたりまで海沿いを進み、能登半島の付け根あたりをショートカットして富山に入る、また海沿いに戻り新潟までしばらくはこのまま。
クロマルの2時間ルールもあり、急ぐ道中でもないのでこまめに休憩をはさみながら北上。
この辺りはスキーに行くために何度か通ったことがある、白馬方面なら糸魚川、妙高志賀方面なら上越までだったが。
やがて北陸道の未知の区間に差し掛かる、小腹がすいたので米山サービスエリアのサバサンド買い食い、うまかったが朝食にパンがでなかったのにご不満のクロマルに半分くらいカツアゲされる。
新潟中央ジャンクションから磐越道へ、列島を横切り太平洋側に向かう。
ここまでの道程もそこそこあったが新潟はこの先もまだ続いている、地図で見ればわかるがとにかく新潟細長い。
後に神戸へ帰る際、秋田までのフェリーでそこから先を自走したことがあったがうんざりした、東名の静岡区間や山陽中国の山口区間も長いが、はるかにそれ以上。
新潟を出て福島に入った頃、早起きさせられたせいで眠くなってきた、磐梯山サービスエリアで寝台広げてがっつり昼寝、トイレ済ませたクロマルも同衾。
1時間ほど経過した頃、聞いたことのないアラート音、携帯キャリアからのエリアメールの着信。
クルマで寝ていたため感じなかったが大き目の地震があったらしい、福島に入ってナーバスになっているのに心臓に悪い、今いる裏磐梯なら原発がらみは大丈夫だと思うが。
ちょうどいい目覚ましにもなり移動再開、さてどこを目的地にするか。
東北の震災の跡を見てみたいというのが陸路での北上を選んだ最大の理由、すでに1年以上経っているので生々しさはなくなっているだろうが、残った空気を感じてみたい。
ただ、そもそも土地勘がないうえに被害の範囲が広すぎてどこを目指せばいいのかが漠然としすぎ、全ては津波のせいだが太平洋岸の数百キロなので規模が違う。
築が14才の時に神戸でも大きな地震があった、明け方にドーンという衝撃のあと家がワサワサと揺すぶられ、棚のものが降ってきた。
空はヘリコプターが飛び回り、あちこちから煙が上がり、地割れした道路からは水が吹き出し、漏れたガスの臭いも漂っている。
被害で象徴的なのが橋脚が折れ倒壊した阪神高速、廃墟になった三宮の街。
自宅のあるあたりは山を削って造成された住宅地なので大きな被害はなかったが、少し行けば倒壊したり焼け焦げた建物はいたるところにあった。
親戚や直接の友人に犠牲者はいなかったが、その関係者レベルなら大勢が亡くなった。
母には止められたが、時間があると自転車であちこち見て回った、チマチマと築き上げてきたものが一瞬にして消え去ってしまうのを目の当たりにする。
単なる野次馬は批判されるべきだが、修羅場を実際に目にしたり体験すると人生観が変わる、テレビでだけでなく現場に行く価値はあると思う。
目的地を決めかね、比較的行きやすそうなところということで石巻を目指した、検索していると石ノ森萬画館というのが引っかかったせいもある。
郡山ジャンクションから東北道に入り仙台方面、高速降りて松島の海岸を少し散歩して、石巻市街に入る。
すでにこざっぱり片付けられてはいたが仮設感は否めない、市役所が商業ビルに間借りしているのは被災したためではなく元からそうらしい。
仮面ライダーやらゴレンジャーやらあちこちにキャラクターの像がある、鳥取は境港の水木しげるロードみたいな感じ、どっちが先かは知らない。
しかたのないことだが石ノ森萬画館は閉館中、宇宙船のようなハリボテチックな外観だが下部はしっかりしたRC造なので耐えたのだろう、近くの橋の手すりはグニャグニャのままだった。
石ノ森章太郎はマンガ界の巨人ではあるが作品をほとんど読んだことがない、手塚治虫作品なら代表作はだいたい読んでいるのと対象的。
特撮やアニメはさんざん観ているし、キャラクターは愛されているのだが。
すでに薄暗くなってきたので、コンビニで買い物してからほぼ来た道を戻り再び東北道へ。
被災地に自衛隊車両はつきものとはいえ多い、さらによく目にするのが仮設トイレを満載したトラック、時期的に避難所とかではなく復興現場行きかな。
仙台から先は道路事情が悪くなってきた、継ぎ目のところを埋めたのかボコッと盛り上がった箇所が多数ありピョコンピョコンと走行、不快クロマルにも不評。
岩手県に入り、すっかり夜になったころ岩手山サービスエリアに到着、本日はここまでということで。
自分はフードコートで夕食、コンビニで買い込みクーラーボックスに入れていた缶ビールも持ち込む、もう運転しないので飲んで悪いことはないのだが隅っこの目立たないところで隠れるように晩酌。
パンが少ないとクロマルから苦情が入っているので、これもコンビニで買ったスティックパンをカリカリとは別に支給、ちぎって与えられるので便利。
寝床をセッティングして早々に眠りにつく、明日は少し寄り道してから北海道へ上陸だ。
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