第3話 衝動買い再び
昼近く、なんとか想定外の雪の罠からやっとの思いで抜け出した。
結果から言えば、あんなに雪があったのは自分のものとなった土地の周辺だけ。
血路を切り開いたつもりで舗装された町道まで出たら、すでに大半は融けていたし、周囲を見てもうっすら雪化粧程度。
帰りの道中も山間部でこそ路肩に白いものが残っていたが、路面は完全ドライ。
一体あれは何だったのだろう。
今夜、神戸の自宅へ帰るため、苫小牧東港発で敦賀港行のフェリーに乗船する。
クロマルは往復で述べ4回目の船旅、船では落ち着いてというか諦めておとなしく乗ってくれるが、ここで困るのはトイレ。
家でも室内ではしない、必ず外、しかも散歩とセット。
同じ日本海航路で小樽発の舞鶴行もあるのだが、その航路の船にはデッキにドッグフィールドがまだなかった。
夜に済ませてから乗船し、朝まで我慢していただいて、ペットルームのケージから飛び出すクロマル。
廊下に出てすぐのドアを開けるとサイドデッキ、手すりの向こうは海。
そこからぐるっと回り込むと、出入り口の付いた柵で区切られたドッグフィールドがある。
走り回らせるには手狭でドッグランといえるほどではないが、有ると無いでは大違い。
あちらこちらクンクン臭いを嗅いでまわり、ようやくコーナーの辺りで大量放出。
立木があるわけもなく、ただのスペースでは的がない、パイロンか何か置いておいて欲しいところだ。
蛇口とホースに掃除道具もあるので、流して後片付け。
戻りしなのサイドデッキでいきなり腰をかがめたので、雑巾代わりにポケットにねじ込んでいたペットシーツで辛うじてキャッチ、大物の方も完了。
このドッグフィールド、船の甲板なので仕方ないとはいえ足下は鉄板、天気がいいとアチアチになりそうだ。
悪天候時は使用できないし、11月から3月の冬季間もダメなのは残念、今回とんぼ返りに近いスケジュールだったのもこのせい。
ペットルームで朝メシを食わせ、「またな」といったん解散。
自分の船内スペースにて、コンビニで買い込んでいたサンドイッチ等でこっちも朝食。
ここからは2、3時間おきにお坊ちゃまの様子を見に行き、ガス抜きに外へ出してオヤツ、到着までこの繰り返し。
船内では他にすることもなし、大半はネットも繋がらないのでダウンロードしていた電子書籍の積みマンガを消化。
あとは昼寝して風呂入って、またもクロマルのご機嫌伺い。
日も暮れ、スマホのバイブで溜まっていたメールの受信を知る頃には能登半島辺り、もう一息。
敦賀港から高速のインターはすぐ、その前に港の埠頭の辺りで夜釣り中の釣り人の後ろをウロウロと散歩。
そしてインターを少し通り過ぎ、舞鶴方面への国道へ入った辺りのガソリンスタンドで給油、コンビニで買い物しそれからインターへ引き返す、行き交う車もまばらな北陸道を南下。
クロマルには2時間ルールというのがあって、高速だと2時間おきに散歩の要求がある、それが一般道だと1時間ルール。
サービスエリアが近づくと吠えだすこともある、道路標示を理解してるのか?
米原で名神に入り多賀SAの王将で遅めの夕食、西宮からは阪神高速。
深夜遅く、ようやく帰り着いた我が家、ちょっとした音をたてるのもはばかられる時間帯。
待ち人もない静かな家に入って、さあ風呂でも入れるかというタイミングで吠えるクロマル。
寝る前の散歩の要求、途中SAやPAで何回も止まったのはすべてノーカンということらしかった。
「容赦なしか、散歩の鬼め!」
疲れた体に鞭打って、ルーティンのコースをグルっと回らされたのでした。
翌朝も6時に催促されたことは言うまでもなし。
帰ってきて数日は疲れを取るためゴロゴロしていた。
有給消化中とはいえ、仕事関係のメールを処理し、リモートでのトラブル対応。
さすがに深夜に電話で叩き起こされることはなかったが。
落ち着いてから、今後の移住の予定について考える。
まず、住むところをどうするか。
土地はあって温泉も出るはず、だが家はない。
電気は工事の際に仮設で引かれ、それが切り替え手続き等はあるだろうがそのまま使える。
水井戸も温泉のついでに掘ってもらうことになっている。
なのでライフラインに関しては最低レベルは確保されている
さしあたり小屋を建てて当面の住居とするつもりだが、もちろん大工仕事の経験はない。
でも今はネットで色々な情報を得ることができる、ブログだったり動画だったり。
その中から自分にできそうなものをさがし、やってみるつもりだ。
そして今後の資金計画。
春に母をガンで亡くし、両親とも公務員の家庭で遺産というほどのものはないが、生命保険やら貯金やらでそこそこの金額を相続した。
これらは土地と工事で大半を使ってしまってもうない。
家はさして大きくもない建売りの一戸建てだが、こちらもさらに以前に父が亡くなった際にローン抱き合わせの保険で完済済み。
最悪手放せばまとまった金額になると思うが、まだそのつもりはない。
こんな使い方をされ、母は草葉の陰で泣いていると思うが、父は面白がって応援してくれると信じている。
自分は江戸っ子ではないが宵越しの銭は持たずにあるだけ使ってしまうタイプだ。
それでも天引きの財形貯蓄がいくらかと、食費という名目で母に徴収され自分名義の預金になっていたもの、現在自由にできる金はほぼこれだけ。
あとは給料が2回と年末のボーナスが支給されるはず、在職7年では退職金は雀の涙であろう。
以上が、現在の資産と当面の収入予定だ。
それに対し、買いたい物がいろいろとある。
まず大工道具、思いつくだけで鋸、金槌、ノミ、鉋等の手工具に、丸ノコ、インパクトドライバー、ジグソー、サンダー等の電動工具。
これらは必需品、細々したものやさらに大型の工作機械も必要になるかもしれない。
そして、四輪駆動の車。
今回、後輪駆動のボルボでは無理だと悟らされた
スタッドレスタイヤは履いていたものの、新雪にタイヤは空転し、お尻フリフリのたうつようにしか走れなかった。
地上高が低いのも問題で、雪がバンパーより深いと押して山を作ってしまい、いずれ動けなくなる。
除雪や圧雪された道路なら問題なく走れるのだろうが、原野生活には不安要素以外のなにものでもない。
東京や関西の都市部ではランクルとか誰が乗るんだって感じだが、ああいったクロカン車が必要とされる土地が国内にもあるのだった。
こういったことを考えるのは楽しい。
工具類はネットで探し、ポチポチポチと注文。
車は新車は予算的に厳しいので、中古車サイトと雑誌で探す。
これまでは関心がなかったので知らなかったが、ランクル等クロカン車は中古でも高い。
100系、200系は避け、70系かプラド、あとはパジェロで探すがピンと来るのはない。
高年式低走行車は新車と大差なかったり、国内販売がなくなった70系はプレミア的な高値。
手が届きそうなのは十年以上前の登録で走行十数万キロといったところ、それでもいいお値段。
中古車雑誌の方をパラパラめくっていてふと目に止まったのが、レンジローバー。
四駆界のロールスロイスと呼ばれることもある高級車。
丸目から角目になった2代目のモデル、やはり十数年落ちだが200万以下でゴロゴロ。
同じ中古車でも面白くもなんともない車買うならこっちじゃね。
比較的近い中古車屋の在庫、よし見に行こう。
で、行ってきました。
若造の冷やかしと思われただろうが、それでも運転席に座る、ナンバー無しで試乗はできなかった。
なんとも言えないいい感じ、上質なレザーに囲まれリビングのソファーに座っているかのよう。
色々と聞いたが、この時代の英車は電気系がダメでまずエアコン、そして確実にエアサス。
エアコンは効かなくても走れるが足回りは困るな。
金属バネにコンバージョンもできるらしいがそれにウン十万、すると実質価格が跳ね上がってしまう。
心地よい室内空間に名残惜しかったが断念。
では次に行くことに。
次とは?
レンジローバーがありなら、あれもいけんじゃねと、探すとあった。
ゲレンデヴァーゲン!
昨今は芸能人にも人気でゲレンデで通じるようになっているが、わからない人にはベンツのジープといえばいいだろうか。
軍用車そのままを市販したかのようなW460型から、民生用にマイチェンしたW463型。
その初期タイプで、日本に右ハンドル仕様で正規に入ってきた希少なモデル。
ゲレンデはその後永らく左ハンドルのみで、クリーンディーゼルモデルとともに右ハンドルが復活した。
中古車屋にあったのはワインレッドいやバーガンディーかの300GE、こちらはナンバー付き。
試乗させてもらい、近所をぐるっと一周。
確かに古いし、あちこちヤれてる、でもいいものはいい。
世の中にはアガリの車というものがある。
ある人にとっては、いつかはクラウンだったりGT-Rだったり。
またある人にとってはフェラーリだったりロールスロイスだったり。
スゴロクにたとえ、段々とステップアップして最後にたどり着く車という意味。
四角くて道具っぽい車が好みの自分にとって、これはまさにアガリの車。
これに対抗できるのはハマーくらいか、偽物でなくハンヴィーのほうね。
はい、お買い上げです。
お値段は車検が1年半残ってて、新車のジムニーくらいでした。
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